第14話 馬鹿げた
「あ!ジェストさん!幸さん!どうぞこちら…へ?」
「…ああ」
「わかりました」
アリアが花のような笑顔を振り撒いて、ジェスト達を受付へ案内する。しかし、ジェストの後ろにある巨大な雑嚢を見て、顔を強ばらせた。無理もない、なんせギルドの扉に突っかかりそうな程に大きかったのだ。周りで騒いでいる冒険者もこの雑嚢に釘付けになり、一気に静かになった。
ジェスト達はあれから特に何事も無く、ダンジョンを脱出した。途中灰狼が何匹か出てきたが、ジェストが眼圧で怯ませ追い払っていた。
「ジェストさん、どうしたんですか?それ」
「…少し場所を変えたい」
アリアはジェストの並々ならぬ気迫に只事では無いぞと感じ、奥にいた受付嬢を呼び、代わりに応対を任せた。その後アリアはジェスト達を連れ、奥の接客用の部屋へと案内した。因みに化け物の素材は、取り敢えずロビーに放置されてある。
「さて、何があったんですかジェストさん」
「単刀直入に言うと、新種の魔物が一回層に出現した」
それからジェストはダンジョン内で起こった出来事を、自身のレベルアップやスキル《権限》のことは省いて説明した。
一通り説明し終わると、アリアは眉間に皺を寄せた。
「ジェストさんの話が本当なら、一時的にダンジョンの立ち入りに制限をかけ、調査しなければなりませんね。しかし――」
アリアは机に身を乗り出して、ジェストに鬼気迫る様子で近付いた。
「ジェストさん!無茶し過ぎです!!今回は何も異常はなかったから良かったものの――」
そこからはアリアの怒涛の説教が始まった。アリアは半ば涙目になりながら怒っていた。ジェストはそれを見て、申し訳ない、済まない、としか言えなかった。
約十五分経っただろうか。アリアは息を切らしながら椅子に座った。顔が涙目どころか涙でぐちゃぐちゃだった。
「ほんとに、もう、無茶はしないで下さい…」
「あ、ああ…本当に済まなかった」
「ぼ、僕も…すみませんでした」
ジェストと幸は頭を深深と下げ、謝罪をする。こんなにも自分を思ってくれていたのだな、とジェストは今更ながらに気付いた。
(いや、それはただの自惚れか?しかし、俺と相対する時と他の冒険者と相対する時の温度差が些か激しい気が…)
ジェストは一人思案に暮れていると、アリアが涙をハンカチで拭き取り、目を腫れぼったくさせながらも話し始める。
「ジェストさん、その魔物の素材を見せて貰えますか?こちらとしても、貴方が嘘をつくとは思ってはいないのですが…」
「まあ、それはそうだな。わかった、裏の広場を貸してくれ」
「確かに、あのデカさじゃ広場じゃないと入らないですね」
アリアはそれに首肯すると、三人は放置されていた雑嚢を受け取り、広場へと向かう。ここは冒険者達が主に訓練をする為に使う、所謂訓練所だった。その為、他の冒険者もちらほら目に入るが、ギルドに呼びかけてもらい退場させた。
「さてと、じゃあ出すぞ?」
「「「はい」」」
アリアを含めた三人のギルド職員が応える。するとジェストは雑嚢から引っ張り出した素材を、まるでパズルでも組み立てるが如く繋ぎ合わせていく。
一通り繋ぎ合わせると、そこには厚みこそ消えているが、既視感のある化け物の姿があった。
「…本当に知りませんね、こんな魔物」
「しかもこのちぐはぐさが何とも…まるで魔物を適当にくっつけたみたいな」
「とにかく、調べてみましょう。もしかしたら何かわかるかもしれません。調査に少々時間がかかりそうなので、ジェストさんと幸さんは退出して貰って構いませんが、どうしますか?」
「そうだな…取り敢えず一度宿に戻ってからここにまた来るか」
「ジェストさんがそういうなら。確かにずっと冒険者の格好でいるのも何ですし…」
ジェスト達は一度宿に戻るべく、ギルドを後にした。
ジェストは、幸がここに来るまで部屋で待つことになった。その間、普段着姿になったジェストは謎のスキル《権限》について、調べることにした。
