2-3 不幸の業。それは後悔。
話をしよう
「悪いが……受けられない」
「それは……何故じゃ?」
「あんたが信じられないからだ」
この婆さんは怪しすぎる。
重要な部分を話してくれない。
一体なんなんだ。何が目的なんだ。
老婆は、そんな俺を見て悲しげな……いや、何処か悔しげな表情をした。
……まだ何か秘密がありそうだな。
だが、あっちを信用できない以上俺にはこれ以上のことは出来そうにない。
どうしたものか……。
「それは……分かっておる。じゃが、そこを曲げて助けてほしい」
「……」
「後生じゃ。私の最後のお願いじゃ。どうか救ってくれ。この哀れな老婆の願いを聞いてくれ」
老婆は目を涙して、ただ救いを求めてきた。
分からない。何故、俺に頼んでくるのかが分からない。
だって俺は無力で弱い村人であるはずで、それなのに……何故俺にこんなことを頼み込んでくるのか?
この婆さんには謎が多すぎる。
だが、その嗚咽に狂う声音が、頭を下げる態度が、嘘ではないと思わされる。
(この婆さんのことは何一つ分からないが…冗談で言っているような雰囲気ではないことくらいは分かる)
これが年季の入った演技なら、俺は騙されてる。
だが、そうじゃないなら助けてやりたいと思った。
しかし、信用できない。信用にたる理由が足りない。
これは完全に言い訳だが、俺はどうようもなく村人なのだ。勇者とか英雄とか隠された実力を持つチート転生者とかみたいな力を持つ奴等じゃないから、自分の力に過信するほど安易な考えに至れない。
ただ、相手が困ってるからだけでは助けにいくことが出来ない。
全くままならないものだな…。
唯一持つ能力ですら満足に扱えないのは、歯がゆくてやりきれん。
ふと、俺はあいつならどうするだろうかと考えた。
あいつは悪戯好きで世話好きで遊ぶのが大好きな少年だ。
友達たくさん作りたいとかずっと好き勝手して遊びたいだのと子供かよとか思うような願い事をよくしていた。
本人はあれで真面目に言っているらしく、常に何かしらのイベントを考え、友達を沢山作ろうと努力していた。
だが、あいつは友達を作るだけじゃなく、大切にもしていた。
根は単純な上にあいつはかなり強引で馬鹿だ。
そんな奴ならどうするのだろうか。
あの腐れ縁の親友はこの状況ならどうするのだろうか?
ーー決まってんだろ。やるさ!
スッゲーどや顔の馬鹿がどこぞのアホかと思うような台詞を吐いてるのが想像できた。
ーーこーんな面白そうなことがあるんだぜ?行かなきゃ人生の損だぜ!
あいつはきっと何も考えてない。
ーー信用できねえ?出来ないなら出来ないなりに手伝えば問題ないだろ?そういうわけだからさっさと場所聞いて行こうぜ鋼♪
あいつはいつも厄介ごとに首を突っ込みたがる性格だった。その癖、怖がりで道化みたいなことして、でも、優しくて、明るかった。
ーー全くあったまかってー奴だなー。女の子に嫌われるぞ?
(うっせえよバーカ)
ーー臆病風に吹かれた馬鹿に言われたくねぇーんだよこのビビり!
思わず舌打ちしたくなった。あー、イライラしてきたぜ。あの野郎はいっつもそうだ。毎回毎回知ったような口で、俺を冒険に巻き込む。あいつは俺のなんなんだっつーの。
あー! むしゃくしゃするぜ! モヤモヤする! これもそれもみんなあの馬鹿のせいだ! 全くふざけてやがる!
ーーふざけてんのはてめぇだど阿呆。
お前に言われたくねぇよ無茶苦茶野郎。
ーー困ってる奴がいるなら助ける。これは世界の心理だ!
その理屈はてめぇだけの心理だってーの。巻き込むんじゃねぇ。
ーー相手は女なんだぜ? 少しくらい譲ったって罰あたんねーよ?
ババア相手にそれ言えるてめぇは見境無さすぎるだろ…。
ーー老人の残り少ない寿命の中での最後の願いは手伝いたくなると言うもの。違うか?
こっちがそれで死んだら、手伝うもくそもねえよ。
ーーなるほど…お前、自分に自信がないな?
ちっ………。
思わず舌打ちしたくなった。ーーいや、したよね!?
あのバカは無駄に勘がいい。俺の頭の中の想像だというのに無駄に存在感がでかいし、主張しまくってやがる。記憶の中でもうざい奴だ。てめぇは俺のなんなんだよほんと…。
まあ、どうせあいつの事だ。ただの親友だとか抜かすに決まってる。
でも、なんでこんなに主張してくるんだろうな。何かあいつの琴線に触れるようなことやったかな…。
目の前の老婆を見る。
今すぐにでも土下座をかましそうな視線と人生の悔やみを噛み締めている表情をしている。
一体なんなんだ。何が俺の中で引っ掛かっているってんだ。
俺の理屈になぜ俺は蹴りを付けられねえ?
