不本意
佐々木は地面に横たわり、肩や胸から血を流していた。
呼吸は荒く意識が薄れる。
「……倉田さん……」
微かな声に、静かに膝をつき、佐々木の顔を見下ろす。
「安心しろ……おまえはここで終わるわけじゃない」
佐々木の手が震えながらも倉田さんの腕に触れる。
「……あんたを……守れて……よかった……」
その瞬間、倉田は手首から佐々木の血を飲んだ。
赤い液体が意識の奥に流れ込むと同時に、佐々木の体が冷たくなる。
巽が……(いいのか?)と首を傾げながら佐々木の身体を跨ぐ。
佐々木の心臓が少しずつ動き出す……
雲間から月光が差し込んでくる刹那……それは力強く変化していく。
目がゆっくりと赤く光り、呼吸は深く安定したが、どこか遠くを見るその目には、人間だった頃の温もりも、喜びももう映らない。
巽はそばで静かに見守り、にゃあと一声鳴いた。
微かに口角を下げ倉田は、無言で立ち上がり、佐々木を支える。
「……すまない……おまえを守れなかった……」
言葉を切り、哀しげな倉田の顔が歪む……
守り切れなかったやるせなさと、変わってしまった友への複雑な想いが胸を締め付けた。
佐々木は無言のまま倉田の後ろをついて行く。
巽は影から二人を見つめていた。
街灯に揺れる倉田の肩は怒りを帯び、佐々木の背にはかすかな赤い光。
静かな夜の中、二人の足取りだけが、以前とは違う緊張を刻んでいた。