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番外編  幸せの貌

 厩で馬の蹄の音がする。私は繕いをしていた手を止めて慌てて、玄関まで夫を迎えに行く。玄関ホールで執事に出迎えられているところへ飛び込んで行く。


「お帰りなさい!」


 夫のたくましい胸に向かって飛び込む。


「こら、おてんば。腹の子に触るだろう」


 夫が慌てて抱きとめてくれる。夫の胸はとても温かい。


「だって三日ぶりなんですもの。会いたかった!」


「おやおや、もう母親なのにうちの奥様は甘えん坊だ。」


 夫に抱えられるように、室内に入って来た。


「野盗退治は終わったの?」


「隣国に逃げ込みそうになったので、あちらの辺境騎士団に協力してもらって、仕留めて来たよ。これで旅人も安心して移動できる。」


「野盗退治は宿願だったものね」


「そうだな。この国に来てもう7年か、長いようで短かったな」


「来た時は歓迎されてなくて、どうなるかと思って泣きそうだったもの」


「この邸は俺の父の遺産だったけど、俺と亡くなった母は父の仇みたいなものだから、来た当時の非難の眼差しは凄かった」



*******************


 7年前領地に拘束されていた私を夫が隣国に行くからと連れ出してくれた。

 学園で一度も話したこともなかったのに、いつも見てた。幸せにしたいと言ってくれた。嬉しかった。愚かなことをした私でもいいと言ってくれた。

 美しさとはどんなものか教えてもくれた。自分の値打ちは自分自身にあることも。


 隣国に来た私達には試練が待っていた。



 夫の母は不義密通をして離縁され、その後病死したことになってる。この国の王族からも抹消された存在だ。

 彼に実父の領地と爵位を返す事を条件にかの国から食糧を援助してもらうことになっていた。それぐらいここは貧しいのだ。


 そんなところに余計者が帰って来たのだから、世間の目は冷たかった。

 この邸に初めて来た時の使用人達の冷たい目も忘れられない。

 夫も騎士団に入団したが、噂話と冷遇に悩んだらしい。

 でもどんな事をされても、夫が居れば乗り越えられると思った。夫もお前が居ればと言ってくれた。形だけの夫婦でいいと言われたが、夫の温かい腕に抱きしめられたくて、自分から妻にして下さいと願った。


 夫は生来の生真面目さで鍛錬に取り組み騎士として腕を上げたことで、だんだんと騎士団で認められて行った。ある日暴漢に襲われた王を助けた事で勲章も貰った。

 勲章を授与された後別室に呼ばれて、王から姉がすまなかった。姉のしたことは許せないが、そなたには幸せになって欲しい。と言われたそうだ。


 私達が来たことで夫の実父の邸の使用人が嫌がって減ってしまった。私は自分でできることはなんでもやった。できないことはできるようになればいいのだと周りに教えを乞い家事と家政を熱心にやってみた。

 あんなに勉学が嫌いだったけど、実地でやる事は別だった。我ながら現金であるけれど。

 裏庭には放置された畑があった。夫の収入は騎士団に入ったばかりで多くない。少しでも夫に美味しいものを食べて欲しくて、どうやったら裏畑で作る野菜がうまく作れるか一緒にやってくれる使用人と試行錯誤した。

 本を読み夫の領地の農家の名人という人に教えを乞い満足行く野菜ができるようになった。



 この国は広がる平野があり、農作物を栽培するには最適な土地だ。もったいないと思い農家の名人とともに、領地内で痩せている土地でも収穫のあがる作物を選んで、植えて行った。農家の名人のもとに若者が集まり他の領地へも熱心に広がっていた。

 貧しいけれど希望のある国へと若者が動き出したので、私はいつも支えてくれていた夫の妻に専念することにした。

 それからすぐ子供も授かり幸せだ。



 かの国で私が執着していた美しさは今でもなんだったかわからない。でも今は幸せの貌がここにある。




 私達はここまで来た。お腹の子が生まれたら教えてあげよう。私達の幸せの貌を。



 


 


 

番外編一編で終了です。お読みいただきありがとうございました。

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