邪神襲来
リベック宮殿、執務室。
座ってるおれの前に立ってるユーリア。
いつも通り秘書っぽいたたずまいで報告してくる。
ゴミの処理場が出来た。
ユーリアがおれに報告した。
「ゴミの処理場にお試しのゴミを運んで、燃やしてみた」
「お試しっていい方は新しくていいな。で、どうなった」
「レールが出来てなかったから、量は少ないけど。全部燃えた。燃えたあと何も残ってない」
「なるほど」
稼働実験としては上々って所か。
「でも、DORECAで作ったものはちょっと残る。他の倍くらいの時間がかかる」
「時間がかかるか。ちゃんと燃えはするのか?」
「する」
小さく頷くユーリア。
「そうか」
あごを摘まんでちょっと考えた。
どういう理屈かわからないけど、DORECAで作ったものは燃えにくいってことなら、やっぱり分別させた方がいいな。
「ゴミの分別を徹底させろ。……そうだな、罰則よりなんかメリットみたいなのをつけてやれ」
「ルール作って、守った人は抽選でご主人様が豪邸プレゼント」
それでどうかな、と小首を傾げて聞いて来るユーリア。
「ああ、それでいい。選別方法はお前が考えろ」
「わかった」
頷くユーリア、口元が微かにほころんでる。
意見が採用されて嬉しそうなのだが、魔力チャージのハードルが高い。
まあ、嬉しそうだからそれでいい。
そのユーリアが退出して、入れ替わりにライサが入ってきた。
「ご主人様」
「どうした」
「その……あの……」
深刻そうな表情でなんか言いにくそうにしてる。
なんか察して欲しそうでもある。
どうしたんだろう。
しばらくライサを見つめて、切り出してくるのをまった。
やがて、彼女は決意した表情で言った。
「じゃ、邪神が現われたって聞いて」
「ああ、現われた。しかも聖夜になってた」
その話か。
……その話で難でこんなにまごまごしたんだ?
「その、わたしは……?」
「うん?」
「わたしは……ご主人様の奴隷のままでいいのでしょうか?」
「……ああ」
ポン、と手を打った。
ようやく気づいた、というか思い出した。
第五奴隷ライサ。
出会いで言えば第一奴隷リーシャと同じタイミングだけど、第五なのは彼女が元々聖夜の奴隷だったからだ。
聖夜が死んで、おれの奴隷になった。
が、そこに死んだと思った聖夜が復活した。
自分の身の振り方を気にするのも当然だ。
かと思えば、それだけじゃないみたいだ。
ライサの顔は……なんか必死だ。
必死におれにすがって、捨てられたくないって顔だ。
「お前はずっとおれの奴隷だ」
まずははっきりと、結論を突きつけた。
「本当ですか」
「ああ。おれは奴隷を捨てない、誰にも渡さない。言わなかったか? おれの奴隷になるって事は、生涯おれの仕える覚悟をもつってことだ。なかったのか? 生涯おれのものになる覚悟が」
「ううん!」
ぷるぷるぷる。ライサは必死に首を振る。
「ずっとそうしたい」
「だったら問題ないな」
「はい……よかった、あの人に返す、って言われたらどうしようかって思ってた」
「そもそもその発想がなかったな」
立ち上がって、ライサのそばにやってくる。
首輪を優しく、だけど強く引っ張って顔を上向きにさせる。
「ライサはおれの奴隷だ、一度奴隷になったんだから、何があっても誰にも渡さない」
「ご主人様……」
「だから気にするな」
「はい」
ライサが笑い。
――魔力を100,000チャージしました。
心の底から嬉しそうにした。
☆
リベック宮殿、スベトラーナの部屋。
部屋の中に入ると、三人のエターナルスレイブがいるのが見えた。
第六奴隷スベトラーナとその娘のオリガと、目を覚ましたホルキナ。
彼女はベッドの上で体をおこしている。
「やっほー、お久しぶりだねアキトちゃん」
「変わらないなお前は」
「もっちろん。ホルキナちゃんは世界でいっちばんホルキナちゃんなのさ」
