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怒りの林檎  作者: 排他的生活領域
ドゥワローズ王国編
70/71

王へ至る

 爆発音が響き渡る。

 ほとんど廃墟と化した街に追い打ちをかけるように、極大の炎が幾度となく爆ぜる。

 ケイトはそんな地獄の間隙を縫うようにアドレラに向かって猛進する。


火炎鞭(ゼヒュオ・べノ)


 炎の大蛇が現れる。

 大蛇はケイトに向かって走り、その巨大な口で丸呑みにしようとする。


「はあッ!」


 ケイトは拳圧で大蛇を消し飛ばす。

 しかし、そんな非現実的な光景を目にしてもアドレラはさして驚いていない様子だ。


「随分と大雑把じゃねぇか! そんなんじゃ俺は殺せねぇぞ!」

「そうかもな。火炎壁(ゼヒュオ・イリア)


 燃え盛る炎の壁がケイトの進路を妨害する。

 ケイトはまたも拳を突き出して炎の壁に穴を開ける。

 しかし、その先にはアドレラの姿がない。


「また消え――」

「違うな」

「なっ!?」


 ケイトは背中を蹴り飛ばされる。

 予想外の一撃に驚きながらも空中で体勢を立て直して振り返る。すると、目と鼻の先にいくつもの炎の球が迫り来ていた。

 ケイトは一心不乱に全ての炎の球を打ち払い、受け身をとる暇もなく地面に激突し、その元凶を睨みつけるように見上げる。


「俺はテーブルクロスの皺を寄せるように、空間を圧縮して二点間の距離を殆どゼロにすることによって瞬間移動をすることができる。いくらお前の身体能力が高くなろうが、ゼロ秒で移動することなどできまい。そして――」


