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政略結婚から始まる公爵夫人  作者: 水瀬
第2章 外交と王族

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31.歓迎パーティー3

『あら、ランドベル公爵夫人のそのイヤリング、我が国の国花では?』

『本当ね』


 目敏く見つけたのはバルト伯爵夫人とヒューズ伯爵夫人で、私のイヤリングを見て声を上げる。

 なのでふわりと微笑みながら王妃様から注目をこちらへ移すために頷く。


『はい。本日は(みな)様と交流できる日ですから。歓迎の意を込めて付けて来ました』

『まぁ……、嬉しいですわ。ランドベル公爵夫人』


 受け答えに満足したのかテリス夫人たちが嬉しそうに頬を緩める。よし、好印象を持ってくれているようだ。


『そのカットの形もメデェインではなくて?』

『はい、メデェイン王国の加工技術は随一ですから。私も数点持っているのですが、どのデザインも息を零してしまう美しさだと思います』

『まぁ、ランドベル公爵夫人ったら』


 テリス夫人が頬を緩めて笑ってくれる。この調子で相手国のご夫人と仲良くならないと。

 出しゃばり過ぎず、王妃様を立てながら緊張する王妃様を支えるために会話に参加して交流していく。

 初めは互いに緊張していたのか少し堅苦しい雰囲気だったけど時間が経つにつれ柔らかくなっていく。


『このワイン、おいしいですね。どこの産地なんですか?』

『あ……、それはリーム地方のワインなんです。濃縮しているので果実の味がよく味わえるんです』

『まぁ、そうなのですね』


 王妃様も徐々に慣れてきたのか躓く回数が減っている。

 中心であるテリス夫人が友好的な微笑みを向けてくれている。まぁ、友好関係を示すために今回訪問しに来たのだから当然だけど。

 ただ、当のヴィオレッタ妃はあまり話さず、基本的に一緒に来たテリス夫人たちに任せているのが気になる。

 今もゆっくりとワインを飲んでいて会話に積極的に加わろうとしていなくて王妃様がやや不安そうにしている。


「…………」


 ヴィオレッタ・フィア・メデェイン王太子妃殿下。

 白銀の長い髪は絹糸のように艶があり、深紫の瞳は神秘的で高貴な雰囲気を漂わせる、ルナン公国の元公女。

 ルナン公国の歴史は長く、歴史に比例してメデェイン王国と長い交流を持つ。

 隣国であるメデェイン王国とは同盟を結んでいて、王族と公家の交流も定期的に行われており、イーサン王太子が公国に赴いた時に当時第二公女だったヴィオレッタ妃と出会って一目惚れしたと聞く。


 元々口数が多くないのか、聞き役が多い。それならあまり話しかけるのも迷惑かもしれない。匙加減が難しい。


『皆様、もう間もなくダンスの時間なのでぜひ踊ってくださいませ』

『まぁ、楽しみね』

『ウェステリア王国の曲は優美な曲が多いですから楽しみですわ』


 悩んでいるとウェステリア王国(こちら)側の外交官の夫人がそう声をかけて、時計に目を向ける。

 見るとダンスの時間に近付いていて曲の順番を思い出す。最初は王太子夫妻の歓迎を祝うためにメデェイン王国の曲が演奏されるはずだ。

 そして私もシルヴェスター様とメデェイン王国の曲を踊る予定だ。練習した通り踊りきりたい。

 そう思っているうち音楽の曲が変わり、ダンスの時間を告げる。


『あら、この曲は……』

『実は、皆様の訪問を祝うために皆様の国の曲を選曲しました』

『王妃殿下が? ありがとうございます』

『では、夫の元へ行きませんと。ヴィオレッタ妃殿下も行きましょう』

『ええ、そうね』


 王妃様が伝えると喜びながらテリス夫人たちがお礼をし、パートナーと合流していく。

 ヴィオレッタ妃も自国の夫人と共にイーサン王太子の元へ行くので私たちも移動するために王妃様にウェステリア語に戻して声をかける。


「王妃殿下、私たちも参りましょう」

「は、はい。そうですね」


 緊張気味に私に返事する。陛下の後はイーサン王太子と踊ることになると思うけど頑張ってほしい。

 そしてシルヴェスター様たちの方へ向かうと同じように陛下とシルヴェスター様がやって来る。


「やぁ、テレーゼ。私と踊ってくれないかな」

「陛下。も、もちろんです」


 ニコリと陛下が口角を上げて微笑んで手を差し出すと、王妃様が恥ずかしそうに顔を俯きながら手を重ねる。


「アリシア、次のダンスに備えて待機しよう」

「はい」


 ホールの中央へ向かう国王夫妻の後ろ姿を見ながらシルヴェスター様に返事して移動すると、肌に鋭い視線が突き刺さる。

 視線がする方向へさりげなく目を向けるとそこには睨み付けてくるクラーラ様がいて顔が引きつりそうになる。……だから私に敵意を向けられても困る。

 ベナード侯爵令嬢もそうだったけどなぜ私を恨むのだろう。そもそもこの結婚を命じたのは陛下なのに。


 陛下とイーサン王太子たちのダンスを一曲眺めながら、シルヴェスター様と練習した二曲目のステップを思い出す。

 そして一曲目の演奏が終了し、シルヴェスター様に手を重ねてホールの中央へと歩いていく。

 変わらず後ろから刺さる視線に気が重くなるのを無視して向かい合うと、練習した曲が流れてステップを踏んでいく。シルヴェスター様が上手にリードしてくれるので大変踊りやすい。

