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涙のハグ  作者: 櫟 千一
自然の力で出来たエネルギー
12/19

11話

 僕ではなく、レニーニャが質問してくる。

「どうしたの?」

「レイゼイは、ううん。ニンゲンは、相手の心を読める?」

 このような質問をしてくるということは、やはり、彼女は僕の心を読んだのだろう。

「僕、そのことを考えていたんだよ。レニーニャは僕の心を読めるのかって。僕たちは読めない。だから、相手の読めない心を必死に理解して、相手に合わせなきゃいけない。だけど、それが出来ない人は世の中にたくさんいる。バカみたいだよね。読めない心情を理解しようだなんて。空気を読むって僕たちは言っているけど、実際、空気を読む行為は相手に合わせるだけって僕は思っているよ」

 空気を読むということは、僕はおかしな行為だとは思っているが、郷に入っては郷に従えという言葉があるように、僕も先ほどレニーニャが船の様子を見に行く際には、空気を読んで散歩をしようと提案したのであって、無意識のうちに僕も空気を読んで、人の顔色を窺いつつ生きている。

「そうなんだ。私たちは、読めるって言うよりも相手の考えが頭の中に無意識に流れ込んでくるって言った方が良いのかな。思ってもないことが、突然頭に思い浮かんだりするの。だから、唐突に質問したりするんだ。もちろん、ずっとじゃないよ。稀に現れる現象だから。それにしても、こうやってレイゼイの考えが流れ込んでくるって言うことは、地球人も高度な知能を持っている証拠なんだよ」

「じゃあ、時々、僕の心情を読み切ったような質問をしてきていたのは、全部僕の考えがレニーニャに流れ込んでいたってこと?」

「そういうことだね」

 笑みを浮かべている彼女に、僕は少々の罪悪感を覚える。

 悩んでいるのは彼女だって同じなのに、僕の個人的な、くだらない悩みが彼女の脳内に流れ込んでいたことに。

「……ごめん」

「どうして謝るの? 謝る必要なんてないよ。私たちイニジード人の身体がそう言う風になっているんだからさ。きっと、いつかレイゼイたちもそう言う身体になるよ。だって、地球人とイニジード人は似ているからね」

 相変わらず、レニーニャは屈託のない笑顔を僕に見せている。

 彼女も未知の惑星に不時着して、僕のような姿かたちが似ていると言うだけの、初めて会う生命体といるから、絶対に辛いはずだ。

 だからこそ、僕は早くレニーニャの船にエネルギーを補給して、彼女を母星のイニジードへ帰さなければならない。

 生を享けた瞬間に、死へ向かうように、出会いがあれば、別れもある。

 光があるから影があるように、世界は表裏一体なんだ。

「レイゼイ? 大丈夫?」

「えっ? もちろん大丈夫だよ。あ、ほら。もう着くよ」

 話を変えるために、目の前にあった看板を指さす。あと200メートル先を左折すると到着するそうだ。

「それにしても、この辺りは海と一切関係なさそうだね。どちらかと言うと、森?」

 レニーニャの言う通り、この辺は植物で生い茂っていて、海が見えない。本当に二百メートルで海に着くのだろうか。

「自然の力で出来た場所かあ。どんな場所なのかな」

「レニーニャの船がある場所とほとんど一緒だよ。ただ、自然の力で岩に穴が開いたりしているだけ。ああ、そう言えば遊覧船にも乗れるみたいだし、せっかくだから乗って行く?」

