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26.致命打

「つまり俺の母猫は未来で時間転移魔法を手に入れて、お前を連れてこの時代に転移してきたということか」



俺がフンとした調子で尋ねると、国王に扮した魔王はニヤリと笑った。



「ああ。君は物分かりが良くて助かるね。まさにその通りだよ。最も私の可愛い従魔は今、魔王城の中に潜んでいる。あれは戦いには向いていないからね、いわゆるお留守番さ」


「で、なんでアゼリア国じゃなくて、わざわざバルダン帝国まで来たんだよ」



すると魔王はフッと鼻を鳴らし、蔑むように微笑んだ。



「なぜって、ここが最も人間の数が多いからさ。今や我々はどこへでも転移できるんだ。最も大きな国から攻め落とし、人間界全体を支配下に置く方が早いだろう。それにこの地には勇者もいないから、手っ取り早く事が運ぶ……と思っていたんだがね。


しかしこの国の者達が使用する魔力探知機は、なかなか興味深い。君がこの地に転移した時、それはすぐに反応したよ。だから私はすぐに国の周囲に結界を張り巡らせたのさ。せっかく会いに来てくれた君を逃がさないために」


「それはどうもな。安心しろ、お前を始末する前に帰るつもりはないぞ」


「あははははは!良いねえ、君はやはり面白い!!」



魔王の高笑いが、がらんとした空間に響き渡る。

それは壁や天井に反響して、まるで数人の魔王が笑っているかのような重音を作り出した。


聞いているだけで、体中の猫毛が逆立ちそうな不快な音だ。



「まだ質問がある。未来で神が力を失ったとは、どういうことだ」


「どういうことかって、そのままの意味だよ。我々は戦いに勝利したのさ。勇者は死に、元々弱体化していた神はほとんどその力を失った。もはや人間達の輪廻は機能せず、生命力は衰える。彼らは死を待つのみだ。あと一か月といったところかな」



俺はハアっとため息をつく。

それが本当なら、例えここでこの魔王を倒しても、もはや未来の世界は救われないということか。


すると魔王は俺の考えを見抜くように言った。



「残念だが、君達にできることはもはや何もない。我々は未来で勝利した。そしてさらなる力を求めて、過去へと転移したのだ。この時代の世界をも征服するまでに、さほど時間はかからない。さて、そこで君に改めて尋ねよう」



相変わらず肘掛けの上で頬杖をついたまま、魔王は俺を見下ろしほくそ笑む。



「君は魔族だ。どうだ、我々と共に、魔族の世界を作る気にはならないかな」




しばらく誰も話さなかった。


ギルバートとデルバートは、洗脳されているのかいないのか、相変わらず意地の悪い笑みを浮かべて俺を見つめている。



俺は再び大きくため息をついた。



「……まったく、四百年経って少しは頭が良くなったのかと思ったが、やはり魔族は阿呆ばかりなんだな」



そして再び静寂が訪れる。


すると魔王は突然、爆発音のように笑い声を上げた。



「はははははは!面白い!!そういえば君は前にもそう答えたな。まあ良い、私とて最初から期待していた訳ではない。ただその力を利用せず殺してしまうのは惜しいと思っただけだ。さて、それでは……」


「おい待て、まだ質問がある。どうやって町中の人間を洗脳したんだ。そして、国王はもう死んでいるのか」


「まったく君は欲張りだね。無論、私は慈悲深いから話してあげないでもないが」



魔王は少し飽きてきたのか、組んだ足をひょいひょいと上下に動かし始める。



「先ほども言った通り、我々は生まれ変わる度に力を増す。闇魔法もより高度になる。私は人間達の心の隙に付け込んだだけだ。彼らは誤った情報だけですぐに疑心暗鬼になる。とても簡単だ。今では君のことを信用する者はいない。そこに寝ている銀髪男以外にはね」


