初仕事
目が覚めると、妙なぬくもりと重さを感じた。寝ぼけ眼をこすり、枕の横にある眼鏡をかけると、そこにはエヌとリリがいた。
いたといっても、ベットの横に立っていたとかではなく布団の中にいたのだ。なぜ?しかもエヌは服にしがみついて話してくれない。リリについては明らかに起きていて、こちらの様子をうかがっている。何がしたいのかわからない。
「何でここにいるの?」
「ざこざこお兄さんのことだから環境が変わったら寝れないかなと思って添い寝してあげてたんだよ♡」
「二人が来る前に寝てただろ!」
「そうなんだけどぉ、もし夜に目が覚めて部屋に一人だったらかわいそうでしょ♡だから一緒に寝てあげたんだよ♡ね♡」
「私はリリがお兄さんに悪戯をしないか見張るために来た。」
そのわりにくっつきすぎな気がする。というか、
「起きていたのか...」
「私たちは本来肉体を持たない存在。この姿は仮の肉体だから少し寝るだけでいい。」
「そんなことより、今日はざこざこお兄さんの初仕事の日だよ♡」
「その雑魚雑魚言うのはやめてくれない?」
「へー♡ヒョロヒョロのスカスカなのに骨のあることは言えるんだ♡でもさ、ここじゃお兄さんは何も知らないに等しい赤ちゃんなんだよね♡」
リリは俺を担ぎ上げるとそのまま部屋から連れ出した。
「ちょっと待って、着替えてからじゃないと...」
「お兄さん起きるの、おそおそ♡だからぁ予定よりも押してるの♡わかる?」
「はい。すみません。」
個室から二つ隣の部屋はロッカールームだった。リリは「イプシロン」と書かれたロッカーに俺を押し込み、「ばいばい♡」と言いながら手を振った。次の瞬間、地面が開き下に落ちる。出勤のたびにこの恐怖のアトラクションを体験しなければならないのだろうか。
気が付くと、別のロッカーの中にいた。髪は整えられ、スーツ姿になっていた。ロッカーから出ると昨日食べた食事がのどをこみあげてくるのを感じたが、それを無理やり飲み込み、何とか耐えた。
「へー♡お兄さん、スーツは似合うんだね♡かっこいいじゃん♡」
「うん。似合ってるよ。」
二人の先ほどまで着ていたかわいらしい寝間着からスーツに代わっていた。リリはツインテールになっていた。
今回の仕事は山奥にある壊された祠から湧き出ている瘴気を処理することらしい。目的地までは空を飛んでいけるらしい。その程度奇跡なら祈りも必要なく出来るらしい。移動中、エヌが仕事について確認をする。
「今回の仕事は簡単。だから基本は私がやる。リリの力を使うには契約とそれに伴う代償が必要になる。」
「代償...」
「代償って言っても、大抵の妖怪はちょっと血をもらうだけで倒せるんだけどね♡お兄さんが良ければ個人的な要望にも応えられちゃうんだよ♡」
「だめ。悪魔の力を使いすぎると、祈りが届かなくなる。」
現地に着くと、リリがスコップを取り出し、壊れた祠のそばを掘り返した。どんな化け物が出てくるかと思ったがそこにいたのは水色の粘液、いわゆるスライムのようなものだった。
「お兄さん。祈りの言葉。」
俺は昨日教えられた祈りの言葉を声にする。
「天に在す我らの父よ、御名がすべてにおいて崇められますように。御国がこの世界に満ち、御心が天と同じく、地にも成し遂げられますように。今日を生きるための糧を、我らに与えたまえ。我らが人を赦すように、我らの過ちをも赦したまえ。我らを誘惑に委ねず、すべての悪から解き放ちたまえ。力も、栄光も、永遠にあなたのもの。アーメン。」
するとエヌのヘイローが光り輝き、彼女がスライムに手をかざすとスライムはあっさり消え去った。
「終わった。」
「これだけ?」
「うん。最初だから。」
「実績のない、ざこざこお兄さんに任せられる仕事はこれくらいだよね♡実績ちぃっちゃ♡仕事ちっちゃ♡」
「まぁ、仕事は楽な方がいいから」
「それは違う。最終戦争はまもなく来る。急いで世界の祈りを増やし、布教をしなければいけない。」
「それに仕事の失敗は絶対に許されないんだよね♡もし失敗したら、どうなるかわかる?」
二人の言葉は単なる脅しには聞こえなかった。仕事を終えて気の抜けていた気が引き締まる。二人は本物の天使と悪魔なのだ。
「大丈夫。お兄さんは大丈夫。祈りの言葉も届いたし、天使は嘘つかない。だから大丈夫。」
エヌはまさに天使のように微笑んでいる。




