7.謎の協力者
「え、えっと……ありがとう、ございます………」
アルクはまだ地面に座り込んだまま、自分を助けたその人物を見上げた。
そして差し出された手を、恐る恐る握りしめる。
アルクがその手を握ると、女性はぐいと引っ張りアルクを立たせた。
改めて正面から見ると、その人物はアルクよりも少し背が高い。
歳はおそらくアルクより二つか三つほど上で、どこか懐かしいような、綺麗な顔立ちをしている。
頭の後ろの高い位置で結ばれた明るく茶色い髪が、腰の辺りまで伸びていた。
「すみません、助かりました。えっと、あなたは……?」
そう尋ねた時、アルクにはふと、女性の顔に僅かに動揺の色が浮かんだように見えた。
しかしそれは一瞬で消え去り、また元の笑顔へと戻る。
「えっと、私はジーナだよ。君は、勇者アルク君だよね」
ジーナは握手する形でアルクの右手を握ったまま、じっと目を見つめてきた。
アルクは多少赤面しながら答える。
「えっと、はい。……それで、あの、本当にありがとうございました。ジーナさんは、すごく強いんですね」
「いや、大したことはないよ」
やはりどこか逞しい話し方をする人だ。
アルクがぼんやりそう考えていると、ジーナはアルクに向かって質問する。
「君の黒猫の従魔は、一緒じゃないんだね?」
アルクも俺もある程度有名なので、どうやらジーナも俺のことを知っているらしい。
「しょこらですか?……はい、ちょっと事情があって………」
アルクは沈んだ声で答えて握っていた右手を離し、さっと背を向けてコクヨウの元へと向かう。
治癒魔法を施すと、コクヨウはすぐに目を覚ました。
「ジーナさん、ありがとうございました。僕、他にも討伐依頼があるので、行かないと……って、え?」
アルクがコクヨウに跨ると、なぜかジーナもピョンとその背に飛び乗り、すぐ後ろに跨ってきたのだ。
「えっと、ジーナさん……?」
「私も一緒に行くよ。戦力は多い方がいいよね?」
「は、はあ……」
それはそうだが、コミュ障のアルクに取っては、見知らぬ人と二人で行動することが問題なのだ。
だが、なぜかアルクは、ジーナに対してはそこまで緊張を感じなかった。
「もちろんありがたいんですが、でもどうして僕に……」
「だって、勇者に協力したい人なんて、珍しくないでしょ。アルク君は人気者だからね」
「はあ……」
訳が分からないまま、アルクは結局ジーナと共にコクヨウで飛び立った。
次はユリアンから念話で指定された通り、王都北部の森 (惑わずの森だ)へと向かう予定だ。
コクヨウは十分な高度へ達すると、速度を上げて飛び続けた。
アルクの後ろに跨っているジーナは、アルクの腰に腕を回してぎゅっと締め付けてくる。
その大きな胸がアルクの背中に押し付けられるのにもお構いなしだ。
「イタタ、……あの、ジーナさん……」
「気にしないで。高いところは苦手なんだ」
「はあ……」
それにしては余裕の笑みで、ジーナはにっこりと笑っている。
アルクは増々訳が分からなくなり、気を紛らわせるため会話を続けた。
「あの、ジーナさんは、冒険者なんですか?すごく強いし、もしかしてSランクとか……」
そう問いかけながらも、アルクはどこか不思議の感に打たれた。
Sランク冒険者であれば、その名は冒険者間ではある程度知れ渡っているはずだ。
しかし、アルクはこれまでに、ジーナのような人物の話を聞いたことがない。
ジーナは相変わらずアルクに抱き着きながら、やや間を置いて答える。
「……私は冒険者だよ。だけどこれまでは活動していなかったんだ。少し事情があってね。私のことはあまり周囲に話さないでいてくれると嬉しい」
「そう、なんですね……」
一体どんな事情があるのかは分からないが、アルクはそれ以上深入りはしなかった。
惑わずの森に到着すると、そこにはキングサラマンダーの群れが押し寄せていた。
通常クラスのサラマンダーとは異なり、本来は大陸中部には出現しない魔物だ。
「それじゃ、アルク君、一気に片付けようか!」
ジーナはコクヨウから飛び降りるや否や、剣を引き抜いて群れへと走り出す。
アルクも慌てて後へと続いた。
そしてほんの数分の後、アルクとジーナの手によって、キングサラマンダーの群れは一掃されたのだった。
最後に討伐した個体の死骸を見下ろしながら、アルクは再び頭をひねる。
「やっぱりおかしいよ。この地域にこんな魔物がいるなんて。それもこんなに大群で……。これじゃまるで、本当に魔王が復活しようとしているみたいだ……」
ぶつぶつと呟くアルクの肩を、その時誰かがポンと叩く。
「考えても仕方ないよ。とにかく今はできる事をやろう。ねえ、他にも討伐依頼はあるのかい?」
ジーナは全く動じていない様子で、アルクに向かって問いかけた。
何となくその姿を見て、アルクの心にも少し余裕が生まれる。
「はい。さっきまたユリアン……あ、女王様から念話が来たんです。ここから少し東に向かったところで……」
「なら、さっさと向かおう!どうせ他にも依頼は入って来るだろうしね」
「ええっ、ジーナさん、ちょっと待って……」
スタスタと歩き出すジーナの後を、アルクは慌てて追いかける。
そして、またも哀れなコクヨウに疲労回復のための魔法を施してやり、二人はその背に跨ったのだった。




