第十一話(ジル視点)
「おおっ! ジルよ。久しぶりの両親と姉との再会はどうだったか?」
恙無くミネア姉さんと入れ替わった私は、シュバルツ殿下の元へと行きました。
初めてお顔を拝見しますが、なるほど端正な顔立ちですね。
ミネア姉さんと知り合って一ヶ月ほどと聞いてますから、変な会話をして入れ替えを悟らせないようにしなくては。
「両親もミネアもくれぐれも殿下によろしくとのことでした」
「そうか。私によろしくと挨拶を。では、後で私からも挨拶に赴かなくては、な。アウルメナス侯爵と顔を合わせずに帰らせるわけにはいかぬ」
朗らかな微笑みを浮かべながら、シュバルツ殿下は父に挨拶をしたいと口にしました。
やはり人質と言いながら結婚という無茶苦茶をしたことを詫びようとしているでしょうか。
まったく、あなたの気まぐれで私たちがどれだけ精神的に削られたか文句の一つも申し上げたいところです。
「シュバルツ殿下が挨拶に来られるときっと父も喜びます。是非ともお願いします」
「ふむ。それでは、そろそろお互いに自己紹介といこうか。本物のジル・アウルメナスよ。まずは初めまして、かな?」
「――っ!?」
顎を触りながら私を見据えるシュバルツ殿下は私に初めましてと言葉をかけます。
ま、まだ二言三言しか会話をしていないのに入れ替わりがバレた? そ、そんなバカな。私はジルの口調を完璧に真似ましたし、見た目は瓜二つなのに――。
いえ、カマをかけているのかもしれません。
そうですとも。入れ替えの可能性に常日頃から警戒しているからに違いありません。知らんぷりすれば良いのです。
「殿下……? 初めましてとはどういう趣向ですか? 私には意味がさっぱり分かりません」
「阿呆、一瞬で墓穴を掘りよって。ミネアは私のことを“シュバルツ様”と呼んでいた。呼び名すら覚えて来ぬとは……まるで話にならんぞ」
し、しまった~~。私としたことが何たる初歩的なミスを。
なんで、ミネア姉さんがシュバルツ殿下とどう接しているかもっと聞いておかなかったのでしょう。
ここから逆転する方法を何か、何か考えなくては……。
そうだ。ミネア姉さんが泣きながら代わって欲しいとせがんだことにすれば――。
「……も、申し訳ありません。殿下……。実はミネアが殿下をこれ以上謀ることが辛いと申しまして――」
「そなたはどこまでも阿呆なのだな。それでは最初から人質は偽物だったと告白しているようなものではないか」
「あっ――」
「もう一つ言わせてもらえば、本物のジルと呼ばれた時点で既に人質としてミネアが送られて来たことにこちらが気付いておるとは思わなかったか?」
そ、そういえばそうです。私のことを入れ替わりを認識した上でジルと呼んだということは、ミネアが私ではないということはとっくにバレていたことになります。
それならば、何故……その時点で我が国に抗議をなさらなかったのか。そのまま、ミネアと結婚しようとして私たち家族を呼び寄せたのか――。
腑に落ちないところが幾つもあります。
しかし、そんなことよりも確かなのは、私たちアウルメナス家のせいで両国の休戦協定が崩れるという事実です。
「アウルメナス侯爵に挨拶をせねば、と私が申した意味が分かったか? さて、どう料理してやるかな」
冷酷ですべてを射抜くような凍てついた視線に晒されて、私はただ震えることしか出来ませんでした――。
こうなったら、ここでいっそのこと殿下を――。




