魔法がかかるとき
昔々、ある1人の少女がいました。
いつか自分の元には運命の王子様がやって来て幸せにしてくれると信じていました。きらきらな未来はいつか必ずやってくるのだと。
しかし、少女は気付きました、運命の人にはただ待っていても出会えないことに。
めまいがする。手元の時計は11時59分。
乾燥した目は赤くなり、メイクを落としていない肌はガサガサだ。
私、灰野 幸 36歳。
婚活廃人である。
幸という名前なのに私はいま、ちっとも幸せなんかじゃない。人生リベンジしたい、まじで。
乱れた机の上には、前月落とされた20000が記されている通帳がある。4年分記載されているこの通帳は私の努力の結晶なんかじゃない。私の人生の苦悩が詰まっている。
それまでは、仕事に明け暮れていた。気づけば28歳。
まわりの友達や知り合いは結婚していくなか、なにも気にしていなかった。
だっていつか自分には自分の王子様が現れるって信じてたから。
けど、来なかった。
そしてみるみるうちに30歳。
家族やまわりの友達に勧められ、マッチングアプリをはじめ、結婚相談所にも入会した。
が、結婚相談所は費用がかさむし、マッチングアプリは苦手だった。知らない人、しかも赤の他人とアプリで?仲介者がいる結婚相談所はまだマシだ。
今日はわたしが入っている結婚相談所の婚活パーティーだった。
ああ、自分には合わなさそうな人ばっかり。
年齢は自分より高めな人が多め。
誰があんなじじい、運命の人だって思うかよ。
年相応の格好を女性も男性もしている。
私はまだそのなかじゃ若い。
年相応ではなくともまだ赤が似合うのではと思って張りきって着た赤いワンピース。
うんいい感じ。
話しかけるならあっちから話しかけてこいよって感じなのよ!
自信満々だった。
けど、そんな順調にいかなかった。私が1番若くて綺麗なはずなのに。話しかけられたら、すぐ会話が終わって続かない。そして、みんな去っていってしまう。
なんで、、
周囲のざわめきだけが聞こえる。そのとき男性と話していない女性は私以外誰一人いなかった。
自分でも本当にわからなかった。
パーティーが終わった後、代表の植花雪美さんに言われた。
「あなた、いいかげん自分の立場わかってるの?
あなたは婚活市場で最下層にちかいのよ?
いつか自分には運命の人が現れるなんて思ってるんじゃないでしょうね?
そんなの大間違いよ
自分で掴みにいかなくってどうするのよ」
頭の上に急に衝撃が走った。
いや、急に頬を打たれたような感覚にちかい。
周囲の視線が一気にこちらに向いた。
会場のbgmは流れているはずのに一切流れていないように時間は過ぎる。
ある男性はこちらを見て怪訝そうな顔をし、ある女性はいやな笑いをしていた。口元は隠れていたので見えなかったがきっとニヤついている。
なぜ、今まで気づかなかったのだろう。
今更気づいたことが恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがなかった。その後のことはあまりよく覚えていない。1人で呑んだんだっけ。どうだったかわからない。
ただ、唯一覚えているのは帰りに見たショーウィンドウのガラスの靴。
まるでシンデレラの靴みたい。
クリスマスの時期だからか、夢みたいな商品も売られているんだな
夢みたい
月の光ではなく、人工の光に照らされるガラスの靴はキラキラと輝いてわたしを誘っている。
私がシンデレラだったらどうなるんだろう?
シンデレラも私と一緒で待ってるだけだったよね?
なのになんであんな素敵な王子様と幸せになれたんだろう。
ガラスの靴の隣にあるウエディングドレスは真っ白とは言い切れない少し青みがかった色をしている。
魔法の粉を散らしたようなそのドレスはショーウィンドウという窓一枚の隔たりをも感じさせないものだった。
私がシンデレラになったら、こんなウエディングドレスを着て、運命の王子様と隣で歩きたい。
今の私みたいに待ってるだけじゃなくって、自分で見つけ出してみせる!
「あれ?」
雪なんてさっき降ってたっけ
肩の薄茶色のコートの上には微かに雪が残っていた。
幸せじゃないわたしに雪はそぐわない
それこそ、あのウエディングドレスにガラスの靴を履いたシンデレラにはぴったりだ。
薄茶色のコートに靴紐がちりぢりになった靴を履いている私には灰だったらぴったりかも、なんて思いながら。




