第7話 空間生成の覚醒
白峰凛の研究室は、松阪市の外れにある古いビルの一室だった。
外観はくたびれているが、中は最新の機器が並び、まるで別世界のようだ。
翔は凛に案内されながら、部屋の中央に置かれた大型モニターを見つめた。
「ここが……研究室?」
「ええ。アークブレスの解析を続けてきた場所です。
あなたが適合者になった以上、ここはあなたの“拠点”にもなります」
翔は少し緊張しながら頷いた。
リュミナは部屋の隅で光を揺らしながら、静かに周囲を観察している。
『この場所……古代文明の残滓が微かに残っています』
凛は驚いたように振り返る。
「やっぱり精霊は違いますね。
私の機器では検出できないものまで感じ取れるなんて」
翔は腕輪を見つめた。
「……俺の力も、もっと使えるようになるのかな」
凛はモニターを操作しながら言った。
「ええ。あなたにはまだ“未解放の能力”があります。
その一つが――空間生成」
翔は息を呑む。
「前に少し使ったやつですよね。
透明な壁みたいなのが出て……」
「それは初期段階です。
本来の空間生成は、もっと大規模で……もっと危険です」
凛は画面に映し出された古代文字の解析データを指差した。
「アークブレスは、空間を“作る”だけじゃなく、
“繋ぐ”ことができるんです」
「繋ぐ……?」
「異空間への通路を作り、
敵の拠点に直接侵入することも可能になります」
翔は思わず息を呑んだ。
「そんなことが……俺にできるのか」
リュミナが翔の隣に立ち、優しく微笑む。
『できます。翔の意思があれば、空間は応えます』
「意思……」
翔は拳を握りしめた。
臆病でもいい。
怖くてもいい。
でも――逃げないと決めた。
「……やってみるよ。
俺は強くなりたい。
敵の拠点に行けるなら……仲間を守れるかもしれない」
凛は頷き、部屋の中央にある円形の装置を起動した。
「ここで空間生成の訓練をします。
まずは小規模な空間を作るところから」
翔は装置の中心に立ち、深呼吸する。
腕輪が淡く光り始める。
『翔。空間生成はあなたの精神状態に強く影響します。
落ち着いて、心を整えてください』
翔は目を閉じた。
暗闇の中で、自分の鼓動だけが響く。
「……俺は、守りたい。
凛も、リュミナも……自分自身も」
腕輪が強く光った。
空気が震え、床に淡い光の紋様が広がる。
「うっ……!」
視界が揺れ、空間が歪む。
凛が息を呑む。
「これは……初期段階を超えてる……!」
リュミナは翔の背中に手を添えた。
『大丈夫。翔、あなたはできる』
翔は歯を食いしばり、腕輪へ意識を集中させた。
「……開け!」
光が爆ぜた。
部屋の中央に、淡い青色の“扉”のような空間が現れる。
中は揺らめき、どこか別の場所へ繋がっているようだった。
凛は驚愕の声を漏らした。
「これ……異空間通路……!
訓練初日でここまで開くなんて……」
翔は肩で息をしながら、扉を見つめた。
「……俺が、作ったんだ……」
リュミナは誇らしげに微笑む。
『翔。あなたはもう“臆病なだけの人”ではありません』
翔は拳を握りしめた。
「……行ける気がする。
敵の拠点にも……この力があれば」
凛は真剣な表情で頷いた。
「ええ。
オルド・レムナントの本拠地に潜入するためには、
あなたの空間生成が必要不可欠です」
翔は扉を見つめたまま、静かに息を吐いた。
臆病でもいい。
怖くてもいい。
――でも、進む。
アークブレスの光が、翔の決意に応えるように強く輝いた。




