表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
政略結婚から始まる公爵夫人  作者: 水瀬
第2章 外交と王族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/90

30.歓迎パーティー2

 シルヴェスター様と別れてシャーリーがいる人が少ない壁際へ向かう。

 そして壁際へ到着するや否や、シャーリーが揶揄うような表情を浮かべる。


「ふふ、大切にされているわね。安心したわ」

「シャーリー、揶揄わないで」


 人混みから解放されたことで互いにいつも通りの口調に戻る。

 しかし、シャーリーが楽しそうに口許を浮かべているので少しだけ居心地が悪い。


「シルヴェスター様は初めての外交パーティーで緊張している私を気にかけているだけよ」

「そうだとしてもあの『冷血公爵』様が親友を気にかけてくれて嬉しいの。それに無駄に長い挨拶から解放されたからよかったじゃない」

「……それはそうね」


 そっとシルヴェスター様の方へ目を向ける。

 私が立ち去ってもシルヴェスター様の周りには国王派に中立派の貴族はもちろん、仕事で関わる人たちが集まっていてその対応をしている。


「…………」


 その光景を遠くから眺めて甘やかされていると自覚する。

 シルヴェスター様は物心がついた頃から公爵家の後継ぎとして育ち、大勢の人に囲まれる環境に慣れているけど、私はまだ慣れることができない。

 そんな私に気付いて無理に対応しなくて済むようにシャーリーの元へ逃がしてくれている。

 そんな自分の不甲斐なさに溜め息が出そうになる。……私はシルヴェスター様には助けてもらってばっかりだ。

 そんなこと考えているとシャーリーが「げっ」と令嬢らしかぬ声を上げる。扇で顔を隠しているけど苦虫を噛み潰した顔が私にはばっちり見えている。


「シャーリー?」

「ほら、あれ」

「……ああ」

 

 シャーリーが囁く方向へ目を向けるとそこには継戦派筆頭の令嬢であるクラーラ様が豪奢な赤いドレスを着てシルヴェスター様に話しかけている場面だった。


「クラーラ様ったら早速閣下に近付いて。見ていて嫌になっちゃうわ」

「ははは……」


 シャーリーが不愉快という感情を隠さずに非難するので苦笑する。

 それにしてもさすが公爵令嬢というべきか。派手な色合いで人を選ぶドレスだけど華やかな容姿だからよく似合っていると思う。

 そんなクラーラ様にシルヴェスター様というと、相変わらず無表情で迫るクラーラ様に距離を保って上手く躱していると思う。


「変に突っかかれるのも嫌だけどアリシアがいなくなった瞬間に近付くなんてね」

「でもその方がいいわ。下手に刺激したら大変だから」

「そうかもしれないけど癇に障るわ」


 シャーリーが不満そうに呟く。格上の公爵令嬢に対してもはっきりと言って容赦ないなと思う。

 今の政治状態は非常に複雑だ。シルヴェスター様を私に取られたと思っているクラーラ様とはできる限り関わりたくないと言うのが本音だ。


「あの様子だと今日は絡んで来ないだろうけど、もし何かあれば私も参戦するわよ」

「シャーリーは怖くないの?」

「あら、大丈夫よ。ローレンス侯爵家は結構力あるから簡単には潰されないわ。潰そうとするのなら継戦派(あっち)側も無傷で済まないし、こっちも容赦しないわよ」

「それはそうだけど……」

 

 シャーリーの父親は司法を司る法務に所属する高官だ。何かしらの冤罪を付けようとしても法律関係に滅法強いので逆に刺激したら自分たちの身が危ないかもしれない。

 それにローレンス侯爵家は侯爵家の中でも上位に位置する。シャーリーの言う通り、手を出せば無傷では済まないだろう。

 

