Part20:「噴進の雨、爆炎の絨毯」
《ストレンジャーよりブレイバー各機へ、敵性飛行体は排除。進入のための経路上に阻害要因なし》
「了解、これより進入する。ストレンジャーは警戒、および着弾の効果観測願いたい」
王都上空の露払いが終わり、手番は移る。
郷真機、ストレンジャー32より進入経路確保の知らせを受け取ったのは、F-2A編隊指揮官機のブレイバー3。
《了解、位置に着く》
そのブレイバー3からの要請に応じて、郷真等のF-35B編隊は上空高度からの観測支援に着くために上昇していく。
「ブレイバー3及び4は200より進入、城壁沿いに火力投射を行い010方向に離脱する」
そのF-35B編隊の姿を向こうに見ながら。
F-2A編隊の内のブレイバー3及び4の二機は、自分らの予定行動を通信で伝えて動きを開始する。
二機一組のF-2Aは、機を低めの高度に持って行きながら、緩い旋回行動で王都上空への経路に進入。
狙うは、王都城壁に群がる無数の帝国軍団、その兵に部隊。
それに撃ち込まれるべく控えるのは、F-2A両機がその主翼下に抱えるロケットポッドに収まる、多数発のハイドラ70ロケット弾。
「コース進入中、間もなく――目視した、発射ッ」
進入開始からすぐ。
ブレイバー3のコックピットで、編隊長は王都城壁に今も群がり押し寄せる帝国軍団を目視。
そして同時にHUDに表示されたロケット弾用照準と、地上に群がる軍団を重ね――操縦桿の発射ボタンを押した。
瞬間、二機それぞれのF-2Aのその抱えていたポッドから。多数発のハイドラ70ロケットが連続的に飛び出し。
ロケットは雨あられの如きで帝国軍団の頭上へと降り注ぎ。
――無数の爆炎が巻き上がった。
順に上がるロケット弾の着弾炸裂の爆炎は、広い範囲の帝国軍団を端から包んで巻き上げて攫えていく。
それはまるで端から爆炎にて絨毯を敷いていき、それによって帝国軍団を飲みこんでいくかのようにも見えた。
爆炎に巻き込まれ、千切られ消し飛んでいく帝国軍団、その兵たち。
だが直後には、まるでその惨劇すらを吹いて飛ばすかのように。阿鼻叫喚の舞台の真上を、二機のF-2Aがその機体下面で掠め煽るかの如きで飛び抜けた。
「ブレイバー3へ、火力投射の効果は大なるも敵残存多数。再進入再攻撃の必要性を認める」
《了解、ブレイバー7及び8が準備状態。続き進入させる》
視点は、上空を旋回して観測支援に就いていた郷真機へ戻る。
今に通信に上げた通り。ロケット弾攻撃による効果は多大であったが、しかしまだ王都城壁周りには敵残存兵力が散在しており、再攻撃の必要性が認められた。
郷真からのその知らせに、ブレイバー3からはすぐに続く対応行動を取る返答が返って来る。
そしてすぐに眼下に、待機していた別のF-2Aペアが、先ペアと少し変えた進入経路角度で進入を開始する姿が見える。
次にはその進入した二機が、再び多数発のハイドラ70ロケットを地上へとばら撒き叩き込み。
今度は正面での戦いを担う敵部隊に併せて、その背後のに構える投石器や前線補給所なども巻き込み。
地上の広い範囲に、再び爆炎の絨毯を作り上げた。
「ブレイバー、再進入攻撃の効果を確認。着弾範囲に敵残存戦力ほか、間接火力、及び兵站らしき物の撃破無力化を確認した」
HMD他、機に備わる映像機能・視界補助機能は。地上の光景を、帝国軍団の被害状況を判別できるまでのものとして郷真に届ける。
それを淡々と言葉に変え、ブレイバー各機に伝える。
《了解、ブレイバー各機は一度再編成する。さらなる進入攻撃のためには準備時間がいる》
そのブレイバーユニットの編隊長からは、効果報告への了解と同時に。編隊各機が連続して進入した関係から、次の行動には準備時間が必要である旨が寄越される。
《ストレンジャー、こちらはラインマン91。こちらは待機準備状態にある、さらに必要があるならばこちらが進入し火力投射する》
そこへ割り入れる形で、別方から通信が来る。
