気づいたら戦ってました。
バトルを書くのは苦手です。でも書きたくなるんです。男の子だもん。
『自分の意見をはっきり主張すること』
俺は今程このことを大切だと思ったことはない。そして、
『自分の存在を認識させること』
これも大切なことだ。そうしないと言葉を遮られたりするからな。
俺はこの二つを上手く実行することができなかった。だから俺は今━━
目の前にいる物騒な武器を持った女性に命を狩られようとしているのだから。
式の後、どうにか俺はこの状況を回避しようとした。しかし俺の配下、ミーアはそれを許さなかった。配下なのに。
俺は避けるポイントがなかったかを探すため、式の後から現在までの行動を思い返した………。
***
「さて、どうしましょうか?」
「何の相談だ?俺の葬式の準備か?」
「私たちの結婚式についてです」
「冗談を冗談で返された!?」
「冗談ではありません!」
「冗談じゃなかったとしても今話すことじゃないだろ!」
俺とミーアは自室に戻ってきていた。あんな式をしてしまって、来てくれた人たちに申し訳ない。
今は明日の決闘に向け作戦会議中である。少し脱線してしまったけど。
「話を元に戻そう。まず決闘について聞いてもいいか?」
「もちろんです。決闘とは言わば『殺し合い』です」
……………は?
「殺し合い?」
「はい、殺し合いです」
「冗談じゃなくて?」
「冗談じゃなくて」
………冗談であって欲しかった。
「詳しく説明しますと、何かを決めるために勝敗を競う競技といったところですか。ギブアップもできますのでご安心を」
「な、なんだ。びっくりさせるな━━ 」
「でも今回、ユーリは全力でメディス様を殺しにくると思いますよ?」
…………ですよね。
「最悪私が仲裁してメディス様をお助けしますから!魔法で!」
魔法って………
「あの雷とか?それって俺も巻き込まれるんじゃ…………?」
「…………メディス様、グッドラック!」
「誰か!俺の命を救ってください!」
俺の人生デッドエンド?まだ俺二十歳だよ?人生短すぎない?
「とりあえず武器を探しに行きましょう。武器があれば攻撃手段が増えますから」
そうだな。素手で戦うわけにもいかないしな。
俺たちは城にある武器庫へと向かった。武器庫に行く道中、『無理せず扱いやすい武器がいい』という話になり、その結果、
「どうぞ、メディス様」
俺に手渡されたのは刃渡り15cm程の小型ナイフだった。
なぜこんな粗末な武器になったかというと、
大剣→重くて持てない
弓矢→撃てない
長槍→満足に振り回せない
刀剣→危ないから振り回しちゃダメです←おい
まぁこんな感じで小型ナイフとなってしまったわけだ。まぁ武器はこれだけじゃないしいいか。
「さて、それじゃあ寝ましょうか」
「え?もう?まだ昼過ぎだけど」
「もう昼過ぎなのです。時間がありません。というわけで技を極めましょう」
「技って?」
「ベッドの上での寝技です」
決闘の前に襲われそうな予感。とりあえず加護に触れ、
「夜までその辺ブラブラしてきなさい」
命令した。
「メディス様!ある意味相手を籠絡するには寝技を必要になってきますってぇ!」
「本音は?」
「今すぐ子供作りましょう!」
「出ていけ」
「そ、そんな無慈悲なー!」
嵐は去った。この頃命令するのに抵抗が無くなってきた気がする。いい傾向なのか、悪い傾向なのか。
「よし、それじゃあ作るか。俺だけの武器を」
こうして式の日は終わった。
そして次の日の朝。俺は闘技場のような場所に来ていた。というか来させられていた。
周りはギャラリーでいっぱいだ。俺はこんな大勢の前で戦わないといけないのか。
「来たな人間」
そして俺の目の前には竜人族の女性、ユーリ。今日俺はこの人と戦うのだ。
「逃げずに来たことは褒めてやる」
「ここ魔界だから人間の俺が逃げるとこないからね。ていうかやっぱりこれって無しにできない?」
最後の悪あがき。俺はどうにか決闘を回避できないか試みる。
「は?」
ガンを飛ばされた。そんな目で俺を見ないで。
「ここまで来て怖気付いたか?」
「ここに来なくても怖気付いてたよ」
「まぁ殺さないように配慮はする」
何その物騒な配慮?
「聞いたところによると貴様は魔法が使えないらしいな?」
「えぇ、まぁ……」
「ここはハンデだ。私も魔法を使わないようにしてやろう」
「え?ホントに?」
「あぁ、私は武器しか使わない。これで平等だろう」
もしかしたら死ななくて済むかもしれない。あわよくば勝利できるかも。
ユーリは手を天に掲げると何もない空間から武器が現れた。その武器は長さは5m程、刃は弧を描くように曲がり反対側には突起がある。そう、彼女が手にしたのは超特大のハルバードだ。
前言撤回。これ間違いなく死ぬ。
「では行くぞ。人間!」
俺は逝きそうなんですが。まぁ仕方ない。俺は小型ナイフを構え迎撃できるようにする。だが俺は忘れていた。彼女が竜人族ということを。
それは一瞬の出来事だった。ユーリが横なぎしたハルバードにより、構えていた俺の小型ナイフの刀身が切り落とされた。そう錯覚してしまうほど簡単に俺の武器は無力化されてしまったのだ。
ここで話は冒頭に戻る。
***
人間って確かに脆弱だよね。今すごく実感してるよ。魔族であるユーリは自分の身長より大きな武器を軽々と扱っているのに対し、俺は普通の剣すら使えず今は小型ナイフの柄だけ。これもうギブアップした方がいいんじゃないか?
