〈TURN-1〉ミアと愛海が、LRポートで出逢う。
―――私、ルカがミアさんと愛海さんに出会ったのは、丁度1年くらい前でしょうか。
時は超次元ゲーム西暦・0049年。これは近未来の時代で、ゲームワールドオンラインが創生されてから数えて、49年経った年を意味します。
そんなゲームワールドオンラインのとあるエリア。緑生い茂る平野に砂利で創られた一本道。しかし地平の彼方を覗けば、色彩鮮やかな澄んだ青に染まった果てしなき電脳の大海原。
平野から、熱海の道を彷彿させる急斜面の坂を降りていくと、そこには漁船やら巨大なコンテナ・クレーンやらが立ち並ぶ港湾となっていた。
仮想空間と言えども、現実と見まごう程の繊細な景色。これほどの自然を実現させる近未来の最先端技術。このヴァーチャルリアリティの風景を、爽快なエンジン音で突っ走る車が一台あった。
「〜〜♪♫」
真っ赤なボディにスポーティなデザイン。仕上げに運転席の頭が開いたオープンカー。運転席には端正な美顔とロングヘアー。フレームの薄いスマートな眼鏡が特徴的な女性が鼻唄を交えて走っていた。
――彼女こそが、『ミア・斎藤・モーントリヒ(当時20歳)』さん。日本とドイツ生まれの両親から生まれたハーフなのです。
彼女の目的地は、先程紹介した港湾の様。……でも向かっていたのは、彼女だけでは無かった。
「止めてえええええええぇぇぇぇぇぇぇッッッ」
「?!」
ミアさんのオープンカーを容易く追い越し、エンジン全開で、平野を前輪を浮かせたウィリーで突っ走る250cc相当のオフロード型オートバイ。更に甲高い女性の悲鳴と共に現れ、悲鳴と共に去っていく。必死にブレーキを掛けてる様子も見えたが、減速する様子は全く無かった。
「…………え、な、何??」
ミアさんが弾丸のようなオートバイにきょとんと唖然とするなか、それは坂の下の波止場まで進路は続いていく。
このまま海に突っ込むかと思われたが、ギリギリの所で車体を倒す形で無理やりバイクを止めて、鉄がぶつかったような鈍い音を立てていた。
その様子と音は、約300メートル先のミアさんにもしっかり聞こえたようです。
「何なんですか、ありゃ……?」
変な人てすれ違ったもんだと、ミアさんも呆れた事でしょう。半ばバイクの人を心配しつつも、彼女も坂の下の波止場へ突き進んでいく。
⚀⚁⚂⚃⚄⚅
急勾配な坂を下って約4分。オープンカーに乗ったミアさんが辿り着いた港湾。
その主な役割としては、ゲームワールドの各ゲームのデータを運搬する輸送船や、プレイヤー達を別エリアへ移動する遊覧船を船舶させる為。謂わば海におけるパイプラインを果たしているのです。
ゲームワールドオンライン最大を誇る湾港エリアを人は、【LRポート】と呼んでいます。
「う~ん、潮の香りが心地良いですね〜!」
LRポートに駐車したオープンカーを降りて、電脳の海から漂う海風を全身に浴びるミアさん。
このゲームワールドオンラインでは、最先端技術の力で実際の潮騒の雰囲気を、限りなく本物に近づけた事が特徴なのです。
現実からゲームワールドへ転送される際は、とある方法で人間の身体を電子の粒子に変換させて、電脳空間にて身体を再編成させるという仕組みとなってます。
それなのに電脳世界の太陽から出る紫外線や、湿度、海の生暖かさは現実と殆ど変わらない感覚。
この事から、人々はゲームワールドオンラインを“第二の地球”とも呼んでいるんだそうで。
(……そういえば、あのバイクの人は大丈夫かな……?)
やっぱりミアさん、さっきの暴走オートバイの人が気になってるみたいですね。遠くから見た限り、運転してた人はオートバイから転倒して、背中をもんどり打ってましたから。きっと其処らに―――
「痛っっったぁ〜〜〜、背骨打ったぁ……」
居 ま し た。
(何であんなに事故って腰痛だけで済んだんですか。不死身ですか、彼女は?)
と、半ば呆れ返りながらも彼女の無事にほっと胸を撫で下ろす。
背中を痛そうに抑えながら、船着き場の海までギリギリで横転停止したオートバイから後輪側に縛っていた大きい荷物を取り出し、それを一気に背負い込む彼女。
痛打した背中の痛みと、明らかにリュックサックの容量を超えた大荷物でヨロヨロと覚束ない様子で、遊覧船へ向かう。
(危ないなぁ……、心配になってきた!)
