【2巻発売記念SS】俺だけクッキーを貰っていないだと?(エリオット視点)
こちらは本編45話あたりのお話です。
「おい、レオン! お前、クッキー食べたって言ってたけど、何枚食べたんだ!?」
「別に何枚でもいいでしょ」
「よくない! あれは俺が作らせたんだぞ! 俺と同じ数だったらおかしいだろ!」
「どうでもいいよ」
「…………」
夕食の時間にギャーギャー騒いでいる弟2人を見て、俺は眉を顰めた。
普段は喧嘩どころか会話すらしない2人が、共通の話題で言い合いをしている。
めずらしいな。
弟2人に興味はないが、その話題が『クッキー』ともなるとさすがに少し気になるというものだ。
ワトフォード公爵家の子息が、いったいどうしてクッキーなどというものに対してこんなに言い争っているのか。
「なんの話だ?」
「フェリシーが作ったクッキーの話だ!」
レオンを睨みながら肉を頬張っている愚弟に問いかけると、ディランは吐き捨てるように叫んだ。
答えを聞いて、より一層わけがわからなくなる。
フェリシーの作ったクッキー?
そんなもので何を怒ることがあるんだ?
イライラが治らないのか、ディランは水を一気に飲み干すとコン! と大きな音を立ててグラスを置いた。
周りに立っている使用人たちが、グラスが割れたのではないかとソワソワしている。
「あいつ、俺が作らせたのにレオンにも渡してやがったんだ。ったく、俺たち兄弟に媚び売りやがって。気に入らねぇ!」
「俺は何も貰っていないが」
「……え?」
俺の言葉に、ディランだけでなくレオンも驚いた目をこちらに向けた。
ポカンとしていたディランの口元が、だんだん嬉しそうに緩んでいくのを見て多少の苛立ちを感じる。
「エリオットは……貰ってないのか? レオンは貰ってるのに?」
……なんだ?
クッキーなんてどうでもいいが、無性にイラッとするな。
ディランの煽るような口調のせいか、どこか優位に立っているような顔をしたレオンのせいか、なぜかクッキーを貰えなかったことが不名誉なことのように思えてくる。
もしこの場にフェリシーがいたなら、なぜ俺には渡さなかったのかと問い詰めてしまいそうだ。
……いや。冷静に考えても、やはりどうでもいい。
それより今は、この調子に乗っているディランをこれ以上笑えなくなるくらいには追い込んでやるか。
「貰っていないな。それよりディラン、お前はそんなにフェリシーのクッキーを独り占めしたかったのか?」
「は?」
「俺にはそう聞こえたぞ。まさか、ディランが女の手作りクッキーにそこまで執着するとはな」
「なっ……!?」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていたディランが、一瞬にして真っ赤になって眉を吊り上げる。
レオンは俺の様子で何かを察したのか、「ごちそうさま」と言って早々に席を立っていた。
「何言ってるんだ!? あんな女のクッキーに執着なんかしてない!」
「そうか? そのわりに、レオンに何枚もらったのかと事細かく聞いていたじゃないか」
「あれは……っ、別にフェリシーとか関係なく……そう! ただクッキーをたくさん食べたかっただけだ!」
「お前がクッキー好きなんて、知らなかったな」
ニヤッと笑いながらそう言うと、ディランはガタン! と椅子を倒しながら乱暴に立ち上がった。
口喧嘩が得意ではないディランは、俺と言い合いになるといつもこうして逃げるのだ。
「そんなの、お前が知らないだけだろ! 自分だけクッキーが貰えなかったからって、めんどくさく絡んでくるな!」
「はあ?」
俺に反論される前にと、ディランはそう吐き捨てるなりズカズカとダイニングから出ていった。
……だから、なんでそのクッキーの価値がそこまで高いと思えるんだ?
わけがわからない……。
ディランの謎行動にため息をつき、俺は一人食事を続けた。