そう言って魔王は、ロッセルの方に視線を向けた。


「哀れな男だ。どうあがこうと未来は変わらないというのに。……そして国王についてだが、こいつはまだ生きている。今の私は、対象を殺さずとも憑依できるからね」



もはやこれで十分だった。


例えここでこいつを倒しても、既に未来の世界は手遅れかも知れない。

しかしこのまま魔王を野放しにする手はない。こいつは必ずここで殺さなければならない。



問題は、魔王を殺そうとすると、おそらく……



「そう、君のお察しの通り、私を殺すには、()()()()()殺すしかない。さて、心優しい君はどうするのかな?」



俺の考えを見抜いていた魔王は、再び顔中に嫌味な笑みを広げた。



「最も、君が我々の側に付くならば、この男の体を解放してあげないでもないがね」



魔王はやはり相変わらずだ。

仲間を傷付けなければならないという葛藤を与えることで俺達をいたぶり、弄び、それを心から楽しんでいる。


こいつは現代でも、四百年前でも、いつもそうだった。



俺の頭の中に、ハルトの体を使ってほくそ笑む魔王の記憶が浮かぶ。

そして四百年前、アルクの体を乗っ取り、ハジメを翻弄していた光景が蘇る。



怒りと憎しみが、ふつふつと泡のように沸き上がって来るのが分かった。



俺は一瞬で猫耳忍者に変身し、瞬時に魔王の現前まで移動する。

そして大きく振りかぶった右手の拳を、その顔面に食らわせようとした。




バキイイイイィィィ!!!!!!




俺が殴りつけたのは、しかし、既に空になった玉座だった。

背もたれが粉々に砕け散り、跡形もなくなっている。




魔王はやはり、この世の誰よりも素早く動く。


それは以前対峙した時に、嫌と言う程経験したことだった。



「まあまあ、落ち着きたまえ。言ったではないか、私を殺すなら、この国王もろとも殺す必要があると。君、あの男の前で、そのような事ができるかね?」



魔王は倒れているロッセルを顎でしゃくりながら言った。



「君が愛する父親を殺したと知ったら、あの男はどうするだろうね?……あの男だけではない。もはや君はこの国で死刑は免れない。だから言ったのだ、我々の側に付く方が賢明だと」



俺が応じるはずがないと分かっていて、こいつはまだ俺を弄んでいるのだ。


何も考えず、俺は再び瞬時に魔王の現前までジャンプした。




ドガアアアァァァァン!!!!




今度はパンチすると見せかけて、右手から高出力の火炎魔法を発射する。


しかしそれすら魔王には命中せず、代わりに部屋の壁に巨大な穴を開けた。



「あはははは!良いね、やっと君も本気になってきた!!その憎しみ、怒り、焦る気持ち、葛藤………とても良い!!もっと私を楽しませてくれ!!!」



楽しくてたまらない様子の魔王は、まるでプレゼントを目の前にした子供のように目を輝かせている。



その時俺はただ、怒りに任せて攻撃しているだけだった。

魔王が避けるのを分かっていて、ただやり場のない憤りをぶつけているだけだ。



次の攻撃を仕掛けながら俺は考える。



このままでは何も解決しない。どうにかして魔王の魂を、国王の体から引きずり出さなければならない。


しかし、国王の犠牲なくしてそれをやってのける方法は、ないのだ。



俺の考えを読んでいる魔王は、両手を広げて叫ぶ。



「さあ、殺したまえ!!相棒の目の前で、その父親を殺すのだ!!君にそれができるならね!!!」






その時、魔王に向かって、一本の剣が突き付けられる。



魔王は完全に、俺に気を取られていた。

むしろこの部屋の中で、俺以外の者には注意を払う必要性などないと考えていた。



人間を見くびるその油断が、魔王の弱点だった。




ズシャッッッ…………




その剣は魔王の背後から、国王の体ごと、その心臓を貫いた。




「なっ…………なん、だと……………」



口から血を垂れ流し、驚きに目を見開きながら、魔王は喘ぐ。


小刻みに震える頭で振り返ろうとするが、うまく動くことができない。




「父上を見くびるな。国を守るためなら、命など惜しまない人だ」




ロッセルは魔王に剣を突き刺したまま、冷徹な声で呟いた。




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