表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/12

第1話:マブダチへの送辞、そして崩壊


三月吉日。俺たちの通う中学校の体育館は、厳粛な空気に包まれていた。

窓から差し込む春の日差しが、舞い上がる埃をキラキラと照らしている。

在校生、保護者、来賓。体育館を埋め尽くす全員の視線が集まる壇上には、モーニング――に見せかけた漆黒の追加装甲を厳重に纏った学校長・加藤起太郎が立っていた。俺たちの誇る「メカ校長」である。

『えー、卒業生の諸君』

マイクを通さない内蔵スピーカーの重低音が、体育館の隅々に朗々と響き渡る。

校長は、赤く発光する機械の瞳をゆっくりと巡らせ、俺たち一人一人の顔を見渡した。

『君たちは、本当によくやった。この三年の激闘を、ワシは片時も忘れん。時には厳しく指導し、時には共に悩み……裏世界で共に命を懸けて戦った』

校長の声が、かすかに回路の震えのようなノイズを帯びる。

会場の保護者たちは「熱心で情に厚い先生かしら」とハンカチを濡らしているが、裏事情を知る俺たちボランティア部のメンバーには、その言葉の重みが痛いほど分かっていた。

深夜のプール、文化祭の怪異、そして校長の死と、まさかのサイボーグとしての復活。そのすべてが、俺たちの共有した青春の「秘密」だ。

『ワシにとって、君たちは目に入れても痛くない(物理的には硬いが)孫のような存在だ』

校長が一呼吸置く。

ウィーン、と滑らかな駆動音を立てて首を回し、少し照れくさそうに、けれど力強く言葉を紡いだ。

『……いや、違うな。「孫」ではない』

校長は、演台をバン! と鉄拳で叩く。強烈な衝撃で演台に見事なヒビが入る。

『君たちは、ワシの最高に最高の――「マブダチ」だ!!』

一瞬の静寂。次の瞬間、体育館は爆発的な歓声と拍手に包まれた。

来賓席では高校生OBの溝渕先輩たちが「うおおおっ! 校長ぉぉぉ!」と男泣きを炸裂させている。

俺、古田降太も、鼻の奥がツーンと熱くなるのを止められなかった。

八十歳のサイボーグと、十五歳の俺たち。年齢も種族も超えた、最高の友情が確かにここにあった。

卒業生の歌『旅立ちの日に』が響く中、俺は隣で澄んだ声を出す櫻子先輩の横顔をそっと見つめた。

その美しい瞳は、まっすぐに未来を見据えている。

(……綺麗だ)

歌いながら、俺の脳裏に三年の記憶が走馬灯のように蘇る。

ボランティア部での奇妙な活動。

先輩がスマホの画面の中にいた頃の、日本縦断弾丸旅行。

広島の平和公園、倉敷の美観地区、六甲山の夜景、恐山の荒涼とした大地、鳴門の渦潮。

あの時、画面越しの先輩は「世界は広いわね」と無邪気に笑っていた。

そして、つい先日の霧ヶ峰高原。

ようやく生身の身体を手に入れた先輩が、高原の風に髪をなびかせていた姿。

『風が、私の輪郭を撫でていくのが分かるわ』

そう言った時の、泣き出しそうなくらい愛おしい笑顔。

先輩はもう、学校の怪異なんかじゃない。一人の人間として、今日この学び舎を巣立つんだ。

「……ありがとう」

俺は小さく呟いた。誰にともなく、この校舎に向かって。

やがて閉会の辞が終わり、司会の声が告げる。

「これより、卒業生退場」

ブラスバンドの演奏が始まり、俺たちは一斉に立ち上がる。

大きな出口の扉が開かれた。その先には、眩い光に満ちた輝かしい未来があるはずだった。

ガゴォォォォォン!!!

「!? なんだあッ!?」

一歩踏み出した瞬間、俺は目を疑った。

扉の向こうに校庭はない。商店街もない。見慣れた空もない。

そこには、禍々しい紫色にうねる「混沌の渦」の断崖絶壁があった。

「な、何が起きてるのよーッ!?」

「キャーッ!!」

悲鳴が轟く中、振り返ると、体育館の床も壁も、あめ細工のように溶け始めていた。

「くっ! 崩壊が始まったか!」

ボランティア部の後輩で陰陽師の末裔、安倍が叫ぶ。

「この学校の『役割』が終わったんです! 卒業と同時に、空間自体がアーカイブ(廃校)されようとしてます!」

「そんな! 逃げ場はどこだ!?」

「ありません! 僕らはもう、地図の外側に落ちてるんです!」

ズズズッ……!!

足場が完全に消滅する。

俺たちは、ブラックホールのような暗黒の虚無へと、数百人の生徒、教師、来賓たちもろとも、一斉に投げ出された。

ああ、俺の人生、卒業式の当日に終了かよ……。

意識が遠のく中、俺の脳内に、ファンファーレと共に気の抜けた関西弁が響いた。

『おお、死んでしまうとは情けない』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