 踊っているとシルヴェスター様が音楽に乗って私にのみ聞こえるくらいの声量で囁く。


「練習の時より上手くなっているな」

「ありがとうございます」


 褒めてくれるシルヴェスター様に微笑む。上達しているようでよかった。


「使者とのダンスは二、三人だけでも踊ってくれると助かる」

「分かりました。シルヴェスター様は誰かと踊られるのでしょうか?」

「一度休憩を挟んでだが、王太子妃殿下とテリス侯爵夫人とは踊るだろうな」

「そうですか」


 小声でやり取りしながらこの後のダンスの予定を聞く。どうやら今回は賓客であるテリス夫人たちとも踊るようだ。

 そんなやり取りをしている内にダンスが終わる。どうにか失敗せずに済み、心の底からほっとする。


「ここは王宮だから大丈夫だろうが、一人にはならないように」

「分かりました」


 シルヴェスター様からの注意を聞いて別れていく。さて、どうしようか。

 シルヴェスター様にはメデェイン王国の使者二、三人とリカルド様と踊ってほしいくらいしか言われていないのでどうしようかと考える。

 そうして考えていると「ランドベル公爵夫人」と呼ばれて振り返って目を丸める。


「テリス侯爵?」


 振り向くとそこにはメデェイン王国の代表の一人でステファニア様の夫で外交官でもあるテリス侯爵が佇んで私に手を差し出す。……これは。


「ランドベル公爵夫人、せっかくの機会です。私と踊っていただけませんでしょうか?」


 手を差し出しながらダンスの誘いを紡ぐ。

 使者であるテリス侯爵に恥をかかせる訳にはいかない。なので微笑んで返事をする。

 

「はい、喜んで」


 そしてテリス侯爵が差し出した手に手を重ねたのだった。




 ***




「ランドベル公爵夫人、ありがとうございました」

「いいえ、こちらこそありがとうございます」


 ダンスを終えて儀礼的な挨拶を交わす。

 テリス外交官とのダンスの後にさらに二人の使者と踊り、国内の国王派と中立派に所属する男性数人と踊っていて疲れてしまう。

 これがダンスをするだけならいいが、ダンスをしながらシルヴェスター様に紹介してほしいと頼んでくる人もいて躱すのが大変だった。

 シルヴェスター様に自分を売り出したいのなら自分でしてほしい。私を利用するのはやめてほしい。


「あ、義姉上!」

「……リカルド様?」


 そっと息を吐いているとリカルド様がやって来て、来るや否や手を差し出してくる。


「ごめん、義姉上。ちょっと協力してくれない?」

「……?」


 囁くように頼み込むリカルド様。手を差し出してきたということはダンスの誘いなのだろうけど……協力?

 とりあえず、あと一曲くらいなら踊れるので応じる。


「分かりました、喜んで」

「ありがとう!!」


 微笑みながら手を重ねると救われたかのように嬉しそうに喜ぶ。失礼かもしれないけどなんだか大型犬みたい。見えない尻尾が見える。

 音楽が演奏され始めるとリカルド様がリードしながら小声で話しかけてくる。


「本当にありがとう、義姉上」

「いいえ。それより何かありましたか?」

「ああ、当主たちに娘を紹介されっぱなしで疲れて。強引で逃がしてくれないし、兄上には助けを呼べないしどうしようって思っていたら義姉上が見えたから頼ろうと思って。まだ義姉上と踊ってなかったしね」

「そうなのですか……」


 次男でもリカルド様はランドベル公爵家の血を引いているから娘しかいない家から見たら優良物件だろうなと思う。

 

「義姉上も大変だね。たくさんダンスに誘われて」

「はい、なのでそろそろ休もうかと考えていて。しばらくしたら王妃殿下の元へ戻る必要があるので少しだけ休憩しようかと」


 ちらりとリカルド様と踊りながら王妃様を見るとまだ使者と踊っているところだ。

 王妃様のダンスが終わり次第、王妃様の元へ行くことになっているので今のうちに休めるのなら休みたいというのが本音だ。


「そっか、それがいいよ。なんなら僕も休憩しようかな。そしたらダンスの誘いされにくいでしょう?」


 妙案とばかりにリカルド様が片目を閉じながら提案してくる。確かに、リカルド様が一緒だったらダンスの誘いはしにくいだろう。なら頼らせてもらおう。


「ふふ、そうですね。それならお願いしてもよろしいですか?」

「もちろん。義姉上と踊り終えた後は上官の元へ避難するよ」


 小声で話しているとあっという間にダンスは終わり、リカルド様と歩きながらホールの端へと歩いていく。


「はぁー。紹介とかされるけど、まだ結婚とか考えていないから困るんだよね」


 ぼやいたようにリカルド様が歩きながらそんなことを呟く。どうやら随分と疲れていようだ。


「恋人はいないのですか?」

「残念ながら今はいないんだよね。なぜかいっつも別れを告げられる。あ、恋人に捨てられた言葉思い出した」

「それは……残念ですね」

「義姉上、それフォローになってないよ」


 言葉をかけるとリカルド様に指摘される。上手く言えずに申し訳ない。今度上手な励まし方の本でも探そう。

 そして王妃様のダンスが終わるまでリカルド様と一緒に休憩したのだった。

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