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推しの好きと恋愛の好きは同じなのか


「はぁ……」


 

 部屋に戻り、そのままベッドにボスッと倒れ込む。

 さすがは公爵家御用達のマット。ふかふかなので、思いっきり飛び込んでも痛くない。



 

 ああ……今日もいろいろあったなぁ……。

 エリーゼとルーカスの初めての顔合わせがあって……。そこで初めてフェリシーとして紹介されて……。なぜかエリオットの婚約者だとか言われて……。変な流れで3兄弟の中から婚約者を選べって言われて……。ルーカスに告白されて……。

 

 これ、溺愛ルートならではの展開ってわけ?

 今までは恋愛のれの字もなかったのに、みんな急に婚約とか言い出したし。これ、もしかしたら本当に誰かとの恋愛ルートに進んじゃうんじゃない?




 これまで通りに過ごしていれば、誰の好感度も無駄に上がることなくバッドエンドで終わるものだと思っていた。

 そうなったら私はこの家を追い出されて終わり。ただ、それだけだって。なのに、今はこのゲーム世界が私に恋愛をさせようと動いている気がする。


 

「どうしよう……。バッドエンドで終わることはできないのかな?」


 

 好感度が100%にならずに終わったら、バッドエンド。

 誰かの好感度が100%になった時点で終わるハッピーエンドとは違い、バッドエンドはどのタイミングで終了となるのかわからない。



 

 普通ならイベントの回数が決まっていて、すべてのイベントが終わったら終了になるはずだけど……このクソゲーは全部でいくつイベントがあるのかわからないんだよね。

 そういう適当なところもクソゲーならではっていうか、まったく……クソゲー……ならでは…………ん?



 

 ベッドの上でゴロゴロしていた私は、ある事実に気がつきガバッと勢いよく起き上がった。

 なんとも嫌な考えが浮かんでしまったのだ。


 

「待って。待って!? そうだよ。これ、あの伝説のクソゲーじゃん! 一般的な常識が通用しない、あのクソゲーじゃん!」


 

 どの選択肢を選んでも好感度が上がらないとか、設定にも矛盾だらけのこのゲーム。

 そんなクソゲーなら、バッドエンドの終わるタイミングが決まっていなかったとしても納得できてしまう。



 

 嘘でしょ!? もしかして、誰かの好感度が100%になるまで終わらないとか……そんなんじゃないよね!?



 

 ありえない──けど、このゲームの中では十分にありえる話だ。



 

 ええ!?

 もし、もし本当にそうなら……私、誰かと恋愛するまでこの生活から抜け出せないってこと!?



 

「そんな……誰かと恋愛なんて、そんなの誰を選べば……って、そうだ! 今はルーカスがいるじゃん!」


 

 ずっと攻略対象者だったらと願っていたルーカス。

 まだ正式に攻略対象者にするとは決めていないけど、『はい』を選べばすぐにでも選択肢の中に入るはずだ。



 

 ルーカスの好感度は見えないけど、私と結婚したいって言ってくれてるんだしハッピーエンドは確実なんじゃない?

 イベントで好感度が下がる可能性はあるけど、たぶん他の人たちより好感度は高いはずだし。

 

 ルーカスを対象者にして、私の相手に選べば……私はルーカスと結婚して、無事にこのゲームを終わらせることができる……!?

 殺されたくない。それだけを考えて過ごしてきたけど、もうその心配もいらなくなる! 

 ルーカスと結婚すれば!



 

「…………」


 

 パァッと明るい未来が脳内を駆け巡っていく。

 大好きな推しと結婚をして、幸せになる自分──キラキラと眩しい未来が浮かんだあと、ふと疑問が浮かぶ。


 

「でも……推しへの大好きと、恋の大好きは違う……よね?」


 

 私の理想の男性像は、ルーカスのような爽やかで優しい王子様のようなタイプだ。

 前世ではいろいろな漫画を読んだりゲームをしてきたけど、推しになったキャラはみんなそのタイプだった。

 

 でも、現実で好きになった男の子に王子様タイプは1人もいない。

 そもそも王子様タイプの人が現実世界にはあまりいない……というのもあるけど、正反対の意地悪なタイプの人を好きになったこともあるのだ。



 

 まあ、あれは体育祭で活躍してる姿を見て、かっこいいって思っちゃったのが恋の始まりではあったんだけど。

 口も悪くて理想とは全然違ったけど、優しいところもあったしそのギャップにやられたっていうか……。



 

 過去の甘酸っぱい思い出に居た堪れなくなり、なんとなく自分に言い訳をする。

 推しに対しては心の中でも素直に『大好き! 尊い!』って言えるのに、本気の恋に対してはつい恥ずかしくなってしまうのだ。


 

「うーーん……。やっぱり私の中では推しと好きな人は違うような……。でも、ルーカスのことを好きなのは間違いないし。恋じゃなくても選んでいいのかな? んんーー……」


 

 頭を抱えながらブツブツ唸っていると、部屋のドアをノックされた。

 

 コンコンコン


 

「は、はいっ?」

 

「フェリシー。俺だ……ディランだ」

 

「えっ?」

 


 

 ディラン!? なんで!?

 ……あっ! そういえば、さっき不躾にダイニングを飛び出してきちゃったんだった!



 

 自分勝手な3兄弟に腹を立てて、睨みつけた状態のまま出てきてしまったことを思い出す。



 

 どうしよう。もしかして、怒られる!?

 最近のディランは優しかったけど、エリオットにはあれだけキレてたし……誰を婚約者にするか聞かれて、睨みながら「誰も選びません!」って叫んじゃったし、さすがに怒った……よね?



 

 恐る恐るドアを開けると、そこには気まずそうな顔で俯いたディランが立っていた。

 顔を見る限り怒っているわけではなさそうなので、ひとまず安心する。


 

「今、少しいいか?」

 

「はい……」

 

「あのさ、婚約のことだけど……」



 

 う。やっぱりその件だよね? 

 ちゃんと決めろって言われちゃうかな。


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