アメリカ空軍からのF-15E編隊の編隊長だ。
アメリカ空軍飛行隊のF-15E ストライクイーグル各機にあっては、多数発のMk.82航空爆弾を抱えて来ている。
今に申し出があった通り、必要ならばさらに敵残存戦力を爆撃にて焼き払うことも可能だ。
「少し待ってくれ、動きがある」
しかし郷真はラインマン編隊長からの申し出に一度待機を願い、同時にHMD越しに見える地上の光景に目を凝らす。
「残存は――逃げてる。敵の逃走開始を確認、敵部隊は崩壊中」
二度目のロケット弾攻撃の影響で巻いていた爆炎の絨毯が散り晴れ。
その地上に見えたのは、王都城壁に押し寄せ群がっていた帝国軍団が、丸ごとと言って良いまでの域で消し炭と果てた光景。
そして奇跡的に生き残った僅かな残存が、蜘蛛の子を散らすように王都から剥がれて逃げ出す様であった。
「脅威は大幅低下と見る、一度SOC判断を仰ぐ――ストレンジャー32より「トーブ」、応答願う」
地上の敵帝国軍団のあきらかな瓦解を見た郷真は、そこからを現場判断に留めず一度後方の作戦指揮所の判断を仰ぐこととし。
ここより遥か離れた後方で、リアルタイムで同じ状況映像を見ているはずのその作戦指揮所に呼び掛ける。
補足すると。この異世界の空での作戦のために、航空方面隊とその作戦指揮所が新たに新設されており。
それは「外部航空方面隊」と名称され、またその作戦指揮所は「外空」SOCなどと呼称されていた。
今に呼んだ「トーブ」はその外空SOCのコールサインだ。
「作戦地域の敵戦力は脅威度大幅低下、さらなる火力投射の必要可否を判断願う」
そのSOCに、呼びかけから続けて判断要請を送り願う郷真。
《――了解ストレンジャー、こちらでも確認した。早急な再投射の必要は無いと判断、作戦各隊は一旦待機せよ。敵部隊の再編成再攻撃の気配あるまで、警戒観察とする》
一拍置き、そのSOCから了解と併せて返って来たのはそんな判断支持の言葉。
それは実質的な、現作戦の終了指示であった。
《ブレイバーユニットは一度帰還せよ、補給を行い待機せよとの指示》
《ブレイバー了解》
それから続けて、SOCからは作戦終了に伴う各隊への行動指示が伝えられ始める。
《ヒエン、そちらは作戦範囲上空で警戒待機されたい。交代を手配中だがまだ少し掛かる、頼めるか》
《支障ない、こちらはまだ何もしてないからな》
続けて上空高高度での警戒援護をこれまで行っていたF-15J編隊のヒエンユニットには、王都上空にて引き続き警戒待機の指示が下る。
それに返され来たのは、ここまで主だった手番の回ってこなかったF-15J編隊の編隊長からの、やや冷淡な声色での愚痴を混ぜた了解の言葉。
《ラインマン、可能ならばこちらからの交代派遣まで、貴隊にも待機警戒願いたい。貴隊の飛行隊からは許可を得ている》
《ラジャー、もちろん任されよう》
また、アメリカ空軍F-15E隊にも作戦支援要請が伝えられ。
F-15Eの編隊長からはそれに揚々としたまでの声で承諾返される。
《ストレンジャー32及び41、貴隊にあっては母艦隊に帰還せよ。同隊よりストレンジャー30及び44が出動し交代する連絡が入った》
「了解」
そして、郷真等に向けては。いずもに分遣している自分等の飛行隊から交代が来る旨が知らされ、帰還指示が伝えられた。
《隊長が交代に来てくれるって?》
「どうせこれ以上、やることは無いだろうがな」
少しの疲労があるのか、鈴色からは少しの倦怠感の混じった声色で。交代に任せての帰還指示を歓迎する気配の言葉が寄越されるが。
一方の郷真は、微かな皮肉を混ぜたそんな言葉を淡々と返す。
そんな通信でのやり取りの傍ら、何気なく眼下に目を向ければ。
帰還指示から順次離脱していくF-2Aの内の一機が。パフォーマンス精神からか、王都城壁近くの安全高度ギリギリを、ロール行動を描きながら飛び抜けた様子が見えた。
そしてその王都城壁上では。