「意味わからん台詞なのにすっごくよく分かるってすごいよな」
「あははは、アキトちゃんの方がいみわからないよ」
ベッド横にやってくると、まってましたとばかりにオリガが椅子を運んで来た。
ご苦労、と一言ねぎらってから椅子に座った。
改めて、真顔でホルキナを見る。
「状況はわかってるか?」
「なんとなく。ヤバイのが復活したんでしょ」
アレをヤバイの一言でまとめるか。わかりやすくていいが。
「そういうことだ」
「ヤバイね、どうするの?」
「安心しろ、あいつはおれが何とかする」
「何とか?」
「ああ、なんとか。前の邪神はともかく、聖夜とは因縁がある……少なくとも向こうはそう思ってる。だからおれが何とかする」
「そっか」
「どのみち、この世界を再生するには放っておけない相手だしな」
「そかそか。かっこいいねアキトちゃん」
「茶化すな」
「茶化してないよ。本当にかっこいいって思ってるんだよ」
「だからいつも言ってる。その喋り方を改めろと」
黙っていたスベトラーナが口を挟んだ。
親友だからこその苦言、って感じだ。
「あははー。ごめんごめん」
頭に手をあててケラケラ笑う。
本当にわかってんだろうか。
「あっ」
そのホルキナは表情を変えた。
珍しく真顔だ。
「どうした」
「そうだ。あいつ言ってたよ、『ヤツがエターナルスレイブの王なら、おれはリグレットをもらう』って。だから――」
「あー、それなら大丈夫。手を打っておいた」
「え?」
驚くホルキナ。
丁度その時、外から足音がした。
足音が徐々に近づいてきて、ドアを開けて中に入ってきた。
「ご主人様」
ユーリアだった。
「ご報告」
「どうだ」
「親衛隊から連絡。魔物の大軍が予想通りリグレットの首都に出現。主砲二発を含めての艦砲射撃で追い払った」
「二発も撃ったのか。相当な数だったんだな」
状況を想像してみた。戦艦リーシャに主砲を撃たせたのならかなりの敵って事になる。
「マイヤに連絡。ご苦労、そのままそこの守りについてくれ。と。カザンの民もあとで増援によこすってのも伝えておいてくれ」
「わかった」
ユーリアが頷き、部屋からでていった。
一連のやりとりを聞いてたホルキナが目を輝かせた。
「すごいなあアキトちゃん。今のって先読みして親衛隊を守りに行かせたって事でしょ」
「ああ」
「すっごーい。なんか天才軍師みたい」
「聖夜がおれに対する執着を考えればそうするのは簡単に予想がつく」
聖夜がやりそうなこと。
おれが作った町を壊すこと。
奴隷を奪うこと。
そして今の――リグレットを自分の物にすること。
いくつか考えて、プライドが無駄に高くておれに勝ちたい聖夜だったらリグレットを襲うって予想した。
そして予想通りだった。
……聖夜。
それはそうと、ホルキナがますます感心・尊敬の眼差しを向けてきた。
「ねえねえアキトちゃん」
「なんだ?」
「あたしも奴隷にし――」
ホルキナの言葉は中断された。
ドーン! という、頭上から聞こえてくる爆発音で。
窓の外を見る、まわりの家が何軒か衝撃で倒れた。
「うそー、何これ。なんでココなんともないの?」
ホルキナが窓の外と部屋の中を交互に見比べる。
「この宮殿には絶対結界があるからな。そんな事より」
窓を開けて、身を乗り出す。
空に聖夜が飛んでいた。
「出てこい! 秋人ぉ!」
リグレットの一件でキレておれを襲いに来たが、宮殿に傷一つつけられなくていらっとしてる様子だ。
おれは身を翻して走り出した。
「ご主人様!」
「宮殿の中にいろ。何があっても出てくるな。ホルキナも捕まえてろ」
「はい!」
スベトラーナに命令しておいて、廊下に飛び出して、外に向かう。
おれは勝利を確信してる。
今の聖夜はまだおれに及ばない、おれが積み上げてきたものに及ばない。
この宮殿がびくともしないのが何よりの証拠だ。
だから……まずは追い払う。




