第十話
シュバルツ様と私の結婚式典の当日――両親と妹と顔を合わせることになりました。
これだけは避けたかったのですが仕方ありませんよね。私はミネアではなくてジルということになっているのですから。
「何だと、予言でジルと結婚すると国が繁栄すると言われたからだと?」
「それで、ミネアなんかと結婚しようとしてるのですか? あらあら、シュバルツ殿下も不運ですこと」
両親は相変わらずの態度で私に接しています。
この胃がキリキリするような圧迫感は久しぶりです。
さすがに私がシュバルツ様と結婚することになったのには驚いていたみたいですが。
「まぁ、理由なんてどうでも良いですわ。ミネア姉さん、分かってると思ってますけど殿下と結婚するのは私ですよ」
ジルはシュバルツ様と結婚するのは自分だと主張しました。
もちろん、私が彼女の身代わりとして結婚をするので、ジルがシュバルツ様と結婚しているという認識で合っています。
唐突にそれを念押ししてどうしたのでしょうか。
「ええ。分かっていますよ。私がシュバルツ様と結婚するのは飽くまでもあなたの代わりとしてです。ジルの聖女としての実績があってのことだということは忘れません」
恐らく自分のおかげでシュバルツ様と結婚が出来ることを感謝しろと言いたいのだと思ったので、私は彼女を持ち上げるような言い回しをしました。
「違うわよ! 姉さんは馬鹿なのですか? 私が結婚するんだから、さっさとそのドレスをこっちに寄越しなさい。図々しいですね!」
「えっ? まさか、ジルは私と入れ替わるつもりなのですか? シュバルツ様と私はひと月くらい殆ど毎日顔を合わせていたのですよ。今さら替わったりしたら逆にボロが出て大変なことになりますよ」
何ということでしょう。ジルは再び私と入れ替わって自分がシュバルツ様と結婚するのだと主張します。
いや、いくら見た目が同じでも性格も違いますし、シュバルツ様は鋭い方ですから絶対にバレてしまいますよ。
そんなリスクの高いこと、お父様もお母様もなぜ止めないのでしょうか……。
「間抜けなあなたと一緒にしないで下さいます? あなたが私のフリをしてる方がよっぽど危なっかしいです。聖女として相応しい力を示せとか言われたら、あなたなんて直ぐに騙りがバレるじゃないですか」
「いえ、精霊術で誤魔化せていますから問題ありません」
「あはははは、精霊術で誤魔化せているぅ? バカも休み休み言ってください。あんなカビが生えたような書物に記されてる技術なんて役に立つものですか」
精霊術という言葉を出すとジルは大声で笑います。
古代の術は原始的で稚拙だと言われていますので、精霊術などの古い技術は我が家では過小評価されているのです。
「ミネア、いい加減にしなさい。あなたはちょっと見ない間に反抗的になりましたね。そもそもジルの縁談なのですから、あなたが身を引いて然るべきです」
「お前みたいな娘が何の背景も無しに殿下と懇ろな関係になれるものか。弁えなさい」
両親は私の両腕を掴んで無理やりドレスを脱がそうとしました。
そうですね。確かに私などがジルの実績なしに殿下と結ばれることなどあり得ませんもの……。
両親と妹に促されて、私はジルと再び入れ替わります。
こうして、シュバルツ様と結婚するのは私ではなく妹のジルになりました――。




