番外編
お久しぶりです。9年ぶりの新エピソードです。
春のうららかな日差しの中、私はナギサちゃんをからかって遊んでいた。
「ねえ、ナギサちゃん。さっきのもっぺん言ってみて」
「い、いやだニャ。もう言わないニャ」
「ふーん。まあいいや。もう録画済みだから……」
私は部屋の一角に鎮座していたぬいぐるみの目玉に擬態させていた隠しカメラをテレビに接続し録画した映像を再生する。
テレビからはナギサちゃんの甘える声が流れる。
「サ、サクヤお姉ちゃん。だいすきニャ」
「や、やめてニャ……、恥ずかしいニャ」
隣から、可愛い声で訴えるナギサちゃん。本物もやっぱり可愛い。
このカメラを隠していたぬいぐるみ、最終回で実は……っていう展開があった気がするけど多分気のせいだ。その証拠にぬいぐるみは少し苦しそうな顔をしているだけで何もしゃべらない。
「もう~。咲耶ちゃん、さすがにそれは可哀そうだよ~」
一連の流れを見ていた華菜が私に苦言を呈する。
「やっぱり、そう思った? ごめんね」
私は、ナギサちゃんの頭を撫でるふりをして彼女のネコミミをモフモフする。これが本当の“ネコミミを襲う”だ。
「サ、サクヤお姉ちゃん……、くすぐった…にゃぁあー……んんっ♡」
ナギサちゃんが少し涙目になりつつもくすぐったさを訴えてくる。
それを尻目に、華菜は何やらぬいぐるみに話しかけている。やっぱりこの子は優しい子だ。
「華菜。いくらぬいぐるみに話しかけても、それはただのぬいぐるみだから無駄だよ」
「そうだけど~。分かってはいるけど、どうしてもまだぬいぐるみの中に誰か居るかもって思っちゃうよ~」
「もう、本当に中に誰か居たりすることは無いから大丈夫だよ」
そう、これは最終回の続きの話。結局あの子は名前も分からないまま私たちの仲間になった。
「咲耶お姉ちゃん、せっかくだしあの子にも名前つけてあげるほうが良いと思うニャ」
ナギサちゃんの意見ももっともだ。でも――
「それはちょっとできないかな。あの子の名前はまだ決まってないから」
「決めてあげようよ~、可哀そうだよ」
「また、今度ね」
あの子の名前については、いずれ決めよう。そう誓う私だった。
◆ ◆ ◆
「ナギサ! 俺だー! 今日こそ結婚してくれー!」
「あー、またうるさいのが来たニャ」
「う、うるさいとは……。バカナギサ! あんたソー君に向かってそんな口をきいていいと思ってるワケ?」
「うるさいの2号もおまけだったニャ……」
「う、うるさいの2号って! ……え? でもそれって、ソー君の“2号さん”ってことよね。ぐふふ……いいかも♪」
唐突にソータとアリサが部屋にやってきてナギサちゃんに絡みだした。
「ねえ、アリサ。 2号さんって“愛人”のことだけど、あんたはそれで良いわけ?」
私はアリサにツッコミを入れる。
「はっ! これは咲耶お姉さま。えーっと、初めましてかしら?」
「そうかもしれないね。確かあなたって、アイドルしてたんだっけ?」
「そうです、そうです! 私が人気アイドルの桃山アリサでーす☆ よろしくね♪」
そう、この子が人気アイドルなのは調査済みだ。そして――
「確か、あなたって双子の弟さんが居たよね」
「「「「えっ!」」」」
この場に居合わせた全員が一斉に私のほうを振り向く。あれ? これって言っちゃまずい情報だった?
「ど、どうしてお姉さまがわたしの弟の情報をしってるんですか?」
アリサが慌てて私に詰め寄る。
「だって、設定資料集にそう書いてあったから……」
「はぁ? 設定資料集って、いったい何の?」
私は「YumeBloom設定資料集」と書かれた一冊のブックレットをアリサに渡す。
「YumeBloomなんて聞いたこと……」とページをめくるアリサの手が急に止まる。
「あ……、ああああ!?」
アリサはそのページを見つけると食い入るようにそれを見る。
「……あたしの弟が、いつの間にか魔法少女になってる? しかも、私よりおっぱいが大きいですってぇ~?」
「えっ? ちょっと見せてほしいニャ」
「俺も! 俺にも見せて!」
「ええぇ~? 私も気になる~」
アリサの弟が魔法少女になったと聞いて、ナギサちゃんとソータと華菜が一斉にアリサに詰め寄り、そのブックレットを見た。
「何? この魔法少女? 私よりあざといニャ」
ナギサがそう言うと、一緒に見ていたソータが口を開く。
「うわーっ? こんなかわいい子が本当は男の子だなんて……」
「ソータ、サイテーにゃ!」
「ソー君、私より弟のほうが可愛いって思ってるの?」
ナギサとアリサが一斉にソータを非難する。
そのやり取りを聞いているのかさらっと受け流しながら華菜が私に聞いてくる。
「それにしてもすごいねぇ~。これってテレビでやってるの?」
「ご当地ヒーローっぽいよ。夢桜里っていうところの」
「夢桜里ニャ? どこかで聞いたことあるような…」
「……ほら、こないだナギサちゃんと行った喫茶店があるところ」
「あ~、アソコかぁ~。アリーチェちゃん元気にしてるかニャ?」
いつか救った異世界の元悪役令嬢はきっと今も新しい世界で楽しく過ごしているに違いない。
「また行ってみたいニャ」
「そうだね、だったら今度みんなで一緒に行ってみようか」
「うん、行きたいニャ」
「もちろん、みんなも一緒に行くよね」
「ふふっ、咲耶ちゃんが行くなら、私も行きたいかも~」
「当然よ! 弟が魔法少女になってるのを問い詰めなくちゃ!」
「俺もその魔法少女に会ってみたい」
……一瞬の沈黙が走る。
「ソータ、最低ニャ!」
「ソー君、最低!」
「な、なんでだよぉ~」
こうして、私たちは夢桜里の街へと行くことになるのでした。
ホームページでは、咲耶たち登場人物全員のイメージイラストを掲載しています。
本文中に登場した「YumeBloom」や、アリーチェちゃんが所属する「ねむねこ。」について知りたい方も、ぜひこちらをご覧ください。
蒼櫻幻想譚
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