フラつきながらも、遊覧船乗り場のゲートを潜り、オートバイを搭乗させて、タラップで船に乗り込む彼女。その後ろには心配になって後をついてきたミアさん。
大きな荷物からチラついている中身を見たミアさんは、彼女の詳細を推理していった。
(リュックが青い迷彩柄。それに5日分の白無地肌着と、医療キットがはみ出てる。―――彼女はきっと、自衛隊の方でしょうね)
仮説が本当にそうだとしても、不自然が勝ります。
何故って、見るからに無計画な印象がある荷物の量と、重量オーバーでオートバイを横転させるほどの天然記念物が、自衛隊に勤めてるなんて…………いえ、決めつけは良くありませんね。
なんて言ってる最中、その大荷物が災いしてバランスを崩した彼女がタラップの段を踏み外した。
「わ、わ、や、いや、あら〜〜〜〜!!?」
―――ガシッッ
後ろへ転がり落ちる直前、後ろで見張っていたミアさんが両手で彼女の身体を抑えてくれました。
「……あ、ありがとう!」
「どういたしまして」
ミアさんはそのまま彼女の荷物を後ろから支えて、彼女の移動を手助けする。そして無事に彼女は船へ乗り込む事が出来た。
遊覧船に乗り込むと、そこには無数の客が乗り込んでいた。主に子供達とその親や保護者が大半を占めていました。
そんな客の中には、背広姿に帽子を深く被った年配の男と、その娘と思われる女性も乗っていました。
船員が彼等の荷物を運んでいる最中、その船員が床に滑って転倒し、預かったショーケースの中身が飛び出るアクシデントがあった。
年配の男はその様子を見て急に慌て、船員を突き飛ばしてまで飛び出た衣類よりも先にジュエリーケースのようなものを確保し、何かに警戒している様子でこっそりと背広の中にしまい込んだ。
この様子を観ていたミアさんは疑問を持ちつつ、入船手続きに入るのでした。
⚀⚁⚂⚃⚄⚅
―――午後5時頃。ミアさん達を乗せた遊覧船が、ゲームワールドの別エリアを目的地に出発した。
船のスピードは緩やか、波の揺れも少なく、海の水面に沈みゆく電脳の太陽目掛けて突き進んでいく。
遊覧船のメインデッキにて、潮騒の香りを楽しみつつ海を眺めているミアさん。
そこへ、重い荷物を預けてミアさんを探していた先程の女性が近付いてきた。恐らくタラップでのお礼を言いたかったのでしょう。
「ん、貴方は……!」
「やっと見つけた〜! さっき助けてくれたお礼したくて! あたし、日向愛海! 前に海上自衛官をやってたんだ。貴方、お名前は……?」
「……ミアです。ミア・斎藤・モーントリヒ。――投資家をやってます」
私の推理は当たってた……!と、一瞬したり顔になりながらも、真摯に愛海さんと挨拶を交わすミアさん。
元海上自衛官に投資家、お互いに興味が尽きない職を自己紹介に交わし、話題が盛り上がっていく。
「投資家!? って事は、お金とか株とかに詳しいんでしょう? いーなー、頭良さそう! あたし頭よりも身体の方ばかり良くなっちゃって。ほら自衛隊だから、訓練とか海上調査とか身体に来る仕事ばかりやってて、もう勉強する暇なんかナッシング! なんてね〜♪」
見かけに寄らずお喋りな愛海さん。これにはミアさんも拍子抜けた様子だったが、不思議と憎めなかった。
「やっぱり、投資家って知識も豊富じゃないとやっていけないんでしょ?」
「勿論ですよ。目的と資金の明確化、リスク&リターン、分散投資、長期・積立・再投資と、基礎知識をバッチリ叩き込んできました。
それに―――私、ボードゲームが大好きなんです!」
「………………ボードゲーム?」
投資家の用語はちんぷんかんぷんだったが、ただ1つ『ボードゲーム』の話題に食い付いた愛海さん。
――これが、ミアさんと愛海さんの出逢い。
そして私、ルカが2人と出逢う直前、この遊覧船を舞台にある事件が起こるのです。
その事件とは何か、続きはまた次のターンでお会いしましょう! 本日のターン、終了!!
⚀⚁⚂Go to the next turn!⚃⚄⚅