「もう無理だ。まいっ━━ 」
「メディス様ぁぁあああ!!頑張ってくださぁぁあああい!!」
………騒がしいギャラリーのせいでうまく言えなかった。よし、もう一度だ。
「俺はギブア━━ 」
「私の愛の糧に勝利を掴んでくださぁぁあああい!!」
ギャラリーもといミーアはどうしても俺をギブアップさせたくないらしい。はぁ、仕方ないか。
俺は構える。武器ないけど。俺の姿を見てユーリはバカにするように笑った。
「人間。まだやるつもりか?」
「俺はやめたいけどギャラリーが許してくれないから続けるよ」
「なら、その選択を後悔させてやる!」
その言葉と同時に、片手で持たれたハルバードが無慈悲に振り下ろされる。
俺は全力で横に跳ぶ。俺のいた場所にはクレーターができていた。あれを一撃でももらえば俺は命はないな。
俺は懐に手を入れ小袋を取り出すと中身のものをばらまいた。
「人間、一体何をして━━ ぐっ!」
すると俺へハルバードを振り下ろそうとしたユーリの動きが止まった。いや、止まらせた。
「き、貴様!一体私に何を………まさかあの袋の中に何か入っていたのか?」
「ご名答。あの中には俺特製の痺れ薬の粉が入ってたんだ。即効性のね」
薬剤師である俺のもう一つの武器。それは薬だ。ニルスでも使った戦法だが、こんな戦い方をするやつはそんなにいないため、不意打ちがしやすい。
「くっ!卑怯な真似を!」
キッ!とユーリは俺を睨む。敵視している人間に不意打ちをされたことが気に入らないのだろう。
「これぐらいのハンデはあっても罰は当たらないよ」
しかしこれには欠点がある。それは、
「くそっ!身体がうご……く。あれ?」
即効性だからすぐに効果が切れちゃいます。俺またピンチです。
「どんな手かと思ったらただの子供騙し程度のものか」
「俺だって即効性で持続性のある薬があるなら絶対使ってるよ」
「つまりそんな薬はないということだな?」
「あ」
自分でバラしてしまった。ニヤッとユーリが笑う。それは勝利の確信した者の顔だ。
「だがしかーし」
俺は服の中から薬の入った袋を複数取り出した。
「俺にはまだまだレパートリーがあるんだ!」
両手に一個ずつ持ち中身をばら撒く。中身はニルスの時に使った『辛痛草』の粉。単純に考えて効果は二倍だ。
「どれだけ種類や量があろうと、所詮は子供騙しだ。それに」
ユーリは両手でハルバードを持ち構え、地面に水平に振った。すると、
「こうすれば無駄に終わるからな」
突風が俺の身体を襲った。突風により俺の身体を軽々と持ち上げられ俺は壁へと打ち付けた。
「ぐはっ!げほっ!げほっ!」
打ち付けた衝撃により息が詰まる。しかし苦しむ暇もなく俺は横に転がった。俺が転がると同時に俺のいた場所をハルバードが地面を抉る。すぐに立ち上がりユーリとの距離を取る。
「はぁ……はぁ……」
さっきの水平攻撃。突風。あれは薬の粉を吹き飛ばすための手段だ。だから迂闊に薬を使うことはできない。
ハルバードの形から考えるに、遠距離攻撃には向いているが近距離攻撃は苦手だ。つまり彼女の懐に入ってしまえば反撃できる。
「姑息な手以外を使え!それとも人間の戦い方とはそんなものなのか?」
挑発しながらユーリは駆ける。もちろん俺に向かって。考えても仕方がない。一か八かやってみるか!