「遊覧船って何?」

「ゆっくりと海の上から観光するための船だよ。近場で見た方がエネルギーも溜まるんじゃないかと思ってさ」

 話しているうちに、左折する場所へと到着する。

 しかし、地図を開いてみると、ここを左に曲がると歪曲の道を通らなければいけない。それならば、あと500メートルほど進んだ方が確実だろう。

「あと少しだけ、歩いた方が良いかもしれない。ここを曲がると、変な道を通ることになるんだ。だから、もう少し歩こう」

 レニーニャは頷いたのを確認して、僕たちは歩き出した。

 左折する場所からは海が見えていた。

 しかし、レニーニャは海に一瞥もくれずにまっすぐ進みだした。

僕が車道側にいるので、レニーニャの視界には僅かでも海が見えるはずなのに、反応すらしなかった。

「レニーニャ、海が見えたのに、どうして無反応だったの?」

「今見ちゃうと、その遊覧船って乗り物に乗ったときに、楽しさが半減しちゃうもん」

 頬を赤らめて話している彼女を見て、じわじわと腹の底から笑いがこみ上げてくる。

 耐えられなくなった僕は笑い出す。

「な、何で笑うの!?」

「レニーニャ、結構真面目なのに、子供っぽい一面もあるんだなって思ってさ。いや、本当、悪気はないんだけど、あはははは」

 顔を真っ赤にしていたレニーニャに、僕は自転車の後ろに乗るよう催促する。ここから先はまた坂道になっているので、ここは自転車で降りた方が良いだろう。

「乗って。坂道だから、自転車に乗った方が良いよ」

 有無を言う前に彼女はもうすでに僕の背後に座っていた。

「しっかり捕まっていてね。さっきの坂より緩いけど、結構スピードは出るから」

 自分の服が少しだけ強く握るのが感覚で分かったので、僕は地面を強く蹴り、地面から離れる。徐々にスピードが増していき、あっという間に下り坂は上り坂へと変化する。

 少しだけ立ちながら自転車のペダルに力を入れると、駐車場へと到着する。

 やはり県道から来て正解だった。地図で見ただけで複雑だと分かる道を通るくらいなら、遠回りでもこの道から来るべきだったのだろう。

 どの道を選んでも、それが僕の選んだ道になる。それが遠回りでも。

 自転車を適当な場所に止めて、僕たちは遊覧船乗り場へと向かう。辺りは誰もいない。初めて来たので普段は賑わっているのかすらも分からない。遊覧船は一部では有名だが、本当に一部であり、実際はどれほどまでに有名なのかは分からない。

 2人分の料金である2000円を支払い、僕たちは船に乗る。

 初めて乗るので、僕も少し緊張している。

 レニーニャの方に目を向けると、岩ではなく、海の方ばかり見ていた。

「本当に綺麗。私、この海を見られただけでも、例え偶然だとしても、地球に来て良かったって思うよ」

 海に目を向けて、彼女はそう呟いていた。

 船に乗り込むと、数分で動きだし、遊覧船に揺られながら岩場を見て行く。乗員は、僕とレニーニャの2人しかいない。まさしく貸切りと言うものだ。

「レニーニャ、大丈夫? エネルギーは溜まっている?」

「うん、自然の力ってやっぱりすごいよ。荒波で削ぎ落とされた岩場からこれでもかってくらいエネルギーが吸収されている。だけど、欲を言うと、もう少し近付きたいかな?」

 レニーニャの願いを聞いていたかのように、遊覧船は岩場へと近付いて行く。そして、自然に出来たのであろう穴の中へと入って行く。

「わっ! すごいなあ。こんなところに入っちゃうんだ……」

 目だけを動かし、彼女の方を見てみると、祖父母の家で魚介料理が出てきたときのように目を輝かせていた。

「ここ、自然に出来たのかな? もしもそうならば、自然の力って言うのは、とてもすごいよ。ニンゲンには出来ないことをやっちゃうんだもん」

「人類は自然に勝てないんだ。自然の力はいつ来るか予測も出来ないからさ。特にここ、日本は自然災害が多いんだ。その自然災害の力をエネルギー変換できるレニーニャ達は本当にすごいと思うよ」

「私が生まれるずーっと前からいた先駆者がすごいだけだよ。私はそんなにすごいわけじゃない」

「謙遜しなくても良いよ。君はすごい。未知の惑星で、こうやって1人でいるんだ。僕には絶対に無理だよ」

「1人じゃないよ。私にはレイゼイがいる。レイゼイみたいな優しいニンゲンがいなかったら、絶対にイニジードには帰ることもなく、きっと地球で死んでいたと思う。本当に、レイゼイには感謝してもしきれないくらいだよ。改めて言うよ。ありがとう、レイゼイ」