「それよりもカティアとマリアンヌがいなくて残念ね」

「ええ。どうせなら四人で楽しく過ごしたかったわ」

「そうね」


 私の言葉にシャーリーが頷く。どうせなら四人で過ごせたらよかったと思う。

 カティアはデビュタントを迎えたばかりということもあり今回のパーティーは欠席していて伯爵夫妻のみ参加している。

 マリアンヌも子どもがまだ小さいため夫である伯爵のみ参加すると聞いている。

 長年の付き合いのあるシャーリーと過ごすのも楽しいけど、明るいカティアと落ち着いたマリアンヌと一緒に今日の夜会を楽しみたかったというのが本音だ。


 そんな風に思いながら時折挨拶をしに来る夫人や令嬢に挨拶を返して過ごしていくと、歓迎パーティー開催時間になる。

 メデェイン王国の使者である外務大臣に外交官の夫妻が入場し、そんな彼らの入場後、近衛師団長がやって来て声を上げる。


「国王陛下並びに王妃殿下、メデェイン王国王太子夫妻のご入場ー!!」


 王族しか利用できない重厚な両扉が開いて入場してくるのは陛下と王妃様。

 その後ろにはメデェイン王国の王太子であるイーサン王太子殿下とその妻ヴィオレッタ王太子妃殿下が入場してくる。


 陛下と王妃様、メデェイン王国の王太子夫妻の順に入場し、大広間を一瞥してイーサン王太子の方に友好的な笑みを浮かべる。


「イーサン王太子、そしてヴィオレッタ王太子妃。この度は遠路はるばる来てくれて感謝する」

「いいえ。こちらこそ、このような場を設けていただきありがとうございます。ウェステリア王国にさらなる繁栄が続くのをメデェイン王と共に祈ります」


 イーサン王太子もニコリと微笑んで互いに握手をする。

 その後、始まりの挨拶を告げてメデェイン王国の使者たちの歓迎パーティーが始まる。

 私はこの後、シルヴェスター様と合流して王太子夫妻に挨拶してヴィオレッタ妃と談笑する予定となっている。


「シャーリー、挨拶しないといけないからごめんね」

「大変ね。いってらっしゃい。時間があればまたお話ししましょう」

「ええ」


 そしてシャーリーと別れるとシルヴェスター様の方へ向かう。シルヴェスター様も私を迎えに来たのか合流する。


「アリシア、王太子夫妻に紹介するから行こう」

「はい」


 シルヴェスター様の腕に手を添えて王太子夫妻の元へ歩いていく。

 王太子夫妻は現在陛下と王妃様が持て成していて主に陛下が話しているのが見受けられる。

 陛下たちを見て進んでいるとシルヴェスター様が私の耳にさりげなく近付いて囁く。


「中央で妃殿下と会話している白銀の髪の女性がヴィオレッタ王太子妃殿下だ。妃殿下はやや緊張気味だから挨拶の後は妃殿下の側にいて会話のサポートをしてくれ」

「分かりました」


 シルヴェスター様の説明に小さく返事をして陛下と王妃様、そして王太子夫妻の元へ向かう。緊張するが頑張るしかない。

 私たちが近付くとまるで陛下がたった今、気付いた素振りでこちらを見て王太子夫妻に話しかける。


「おや。ランドベル公爵に夫人、丁度いいところに。イーサン王太子、ヴィオレッタ王太子妃。こちらの女性はランドベル公爵夫人だ」


 陛下が私を紹介してくれ、シルヴェスター様と共に頭を垂れる。


「イーサン王太子殿下とヴィオレッタ王太子妃殿下にご挨拶申し上げます。ランドベル公爵家当主のシルヴェスター・フォン・ランドベルと申します。こちらは妻のアリシアです」

「初めまして、王太子殿下、王太子妃殿下。アリシア・フォン・ランドベルと申します」


 シルヴェスター様の挨拶に続いて私も言葉を紡ぐ。

 優雅で美しい角度を注意しながら王太子夫妻に挨拶すると、ニコリとイーサン王太子が微笑む。


「初めまして、ランドベル公爵夫人。私はイーサン・ラ・メデェイン。こっちは妻のヴィオレッタだ」

「初めまして、ランドベル公爵夫人。ヴィオレッタ・フィア・メデェインと申します」


 挨拶をすると王太子夫妻が同じように挨拶を返してくださる。こうして見ると、美男美女でお似合いだなと思う。

 イーサン王太子は赤髪に紅茶色の瞳を持ち、ヴィオレッタ妃は白銀の髪に長い睫毛の奥には深紫の瞳を持つ美女で一歳差なのに随分妖艶で大人っぽく見える。


 挨拶が終わるとそれを合図に男性陣と女性陣で別れて会話をし始める。

 ヴィオレッタ妃の周りには向こうのメデェイン王国の外交官夫人たちが集まる。


「以前も訪れましたが、ウェステリア王国はとてもお美しい街並みですね」


 明るい声で最初に発したのはメデェイン王国のテリス外交官の妻であるステファニア・ラ・テリス侯爵夫人。年齢は私や王妃様より年上の二十代半ばの女性だ。

 そして、イーサン王太子の従姉でメデェイン王族の血を引く女性でもある。


『嬉しい限りですね、王妃殿下?』

『ええ。ランドベル夫人』

『まぁ、メデェイン語を話せるのですか?』


 驚いたように声を上げるテリス夫人。そんなテリス夫人に微笑む。


『はい。ですが人前で見せるのは初めてで。おかしくありませんか?』

『うふふ、ご安心なさって? まったく違和感ないわ』

『それはよかったです』


 テリス夫人が大丈夫だと教えてくれる。ロバートの教育の賜物だ。ありがとう、ロバート。


『上手よ、ランドベル公爵夫人』

『良い教師のおかげです』

『ふふ、なら母国語でお話ししても?』

『も、もちろんです』


 テリス夫人の言葉に王妃様が緊張気味に対話する。メデェイン語で話しを始めたのは継戦派の妨害を少しでも防ぐためだ。

 ウェステリア貴族の必須の語学は帝国語のみで他の言語は任意となっている。そのため、メデェイン語で話すことで少しでも継戦派の妨害を防ぐように工夫している。

 ここにいる国王派の外交官の夫人は皆メデェイン語を話すことができる人で構成となっているが……やっぱり王妃様、緊張しているのが感じ取れる。メデェイン語は完璧だけど、臣下としてできるだけサポートしないと。


 そうして私にとって初めての外交パーティーが幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