右手に袋を持ち走り出す。ユーリの武器、ハルバードの攻撃範囲外ギリギリのところで薬をばら撒く。
「その手は通用しないとまだ分からないのか!」
薬の粉を無効化する水平攻撃。確かに彼女の言うとおり俺の攻撃は意味がないだろう。だが、
「俺の狙いはそこじゃない!」
水平攻撃が振るわれる瞬間に、俺は滑り込むようにハルバードの下に入った。ヒュンと真上でハルバードが空気を斬る音が聞こえ、数秒後に背後でゴオッ!と突風が響く。
「何ッ!?」
ユーリは驚き一瞬動きが止まる。その隙に俺は立ち上がり彼女の元へ駆けた。
ハッ!と俺の動きに彼女は気がついたがもう遅い。俺は二つの袋を出し薬をばら撒こうとした。
「待て!」
しかしユーリの叫びに手を止めてしまった。が、彼女は動こうとはせずにこう言った。
「今自分が何をしようとしているのか分かっているのか?」
どういうことだ?彼女の真意が分からずにいるとユーリは続きを話し出した。
「今ここでその袋を中をばら撒かれたら私は一瞬だとしても動けないだろう」
だが、と彼女はどこか余裕があるように話を続ける。
「こんな至近距離でそんなものをばら撒いてしまえば貴様もただではすまないぞ?」
「………なんだ。そんなことか」
心配して損したよ。
「そんなこと、だと?この素人が!自分の状況すら分からないのか!」
「いやいや、そういうことじゃなくて。俺の心配をしてくれてるところ悪いんだけど」
俺は彼女が言うことを気にせず、
「薬の粉、人間用じゃないんだ」
二つの痺れ薬をぶちまけた。
「何ッ!?━━ ぐっ!」
驚いている暇もなくユーリは微かに震えながら立ち尽くす。
俺が使ってる薬には魔族に効きやすいように作ってある。つまり人間の俺には効果がほとんどないのだ。
それよりもユーリが動けない今がチャンスだ。俺は彼女が掴んでいる武器、ハルバードを奪おうとした。しかしユーリの力は低下しているはずなのにビクともしない。
そして何より重い!こんなの振りましてたのこの人?
だけど持続時間が短いとはいえ、薬の効果が解けるのはまだ時間がある。だから何とかして状況を有利に━━
「見く、びるな!」
「え━━ 」
気がつくと俺は宙を浮いていた。俺は何もできずに、そのまま背中から地面に落ちた。
「ぐっ、がはっ!」
背中に強い痛みが走る。が、背中よりも顔の方が痛かった。どうしてだ?
「私は、負けない………人間、などにはもう二度と!」
ユーリを見てみると、痺れがまだ残っているのか顔を歪めながら腕を振り上げていた。そこで俺は理解する。
彼女は痺れる身体を強引に言うことを聞かせて、俺を殴り飛ばしたのだ。だから俺は顔に、詳しく言えば頬に痛みを感じのか。
「よくも誇り高き一族である竜人族を、二度も罠に嵌めてくれたな!小細工もう無しだ!息の根を止めてやる!!」
痺れによって歪めた顔を怒りに染め、ユーリは走り出した。その手にはもちろんハルバードが握られている。
「あぁ、もう俺は何もできないよ」
俺はフラフラと立ち上がった。もうある手は全て行ってしまった。まだ薬は残っているが、もう通用する気がしない。
「それと一つ謝らなくちゃいけない」
もう痺れが治ったのだろう。彼女は風のように駆け、俺はハルバードの攻撃範囲内に入ってしまった。
「二回も誇りを傷つけてしまったみたいだけど」
ユーリが振り下ろしたハルバードが、死神の鎌に見えた。このままじゃ頭から真っ二つにされてしまうだろう。でももう俺には避ける速さも動ける体力もない。俺の命を狩り取ろうとハルバードが目の前に迫った。しかし━━
「実は三回なんだ。ごめんね」
ハルバードが俺を貫くことはなかった。
「な、に………」
振り下ろされたハルバードは俺の目の前で止まっていた。つまりユーリの動きが止まったということだ。
俺はゆっくりと彼女に近づく。ユーリは少し震えていた。それは何かに抗っているように見える。
「き、さま、いつわた、しにな、にをし、た?」
「最初に話したことを覚えてる?」
「さい、しょ?」
「そう。『即効性で持続性がある薬はない』ってやつ」
ユーリは訝しげに俺を見る。気にせず俺は話を続ける。
「だから俺は即効性で持続性のない薬を使っていたんだ。でも、その逆があるとしたら?」
「ま、さか!」
「そう、俺は遅効性で持続性のある薬も使っていたんだ」
だから今、彼女は動けないのだ。付け足すなら、今彼女を苦しめている薬は効果も強力である。
「いつ、だ、いつ、使、った!」
「君が忠告してくれた時に投げた二つのうち一つがそうだったんだよ。もちろんもう片方は即効性の方だけどね」
最初に遅効性の薬は使えなかった。まずは痺れ薬を効きやすい身体にしなければならなかったからだ。
「話はこれくらいにしようか」
俺は最初に折られた小型ナイフの刃の部分を探し拾い上げた。
「これで」
そして動けないユーリの首筋に刃を突きつけた。
「俺の勝ちだ」
「くっ!………まいった」
俺はなんとか勝利することができた。
もしものショートストーリー帰宅編
ミーアの場合
※キャラによって不適切な表現があるかもしれないのでご注意ください。
ガチャ
ミーア「おかえりなさい」
メディス「ただいまー」
ミーア「ご飯にします?お風呂にします?それとも………わ・た・し?」
メディス「えーっと、それじゃあごは━━ 」
ミーア「私ですね!」
メディス「え?」
ミーア「ベッドの用意はできてます!さぁ!行きましょう!」
メディス「人の話を聞こうかミーア!ていうか巻きついて俺を連行しないでくれ!」