 笑顔で彼女は僕に謝辞を述べているが、その笑顔を見て、僕は心臓の鼓動が速まる。

 僕もレニーニャも、どちらも助けられていると思っている。支え合っていると言ったほうが良いだろうか。

 僕は、レニーニャに気付かせてもらったことがたくさんある。

 レニーニャも僕からいろいろと学んでいる。僕たち2人は、気が合うのかもしれない。

 しばらく船は岩場の周りや、少しだけ沖の方へと移動していたが、数十分もすると、船乗り場に戻ってくる。

 船から降りて、ぼくはレニーニャに質問する。

「どう、エネルギーは溜まった?」

「見て! ばっちりだよ!」

 球体の中央にある隙間からは、緑色の液体がゆらゆらと揺れているのが見えた。

 これが自然のエネルギーを液体化させたものなのだろうか。



「帰る? それとも、もう少し海を見て行く?」

 レニーニャは唸ったあとに、僕の方を見て、笑顔で話し始める。

「帰ろう。船にエネルギーを補給したい」

 返事をして、僕たちは海に背を向けて自転車がある場所へと向かった。

 レニーニャは何度か海の方へと振り返っていたが、すぐに背を向けて歩いていた。

 自転車に跨り、ペダルを回すと、辺りが薄暗くなっていることに気付く。同時に、匂いで雨が降ることを僕は察知する。

「急ごう、このままだったら雨が降る」

「どうして分かるの?」

「空が曇ってきているし、何よりも雨の匂いがするんだ」

 この雨の匂いと言うものは、田舎の人にしか分からないと聞いたことがある。

 18年もこの片田舎に住んでいれば、そう言う力が身に付くのも頷ける。

 坂道を下っている辺りで小雨が降り始めていた。急がなければずぶ濡れになってしまう。

「レニーニャ、タオルが入っていると思うから、頭に被っていなよ。何もないよりかはマシだと思うから」

 彼女の方をそっと見てみると、僕の指示に従わず、木々を見つめていた。

「ううん。良い。私一人だけ良い思いをして、レイゼイだけが辛い思いをするなら、私も一緒に濡れるよ。だから、このまま家に向かって」

 彼女が話し終えると同時に、雨脚は強くなる。しかし、すぐに雨は止んだ。

「あれ? 雨が止んだ」

 レニーニャは驚愕の声をあげていたが、すぐに口を閉じた。僕も、水たまりでタイヤが滑らないように注意しながら帰路へと着いた。

 県道のトンネルを通ろうかと思っていたが、また雨が降ると面倒なので近道であり、通ってきた道である坂道を下ることにした。さすがに雨で濡れているので、自転車からは降りて行くことにした。

「雨、また降るかな?」

 空を見上げて彼女は呟く。僕に言っているのか、独り言なのかは分からない。

「きっと降るよ。ほら、海の上に暗雲が見えるでしょ。夕立になる前にエネルギーを補給して家に戻ろう。きっと熱いお湯が張られているからさ。今日はゆっくり休みなよ」

 小さく彼女は頷き、そのまま僕たちは坂道を下り、先ほど通ってきたトンネルを通って、港へと到着する。

 港の周りには誰もいない。先ほどの雨で、漁師の人たちも家に戻ったのだろう。

 斜め45度のこう配な坂道を、息を切らしながら自転車を押しながら上って行く。レニーニャも息を切らして、汗も掻いている。やはり、身体の構造的には僕たち人間とあまり変わらないのかもしれない。見た目も同じなら、身体能力も同じなのだろう。高度な知能を持つ生命を見ただけで言語を一瞬で翻訳できるような力は僕たち人間には備わっていないが。

「汗、拭わなくても大丈夫?」

「そう言うレニーニャこそ、汗拭かなくて良いの? 結構、汗掻いているけど」

「少しだけだよ。こんなのレイゼイに比べればどうってことない」

 坂道を上り終え、掲示板の横で僕はタオルで汗を拭う。この辺りも若干雨が降った形跡があるが、徐々に乾きつつあった。

 乾いたアスファルトに水が浸み込んだときの香りは、いかにも夏らしい匂いだから、僕は好きだ。

「レニーニャはこの匂い、好き?」

「うん、嫌いではないよ。何だか懐かしい感じがする。イニジードではこんな匂いしないのに、どうしてかな。あははは」

 汗を拭って、凍らせたお茶を勢いよくのどに通らせている彼女を見て、僕は少しだけ胸の鼓動が早くなる。ふしだらな考えを払拭し、レニーニャに声をかける。

「さ、雨が降る前に行こう。雲の色からして、さっきよりも強い雨が降るかもしれない」

 自転車に乗って、このまま祖父母の自宅へと戻ろうかと思っていたが、ここを真っ直ぐ進んで、祖父母の家の近くから行った方が早い。すぐに自転車の向きを変えて、僕はレニーニャを乗せて一目散に走りだす。

 5分もしないうちに祖父母家の近くの道に到着する。ここは、墓参りに来た際に母親と共に通ってきた道だと言うことを思い出す。次はレニーニャと共に来るとは思いもしなかった。

 自転車を隅に置いて起き、僕とレニーニャは暗雲が浮かんでいる海へと向かった。

 すぐにレニーニャの船がある場所へと続く階段が見えてくるが、若干濡れている。

「気をつけて、雨で滑りやすくなっているかもしれないから」

 僕の忠告を聞き、手すりに捕まりながらソロソロと降りて行った。



つづく

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