 アドレラが目の前に接近する。

 ケイトは防御行動を取ろうとするが、それよりも遥かに速いスピードでアドレラの蹴りがケイトの腹部を撃ち抜く。


「ガハッ!」


 ケイトは凄まじい速度で宙を飛び、城だったものに衝突する。

 追撃に注意しようと顔を上げると、既に目の前にはアドレラが迫っていた。

 ケイトは腕を構えてなんとかアドレラの蹴りを防ぎながら、後方に飛ぶことで衝撃を和らげる。


「行動にかかる時間を圧縮することで擬似的な超高速移動も可能としている。瞬間移動に比べて行動の時間は増えるが、その代わり攻撃時の威力は絶大だ」


 アドレラの猛攻が続く。

 炎で目くらましをしながら神出鬼没に立ち回り、確実にケイトに攻撃を当てて消耗させていく。何よりも確実で堅実な戦法だ。


「理解したか? 俺の力を理解したところで勝つ見込みなど存在しないことを」


 ケイトは長きに渡るアドレラの猛攻をなんとかギリギリで耐え続けられているが、その圧倒的な手数の暴力に反撃の余地を見いだせない。


「あぐッ……!」


 アドレラの攻撃がみぞおちにクリーンヒットする。

 ケイトは悶えながら地面を転がる。


「漸く倒れたか」


 アドレラは炎の檻を作り出してケイトを動けないようにする。


「王女を人質にとって強く出れない状態でこの強さとは……やはりここで殺しておく判断は正解だったようだ」


 炎がゆっくりとケイトに燃え移っていき、やがてケイトの全身を包み込む。


「威勢の割に呆気ない末路だ。もう少し抗ってくれると思っていたのだが、バカみたいに心根が優しいらしい」

「……まだ終わってねぇだろ」

「何?」


 ケイトがいつの間にかアドレラに近づいて、その脚を掴む。

 アドレラはすぐにそのまずさに気づき、身体を縮小してケイトの手から逃れようとする。


「そうだよな。そうするしかねぇよな」


 ケイトはアドレラの縮小の中心点に拳を振るって殴り飛ばす。


「ぐゥッ! だが、その程度の一撃で――」

「攻撃の手が緩んだな」


 ケイトはアドレラの顔面を掴んで投げ飛ばす。

 アドレラは地面を抉りながら吹き飛んでいき、瓦礫の山に突っ込む。

 ケイトはすかさずそこへ走り込み、アドレラに向けて何度もパンチを繰り出す。


「くッ……! 王女の命がどうなってもいいのかッ!」

「っ!」


 ケイトの攻めがほんの一瞬緩む。

 アドレラはその瞬間にケイトに肉薄し、胴体に蹴りを繰り出す。


「――空貫!」

「カハッ……!」


 アドレラの脇腹に空気の弾が命中する。


「モコロ!」

「姑息な手を……!」

「ケイト! ローブの内ポケット!」


 ケイトはモコロの発言の意図を即座に理解し、アドレラのローブに掴みかかって勢いよく引き剥がす。

 ローブの内ポケットから何か小さなものがこぼれ落ちたかと思うと、それは段々と大きくなっていく。

 見ると、それは間違いなくロープで縛られたメイであった。

 モコロはメイをキャッチしてアドレラから距離をとる。


「ぐっ……何故王女の居場所が分かった……!」

「見えなかったから視れただけだよ。それより、よそ見していいの?」

「はっ――」


 アドレラの側頭部が殴られる。

 アドレラの体は宙を舞うが、そんな状態ながらケイトに向けて炎の蛇を奔らせる。

 しかし、ケイトは途轍もないスピードそれらを避けながら一瞬にしてアドレラに肉薄し、アドレラの胴体に追撃を叩き込む。


「グハアッ! このっ……火炎壁(ゼヒュオ・イリア)!」


 ケイトの前に炎の壁が展開される。

 ケイトは躊躇せず炎の壁に突っ込むが、アドレラの姿が見当たらない。


「……そこかっ!」

「ぐっ……!」


 ケイトはアドレラの位置を感覚で把握し、頭上から振り下ろされる脚を掴んで地面に投げ飛ばす。


火炎巨星(ゼヒュオ・レグモリオ)!」


 ケイトに向けて超巨大な炎の球が発射される。

 迎撃してもいいが、その場合戦闘の続行はほとんど不可能になる。


「屈辱だが、今回は逃げさせてもらおう。次に会った時は確実に殺して――」

「水魔法シンメイ流奥義・ナミキリ」


 炎の球が空間ごと真っ二つに裂ける。

 炎は空間の裂け目に飲み込まれて消え、何事もなかったかのようにケイトとアドレラが対面する。

 それはケイトにもアドレラにも予想外の出来事であった。

 しかし、この技を知っているケイトの方が僅かに判断が早かった。


「アドレラあああああッ!!」

「っ――!」


 ケイトの渾身の一撃が振り下ろされる。

 地面は爆ぜ、台地の一部が削り取られたように消え去る。


「やった――」

「違う! これは俺の仕業じゃない!」


 ケイトの拳は空中で何かに止められていた。

 恐らくアドレラではない何者かの仕業だが、風で砂埃が巻き上がってよく見えない。


「フォロ」

「っ!」


 何か大砲のようなものがケイトの腹部に命中する。

 ケイトは大きく後ずさりながらも、目の前の何かから視線を逸らさずにいる。


「なるほどな。確かにメンドクセー奴みてぇだ」


 砂煙が晴れ、その正体が現れる。

 深緑の髪に鋭い三白眼を持った同年代くらいの男がアドレラを抱えて立っていた。


「我が王……申し訳ありません……」

「王……ってことはあいつが――」


 その時、暴風が吹き荒れる。

 この街の全てを吹き飛ばしてしまいそうな程の風圧が襲いかかってくる。


「撤退だ、アドレラ。加護はまだ使えるか?」

「はっ……多少なら」

「っ! 待て!」


 ケイトは風に逆らいながら進み、二人に殴り掛かる。

 しかし、そこにはもう二人の気配はなく、完全に逃げられてしまったことを察する。


「クソッ……」

「ケイトさん……!」


 メイがフラフラと走り寄ってくる。

 ケイトはそんなメイをガッシリと掴んで支える。


「大丈夫ですか?」

「は、はい。加護の力があるのでもう回復します」


 メイが一呼吸つくと、さっきまでフラフラだったのが嘘のようにしっかりと立つことができている。


「ケイトさん、本当にありがとうございました!」

「アドレラには逃げられましたけどね」

「いいえ! ケイトさんがいなければこの国が滅んでいたどころか、魔獣が世界に放たれて大変なことになつていました! それが防げたのはケイトさんのお蔭です! ケイトさんは世界を救った英雄です!」


 メイが深く頭を下げる。

 英雄と呼ばれるのは気恥ずかしかったが、同時にとても嬉しかった。

 事を成すことができた後の褒賞はここまで嬉しいものだったのか。


「メイ……! メイ!」

「お兄様!」


 城の瓦礫の下からグラントが顔を出す。

 そういえば城の中では一度も見かけなかったが、どうやら無事だったようだ。


「良かった、無事か! 済まないが肩を貸してくれないか? もう一歩も動けそうにない」

「もちろん! 今行きます!」


 メイがグラントに走り寄って行く。

 その時、何故か胸騒ぎがした。

 全て円満に終わったはずのこの事件に、未だ解けていない謎が残っているかのような、そんな感覚がした。


「お兄様! お身体は問題ないですか!」

「ああ。お前も無事なようで何よりだ」

「いえ、お兄様たちが頑張ってくれたお蔭で――」

「ああ、本当に、本当に良かった。俺の努力が無駄にならずに済んだ」

「え――」


 ドスッ。

 メイの腹部に純白の剣が貫通する。

 剣は紅黒く染まり、粘性を持った液体がボタボタと剣を伝って地面に滴っていく。


 ケイトは目を疑った。

 目前の光景が信じられなかった。信じたくなかった。

 だが、悲しくもそれはどう見ても現実だった。


「ああ、長かった。漸く俺が世界の王へ至る時が来たんだ。このグラント・カレルギア・ドゥワローズが世界最強の存在になる時が!」


 グラントは声高に笑う。

 初めて見せたその笑顔は心の底から狂気的で、それでいて至極純粋な喜びを孕んでいた。

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