第十二話
どうも嫌な予感がしました。
シュバルツ様は頭が良くて、洞察力も鋭い御方。
一ヶ月間で私の細かな癖などは記憶しているかもしれません。
ジルの悪い癖は自分の能力の高さを過信していること。恐らくシュバルツ様をナメてかかっています。
「ジルはきっと失敗します。そうなれば休戦協定は崩れ去り……私たちは、両国の関係改善は終わりです」
私はジルが失敗すると確信して再び両親の説得をしました。
あの子を出来るだけ早く連れ戻すべきだと主張したのです。
「バカを言うな。無能なお前が何を考えてるか分かるぞ。そうやって、ちゃっかりシュバルツ殿下と婚姻する気なんだろ? 浅ましい女になったものだ」
「あなたと違ってジルには私たちの優秀な血が受け継がれています。ミネア、あなたに任せていればヘマをする未来しか見えないのに良くもまぁ。そんなことを」
父も母も根幹から私のことを見下し、愚か者としか見てくれていませんので、意見など一つも聞いてくれようとしません。
精霊術を覚えた時もそうでした。魔力が強まったと幾ら主張しても見向きもしてくれず、聖女になるための試練を受けさせてもらうことさえ許してくれませんでした。
「お前は黙って妹を見送る姉でいれば良いのだ。帰ったら一週間は飯抜きだな」
「まったく、私たちの可愛いジルが失敗だなんて、そんなこと――。――っ!? い、今の音は何!?」
その時です。
シュバルツ様の私室のある方向から爆発音がしました。
ジルはシュバルツ様に挨拶に行くと言っていました――まさか……。
◆ ◆ ◆
「じ、ジル……、な、なんてことを……」
「は、離しなさい! クソッ! 離せ!」
シュバルツ様の部屋に駆けつけてみれば、窓ガラスは吹き飛ばされており、彼の護衛に取り押さえられているジルがいました。
シュバルツ様は――。無事ですよね。もしも、何かあったら私は――。
「ジル、いや本名ミネア・アウルメナスよ。君の妹は阿呆なのか? 言い訳が出来ぬとなれば、いきなり癇癪を起こしよった。王族が護衛をつけていることも知らんらしい」
「……シュバルツ様、全て知っている? まさか……」
シュバルツ様は私のことをジルと呼び、ミネアと呼び直しました。
ということは捕らえられているのは本物のジルということも全てお見通しで――。
ジルが事実を述べたのか、それとも前からシュバルツ様が私が「ミネア」だと気付いていたのか、どちらかのなのでしょうが……彼の鋭さから推察すると多分後者でしょう。
「もっと早く言うべきだったかもしれぬな。私は君が本物のジルではなく、双子の姉であるミネアだと気付いていた」
「やはりそうでしたか。しかし分かりません。それならば、何故……、何故、今日まで黙っていたのです? 私ではなくジルと結婚しなくては国が繁栄しないのでしょう?」
シュバルツ様が私のことに気付いていることにはそこまで驚きませんでした。
しかしながら、それを放置していたことには違和感があります。
人質として別人が来たというのなら抗議して然るべきでしょう。
「まぁ、そうしても良かったのだが、私が欲しかったのはミネアだったからな。そもそも、今日だってこの娘が何もしなければ不問にする予定だった」
「――っ!?」
私が欲しかった? それは、どういうことですか?
いきなりのシュバルツ様の告白に私は戸惑ってしまいました――。




