第11話(2)
隠し子の事実を知った江里はその足でとある探偵事務所を訪れた。
結婚していた頃にパートで働きながらコツコツ貯めたお金と引き換えに事実を裏付ける証拠を手に入れ、弁護士事務所に出向いた。
不倫の時効は"不貞行為があった日から20年"、"不倫相手が誰なのか(個人を特定できる情報)を知った時から3年"。
江里が建太の不貞行為を知ったのはここ半年のことで、実際に不貞行為があったのは20年以内の出来事なので請求権は生きていた。
幸いにも江里は離婚届を提出しただけで、お金に関する取り決めをしていなかったため、慰謝料請求も可能だった。
―――そうして、美舞の元に2通目の訴状が届いた。
中身を確認した美舞は、慰謝料の請求者が建太の元妻だと知って憤慨した。
「なにこの女!浮気されて10年も気づかなかったのに、今更なんなのよ!!」
江里が請求した金額は十和子と同額だった。
彼女の十数年間の婚姻生活で、10年間も不倫していた上に娘までいるのだから、離婚から数年経っているとはいえ高額を請求されても仕方のないことだった。
美舞は綾史という財布を失い、慰謝料という名の借金も返済しなければならなくなったことで、突然生活がままならなくなった。
お金を稼ぐために夜に礼良を一人で留守番させ、繁華街でナイトワークを始めた。
一時は収入もアップして順調に思えたが、運悪く職場の顔見知りが客として来店したことでWワークをしていることが会社に露見した。
就業規則で副業が禁じられていたこと、直属の上司が江里の父親だったことから厳しい処分が下され、子会社に異動になる。
ひとり親であることから解雇は免れたものの、また運の悪いことに異動先の会社には子どもが礼良と同じ小学校に通っている職員がいた。
美舞のことが親同士の繋がりで噂になり、その話が子どもに伝わり、礼良は学校でいじめを受けるようになった。
「おかーさん…あのね」
「なに?お母さんこれから仕事行くって言ってるじゃん!後にして!」
「今日ね、どろぼうって言われたの」
「はあ?」
「どろぼうの子どもだから、れいらもどろぼうなんだって…。れいら、どろぼうなの?」
目に涙を浮かべながら自分を見上げてくる娘の姿に、美舞は愕然とした。
学校中に自分の不倫が知れ渡っている。
しかし、そんなことで彼女の心を挫かせることはできなかった。
「礼良は自分のこと泥棒だって思うの?」
「ちがう!どろぼうじゃないもん!」
「じゃあ泥棒じゃないじゃん?そしたら行ってくるから!」
「おかーさん!ごはんは?!」
「適当にパンでも食べてな」
「どこにあるの?」
「その辺にない?探して食べて!」
「ねえ!おかあさん!」
「もう、なに?!お母さん出かけるんだってば!」
「あやふみ来ないの?」
「……」
「あやふみ、なんで来ないの?もう来てくれないの?あやふみに会いた――」
「うるさい!!知らん!!」
苛立ちから礼良を突き飛ばした美舞は、怒鳴るように吐き捨てると、玄関のドアを勢いよく閉めた。
ドアの向こうから礼良が泣き出す声が聞こえたが、彼女は構うことなくその場を離れた。
異動の原因になったナイトワークに遅刻しそうだったからだ。
八つ当たりしてしまった罪悪感からか、もう聞こえるはずもない礼良の泣き声がしばらく耳に残っていた。