「…ふむ、しかしとんでもない量の項目だな」
ジェストは取り敢えず、一番左端から攻めていくことにした。そこには『ダンジョン』と書かれている項目があった。それをタップすると何やら球体のような物が映し出された。
「これは…もしかしてスターティアか?」
映っていた球体は、この世界スターティアであった。しかも、何やら赤く点滅している所が多々あるようだ。
「…意味がわからん」
ジェストはまるで検討がつかず、色々弄り回してみた。すると、移動、拡大、縮小等の操作方法がわかってきた。先程の赤い点滅を拡大してみると、そこには建物のような絵があった。それをタップしてみるとまた別の画面に切り替わり、その絵は五つに分かれた。
「これは…ダンジョンか?」
ダンジョンは五つの層に分かれている。その共通点から、ジェストはこの絵がダンジョンだと推測したのだ。
画面の右端一列に、『設置物』『魔物』『環境』と三つの項目が並んでいる。ジェストは何か唯ならぬ予感がしたが、勇気を振り絞って『設置物』をタップする。すると――
「石、木、水…まさか、『このダンジョンを俺が操作できる』とか、無いよな?」
(もしそんなことが出来れば、俺は…とんでもない力を持ったことになる。だが、これはあくまで推測。この予想は流石に飛躍しすぎている)
しかしジェストはありえないと切って捨てることは出来なかった。未知のスキルなのだ。何があるかわからない。
ジェストは、画面を地図まで戻そうと色々弄っていると、左端に矢印があることに気付いた。それを押すと、前の画面に戻ることが出来た。そしてジェストは必死に地図からダーテダンジョンを探し出す。
「…あった」
ジェストの額に汗が滲む。ジェストは震える手で画面の『木』を選択し、ダンジョンの入口の目の前に配置する。もし、ジェストの予想が当たっていれば、明日ダンジョンの階段を登り切った先に、一本の木が生えている筈だ。
「…はぁ、他の機能は一体どんなものなんだ?」
ジェストは他のスキルの能力について調べ、めぼしい物にチェックを付けていく。
「…こんなの、化け物じゃないか」
中でも『魔法』は、オリジナルの魔法を作れてしまうというとんでもない代物だった。また『スキル』という項目は、どんなスキルでも付与できるらしい。
「他は…俺には必要ないものばかりだな」
ジェストはあまりの衝撃にベッドに倒れ込んでしまった。そして枕に顔をうずめて、大きなため息をつく。
すると、聞き覚えのある声とコンコンというノックが聞こえた。ジェストはむくりと起き上がり、鍵を開けドアを開くと、そこには幸が立っていた。
「どうも!お待たせしまし…どうしたんですか!?そんなやつれた顔して!?」
「…俺って人間だよな?」
「ホントにどうしたんですか!?!?」
ジェストは取り敢えず幸を部屋に招き入れ、ついさっき起こった出来事について淡々と話していった。
「…ジェストさん。さっきの質問に対しての答えなんですが、やっぱり人間じゃないかもです」
「…だよな」
「スキルと魔法作れるってなんですか!?意味がわからないですよ!?勇者ですらこんなチート能力持ってませんよ!!!涙目ですよ僕達!!!」
幸が少々パニックになりながら叫んだ。確かに、現地人が太刀打ちできないから勇者をわざわざ召喚したのに、それを軽く超えるスペックを持つ現地人がいたのでは、勇者の立つ瀬がないというものである。
「幸、落ち着け。冷静になるんだ」
「よく落ち着け…てませんね。足ガックガクじゃないですか」
幸がジェストの足元に目をやると、そこにはランマーの如く震えているジェストの足があった。さらにジェストの額から滝のような冷や汗が流れていた。
「…とにかく、他にも調べなければならない能力は大量にある。今日のうちに終わるといいが」
「ヒェッ…」
幸の顔からサーと血の気が引いていった。