国を守るために、絶望の中での必死に戦っていた王国の兵に国民たちが。そしてしかし突如として現れた得体の知れぬ存在と、それら成した信じられぬ事の起こりの数々に呆気に取られ呆然としていた彼ら彼女らが。
ようやく状況を。己たちが救われた、いや勝利したことを理解したのだろう。
沸き立ち歓喜し、そして今に飛び抜けたF-2Aに昂ぶり跳ねて手を振っていた。
上空からは映像補助でも視認できる程度には限界があるのだが。その歓喜に活気は、嫌でも伝わって来る程のものであった。
《帰ろう》
「あぁ。各隊、ストレンジャー両機は帰還のため離脱する」
そんな光景、気配を眼下の王都に見て感じた後。二機両名は言葉を交わし、そして作戦各機に帰還する旨を伝える。
後は交代の飛行隊の。そしてそれ以降は現地入りする予定の陸自の仕事だ。
そして二機は順に緩やかな旋回行動で空域を離脱、母艦への帰還経路に入った。
《――32、左に10、僅かにずれてる。デッキ進入までに修正せよ》
「了」
郷真機は、いずもへの着艦アプローチコースに入った。
脚を着き、翼を休めるに至る前の。最も危険が伴い、油断できない時間と状況。
いずもの航空管制室からの指示を受け、機の進入コースを微調整する郷真。
《800――700――》
管制室の誘導を通信に聞きながら、機体をVTOL形態に移行させる。機を緩降下行動へと転じさせながら、飛行甲板へと近づけていく。
《400――300――》
《そのまま、そのまま》
いずもの飛行甲板が間もなくすぐ眼前に迫り。そして次には眼下に見ていた大海原が、いずもの艦尾を越えて鋼鉄の甲板へと移り変わる。
「ッ」
同時、機体は通常の航空機ならば失速し墜落してしまう速度まで減速。
しかしF-35Bは移行展開したVTOL形態にて、変形させたノズルやリフトファンが発し生み出す揚力にて。
いずもの飛行甲板上で宙空に機体を置いたまま、そしてピタリと進行を停止。ホバリング状態に入って見せた。
その姿は、これまで見せて来た高速飛行が嘘であったかのようだ。
《32、スポットの真上だ。降着を許可》
機体は、狙い目指していた飛行甲板の着艦スポット真上に見事に位置しており。管制室からその旨と許可を聞き、郷真はスロットル操作で出力を慎重に絞り。
それに伴い機体はゆっくりと真下に降下。
そして郷真機は、いずも飛行甲板にその脚を着いて降ろした。
《見事だ、32。要員が向かうからそのままスポットで待機せよ》
「了――ハッ」
一番油断のならない緊張の瞬間を乗り越え、帰還するべき場所に脚を着き。
管制室からの称える言葉と指示に返してから、コックピットの中で郷真は息を吐き、シートに身を沈めた。
キャットウォークに待機していたデッキクルーの隊員等が、機体に駆け寄り集まって来て。称える声を郷真に寄越すと併せて、各役割のために行動を始めていく。
「――ん?」
それにデッキクルー等の声に、疲労を覚える身でやや緩慢に合図して返していた郷真は。
しかし次には飛行甲板の向こう、艦橋構造物の元に居るある人影に気づく。
それは艦を発った時と同様に、ウィリアム大尉にお守りで付き添われているハーケィ王子だ。
作戦の結果を、己の王国王都が危機を免れたことはすでに知らされているのだろう。
そのお姫様のような可憐で愛らしい顔には。艦を出発した際に見た時は、大変に暗く思いつめた色を浮かべていたその顔には。
今は、静かに毅然とあろうとしながらも。しかし感極まった気配が隠せずに浮かび出て見える。
そんな王子様は次には。おそらく彼の王国王族の礼式と思しき、日本のものとは違った畏まったお辞儀をこちらに見せた。
「――」
堅苦しいそれに、内心で「やれやれ」という思いを。しかしネガティブなものではないそれを浮かべながら。
郷真はコックピットで居住まいを正し、こちらからも挙手の敬礼を返して向けた。
機体の機能・システム描写とか着艦シークエンス描写とか全部作者が勝手に想像したものだから真に受けないように。




