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町の子供たち

 一晩明けたリベックの町。


 聖夜の襲撃で結構な被害を出したから、今日は町の修復に追われた。


「王様! すいませんわざわざ!」


 現場に着くと、一人の真面目そうな青年が待っていた。


 その背後に半壊した家がある。


 木の家じゃない。多分かなり金を貯めて建ててワンランク上の家だ。


 それが倒壊してる、聖夜のせいで。


 倒壊した家をあっちこっちみた、かなりひどい、もはや廃墟レベルだ。


「あの……なおります……か」


 DORECAを取り出して、メニューを開く。


 修復と新しく作り直した時の魔力と素材を比べる。


 どっちも修復の方が上回ってる。


 なるほど、ここまで壊れると直す方が高くつくのか。


「これだと直すのよりも新しいのを作った方がいいな」


「えっ……」


 絶句する男。


「安心しろ。今回のは天災のようなもんだ。ただで直してやる。素材もこっちが持つ」


 聖夜がらみの事だ、国民に負担させるのは忍びない。


 だから安心させるためにいったが、青年は慌てて手を振って。


「いえ、それはいいんです。それよりも……直せませんか?」


「直そうと思えば直せるが」


 高くつくぞ、という言葉を飲み込んで、別の言葉にする。


「なんでだ?」


「実は……」


 青年は廃墟の中に入った。


 かろうじて残ってる壁の前に立った。


 あとを追って中に入る、壁を見る。


 そこに跡があった。


 鋭いナイフかなんかでつけた、横棒の傷。


「これ、うちの子のなんだ。ちょうどハイハイ出来る様になった時にここを立てられたんだ」


「なるほど、そこからずっと続く成長の証だから、出来れば残したいって事か」


「はい」


「……もうこんなにか」


 感慨深いな。


 壁に刻まれた子供の成長ヒストリー。


 重みがあった。


「わかった、修復でいく」


「本当か?」


 壁を残すように慎重に修復した結果更に魔力と素材がかかったが、やる価値はあったと、青年と後から現われた奥さんと子供の笑顔を見てそう思った。


     ☆


「なあなあ王様」


 青年の家を直した直後、10歳くらいの男の子が話しかけてきた。


「どうした」


「王様が邪神を追い払って本当なのか?」


「誰からそんな話を聞いた」


 眉をひそめて聞き返す。


 なんか襲ってきたけど追い払った、というのが公式発表だ。


 あれが復活した邪神というのはシャットアウトしてる。


 何しろこの世界は一度邪神に滅ぼされた。


 それが復活したなんて知ったら混乱に陥るかも知れない。


 だから情報を止めたんだが――目の前の子供は知ってた。


「とーちゃんが見たって言ってたんだ。襲ってきたやつ、前に見た邪神とそっくりだったって」


「お前の父ちゃんは何をしてる人なんだ?」


「なんだって、おうきゅうせんし? ってのをやってたっぽい」


 おうきゅうせんし――王宮戦士か。


 なるほど、何となく想像出来た。


 前世(厳密には違うけど)にそれで、邪神討伐に出かけてやられて、シュレービジュにされたあとまた人間に戻って、今はリベックに住んでる、ってところか。


 そういうことなら目撃しただけで邪神だと思うのも無理ない。


 最後の方の聖夜はもう聖夜としての面影がぎりぎり残ってる別物になった。


 あれが邪神のすがたなんだろうな。


 子供はおれを見あげたまま、答えをまってる。


 隠してもしょうがないな。


「ああ、邪神だった」


「まじか! そいつさ、王様が追い払ったんだよな」


「まあ、そうかな」


「おおおおお!」


 いきなり目を輝かせ出す男の子。


「すげえ、王様すげえ。邪神に勝つとか王様ぱねえ」


「いいから落ち着け、大声でわめくな」


 まわりに聞こえたら面倒臭いことになりそうだが、男の子はきにする事なくすげえって言い続けた。


     ☆


 次の現場に向かう途中、通り掛かった公園。


 そこで遊んでる子供達を見かけた。


「ちぇー、また外れかよ」


「あ、おれ当たり」


「あたしもはずれ。やった!」


「外れなのに嬉しそうだな」


「だって奴隷様の役だもん」


 子供達はよじった紙で作ったくじを引いてた。


 当たりを引いた男の子が木の下の木箱に座った。


 あとの二人は男の子の前に立って、へこへこしだした。


「ご主人様、今日は何からやりますか」


「王様のためならなんでもするぜ」


 演技……いやおままごとか。


 さっきから話してるご主人様とか王様とか……おれのことか?


「よきにはからえー」


 王様の子がいった、かなり偉ぶった感じで。


 やっぱちがうな、おれはそんな事言わない。


 と、思ってると。


「だめだよイワンくん、王様はそんな事言わないよ」


「そうだ。やっぱだめだなお前、王様の事なんもわかっちゃいない」


「えー」


「おれが本物の王様を見せてやるよ。ってことでお前邪神な」


「また邪神? せめて奴隷様――」


「王様をミスった罰だ」


「わかったよぉ」


 男の子が立って、二人の男の子が向き合った。


 女の子が王様役の男の子の後ろにたつ。


「覚悟しろ邪神」


 王様役の男の子、なんかノリノリだった。


 どうやら、やっぱりおれの事みたいだ。


 奴隷と一緒に戦う王様、途中で奴隷に「お前の笑顔が力になる」って話して、邪神を撃退する王様。


 ……おれの事だなよあ。


 なんというか恥ずかしい、こうしておままごとのネタになるのって。


 そんな本人の気持ちなど知らず、子供達は満足そうな顔をした。


「ふう、喉渇いた」


「じゃあジュース買いに行きましょ。あたし、ママからお小遣いをもらってるんだ」


「すげえ、千エン札じゃねえか」


「ねえ、おじちゃんのお店に行こうよ。あそこのジュース、当たりが出たらもういっぱいもらえるんだ」


「うん。行こう」


 子供達が公園から出た。


 なんか微笑ましかった。


 おれはコモンカードを取り出して、三人に運アップの魔法を掛けてやった。


 そして、次の現場に向かおうと振り返って歩き出す。


「やった! 大当たりだぜ」


 遠くから子供達の声が聞こえてくる。


 よかったな、当って。


 そう、思った時。


 子供達に魔法を掛けたカードが光った。


 昼間でもなおまばゆいほどの光――見覚えのある光。


 コモンカードが、レアカードに進化した。

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