何故か俺の中に自分では納得できてない部分があることに気が付いていた。
村人の限界を越えるな。危険な思想に理性と本能が待ったを掛ける。
けれども、このままだと絶対後悔すると俺の勘が答えている。
俺はいつかの救出作戦の時のことを思い浮かべては自らの衝動を抑える。あの時の姫さんに何かしてやれたか?お前自身は分かっているはずだ。この案件はあの時と同じでまた似たような後悔するはめになると。
お前は結局行ったとしても誰も救えていなかっただろう?
お姫様を救うだけなら勇者に任せてもよかったはずだろう?
あの時のお前は幸せな運命を不幸に変える不必要なピースそのものだった!
あれは村人じゃなくて勇者がやってやるべきだった!そうだろう!?
ーー違う!
俺の中のあいつがそれに反論してきた。何が違うと言うのか。
ーーてめぇはあの時、姫さんにとって必要な存在だった。
あの時だけだ。それに不安自体はまだあった。
ーーお前は誰よりも先に魔王から姫さんを助けていた。それ自体の何が悪いとお前は言うんだ?
魔王が来てからは姫さんの心を傷付けた。それが駄目だった。
ーーじゃあ、勇者だったら姫さんを傷付けないとでも思ってるのか?
物語の中ように上手くいくとは思ってないが少なくとも俺よりかは上手くやったんじゃないか?
ーーふざけるな!
ぷっつん。何かが切れた音がしたと同時にあいつの怒りの声が聞こえた。
ーーてめぇのそれはただの甘えだ。何てめぇは負い目を感じてやがんだ。なにてめぇは勝手に期待して勝手に諦めてんだ!ばっかじゃねぇの!?んなこともわかんねぇのなら鉄拳喰らわすぞ!
俺は失敗したんだぞ!?
ーーだからって、諦めるのかよ!?たかだか一回失敗したぐらいで、てめぇは諦めんのかよ!ふざけんじゃねぇよ!
怒濤の勢いで罵倒してくる奴の言葉が心に重く突き刺さる。
ーーどこぞの完璧主義のハーレム野郎のやり方なんざてめぇみたいな凡人に合うわけねぇだろうが。ベストよりもベターしか出来ないことが多いてめぇにそんな完璧出来るわけないのは最初から分かってることだろうが!
俺は後悔したくねぇんだよ!
ーーなら、なんで諦めてんだよ!だから俺はてめぇを根性無しの臆病者だって言ったんだぞ!?そんなことも分かんないのかよ!
それは確かに…正論だった。情けねぇし、反論できないくらいにそうだと思った。確かにこれは俺の怠慢だった。だけど村人の俺にそれは酷じゃないのか?
ーー死にたくないとかほざくつもりか? だったら言ってやるが…この先お前が長生きなんざ出来ると……本気で思ってるのか?
どういう意味だよ。
ーーまんまの意味だ。てめぇは不幸なんだろう?なら、実力もねぇとかほざいてるお前はそのままならどうせ近いうちに死ぬだけだぞ。
「はは…」
「何を笑っているのじゃ?」
確かに…それは事実だった。
俺はそう言えばどうしようもないほど不幸な人間だった。
ーー木刀振って何とかなるような場面があの時あったか?てめぇの不幸はお前自身が一番よく知ってるだろう?またあんな強制イベントがやってくるぞ。一度あることは二度三度あるとお前は知っているだろう。
さっき俺がやっていた努力を否定された。本当にこいつはムカつく奴だ。
ーーあの時の不幸くらいいい加減に克服しろ。てめぇは何でも出来ねえ不器用な奴なんだ。どうせ成功なんてしねぇよ。てめぇはどうせ不幸なんだから後悔しないように全力でその不幸ねじ曲げる努力くらいしとけばいいんだよ。
愚直に行けと…そう言うのか。
ーー不幸な奴の計画なんて絶対当たらねえんだ。だったら、うじうじ考えず一直線に頑張れば絶対いいに決まってる。そうじゃないのかよ?
畜生が………敵わん。
何も考えてないこの馬鹿は適当が服着て歩いてるだけなのに………重要なところは外さない。俺と同じような不幸な業を背負ってるくせに…何故かこいつは上手くいっている。きっとそれはこいつだけが持ってる何かがあるからだと思う。それが何なのかは分からないが…こう言うときのこいつの言うことに外れはない。
くそ………悔しいな。まだ俺はこいつに敵わねえのか。
次で老婆の話は終わりかな?
また不定期になるけど続きはまた書くから期待していてくれよ?
この作品だけは書くの忘れねえからな!