第二部 第12話 凛の決断(影の侵食)
影の王が姿を現した翌日。
研究室には、いつも以上に重い空気が漂っていた。
凛はモニターの前で作業を続けていたが、
その手は時折震え、呼吸も浅くなっていた。
翔はその様子に気づき、声をかけた。
「凛……大丈夫か?」
凛は笑おうとしたが、
その表情は明らかに無理をしていた。
「だ、大丈夫よ……ただ少し疲れてるだけ……」
しかし──
次の瞬間、凛の身体が大きく揺れた。
「っ……!」
翔は慌てて駆け寄り、凛の肩を支えた。
「凛!? どうした!」
凛は胸を押さえ、苦しそうに息を吐いた。
「……身体が……重い……
視界が……揺れる……」
リュミナが凛の周囲に光を向けた瞬間──
その光が黒い影に吸い込まれた。
『……翔……!
凛さんの身体……影の力が侵食しています……!』
翔は息を呑んだ。
「影の力が……人間にも……?」
アーク・ネオの声が重く響いた。
『翔。
影の王が世界へ干渉を始めたことで、
影の力は人間の“存在情報”にも影響を与えています』
凛は震える声で言った。
「……影の文明の研究を続けていたから……
私は影の力に最も近い位置にいた……
だから……侵食が早いのよ……」
翔は凛の手を握った。
「そんな……凛が消えるなんて……絶対に嫌だ!」
凛は弱く微笑んだ。
「翔……あなたは優しいわね……
でも……影の力は強い……
私の身体は……もう限界に近い……」
リュミナは涙を浮かべながら言った。
『凛さん……影の力があなたの存在情報を……
“書き換えよう”としています……』
翔は震える声で言った。
「……影の王……許さない……
凛を……世界を……こんなふうに……!」
アーク・ネオの声が静かに告げた。
『翔。
凛の存在情報を守る方法はあります』
翔は息を呑んだ。
「あるのか!? どうすればいい!」
アーク・ネオは続けた。
『あなたの“深層存在干渉能力”を使い、
凛の存在情報を固定することができます』
凛は首を振った。
「……ダメよ、翔……
あなたの精神に負荷がかかりすぎる……
リュミナを守るために力を使った時でさえ……
あなたは苦しそうだった……」
翔は凛の肩を掴んだ。
「凛を守れるなら……俺は何だってやる!」
凛は翔の手を握り返し、
静かに首を振った。
「……翔。
あなたは世界を守らなきゃいけない。
影の王と戦えるのは……あなたしかいない。
だから……私のために無理をしないで」
翔は震える声で言った。
「凛……そんなこと言うなよ……
俺は……仲間を守りたいんだ……!」
凛は静かに微笑んだ。
「……翔。
私は研究者よ。
影の文明の力を解析するために……
自分の身体を使う覚悟はできてる」
リュミナは涙を流しながら叫んだ。
『凛さん……そんな……!
あなたが消えたら……翔が……翔が……!』
凛はリュミナの頭を優しく撫でた。
「リュミナ……あなたは優しいわね……
でも大丈夫。
私はまだ消えない。
影の力の侵食を……自分で抑える方法がある」
翔は驚いた。
「そんな方法……あるのか?」
凛は静かに頷いた。
「影の文明の研究を続けてきたから……
影の力を“自分の身体に封じ込める”方法を見つけたの」
翔は息を呑んだ。
「封じ込める……?」
凛は胸に手を当てた。
「影の力を私の身体に固定すれば……
世界への侵食を一時的に止められる。
その間に……翔が影の王を倒せばいい」
翔は叫んだ。
「そんなの……凛が危険すぎる!!」
凛は静かに言った。
「翔。
あなたは世界を守るために死んだ。
そして復活した。
私だって……守りたいものがある」
翔は言葉を失った。
凛は翔の手を握り、
優しく微笑んだ。
「……翔。
あなたが戦えるように……
私が影の力を抑える。
それが……私の決断よ」
リュミナは涙を流しながら言った。
『凛さん……あなたは……強い……』
アーク・ネオの声が静かに響いた。
『翔。
凛の決断は正しい。
影の王との戦いを始めるためには、
影の侵食を一時的に止める必要があります』
翔は拳を握りしめた。
「……わかった。
凛の決断を無駄にしない。
絶対に影の王を倒す」
凛は静かに頷いた。
「翔……あなたならできる。
私は……あなたを信じてる」
翔は凛の手を強く握りしめた。
「凛……絶対に助ける。
影の王を倒して……君を取り戻す」
凛は微笑んだ。
「……待ってるわ。
翔」
影の侵食は進み、
凛は自らの身体を“影の封印”として使う決断をした。




