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2-5 共同任務

 その後、四人は不可視の状態で銅鏡川沿いの広場に集まった。そこから西に一時間ほど歩き、目的地にたどり着く。


 四人の目の前には森林が広がっている。ちょうど日没を迎えていて、周囲は薄暗い。空の上には、楕円形の月が少し西側に寄って浮かんでいた。


「ここが、浄化任務の場所だな」


 早馬は目を閉じて感覚を研ぎ澄ませた。静かに深呼吸をし、眉をひそめる。


「……確かに、言われた通りの悪霊が居るみたいだな」


 彼はそう呟くと目を開け、他の三人に振り返った。


 聖菜、良也、鈴は真剣な面持ちで早馬を見ている。


 良也と鈴も白い羽織を着ていて、その後ろには行書体で黒い「浄」が書かれている。二人の足には黒いブーツ。ここまでは早馬と聖菜の二人と同じ。だが、良也と鈴の袴と上衣の色は、朱色ではなく紺色だ。


 どうやら、袴と上衣の色はペアごとに違うようだ。


 早馬は三人の様子を見て、頷く。


「よし、まずは任務内容の確認をしよう。聖菜、頼む」


 彼の指示を受け、聖菜は両手を腰につけて話し始めた。


「村からの指令は、この森に潜んでいる悪霊を浄化しろ、というところ。数は普通の悪霊が二体で、強い大悪霊が一体の、合計三体。任務レベルは3で、あたしと早馬がこの前の学校でやった任務の一段階上。こんなところかな」


 聖菜の言葉に、早馬は頷く。


「ああ。俺がさっき感知したものと同じだ。情報に間違いはねぇ」


 早馬はそう言って微量な霊力を放ち、目の前の空中に青い光玉を七つ浮かべた。


「だいたいの位置関係はこうだな。この一番下の四つが俺たちで、その上の二つが普通の悪霊。一番上の強めに光らせてるのが大悪霊だ」


 彼の説明を聞き、良也は感心したように眉を上げる。


「ほんと器用だね、そー君は。それで、どうやって浄化していくの?」


「村からの指示は無い。けど、ある程度の意図は掴める。これは浄化任務であると同時に、俺たちへの試験でもあるはずだ。そうじゃなきゃ、こんな状態になるまで悪霊を放っておくなんてことはしねぇよ」


 早馬はそう言いながら、北方に連なる遠くの山地を一瞥する。


 彼の言葉に、鈴が不敵な笑みを浮かべた。


「早馬くんは、それに乗ってあげようっていうわけね」


「その通り。まずは北東の悪霊を俺と聖菜で、北西の悪霊を良也と鈴で浄化する。その後、合流して、四人で北の大悪霊と戦う」


 早馬はここで表情を緩めた。


「今回の悪霊はこの森から動かないタイプだ。満月の夜までに浄化すれば問題ない。危なくなったら潔く撤退して、村の奴らに任せよう」


 彼がそう言うと、聖菜、良也、鈴の三人は穏やかな顔で頷いた。


 早馬は空中の光玉を自分の右手に吸収し、大きく息を吐く。


「よし。浄化任務、開始!」


 そして、早馬の号令で四人は動き出した。


 作戦通り、早馬と聖菜、良也と鈴の二組に分かれて森の中に突入する。男が霊力で手に青い光を灯して道を照らし、女はパートナーの後ろについて周囲を警戒する。


 早馬と聖菜は木々の間を駆け抜け、標的のもとへと向かっていく。早馬の霊力感知が正確だったこともあり、すぐに目標地点に辿り着いた。


 悪霊を視認した直後、二人は足を止める。


 空中を漂うそれは、ヘビのような形をしている。全長五メートルほどの長さがあり、人間の腕ほどの太さがある。そして、頭部では赤い二つの目が妖しい光を放っていた。


 その目が早馬と聖菜に向く。


 二人は素早く臨戦態勢をとった。


 早馬は両手を悪霊に向け、両足で地面を踏み締める。聖菜は右手から赤い光を伸ばし、それを長さ二メートル超の蛇矛へと変化させて両手に構えた。


 準備が整い、早馬は冷静に口を開く。


「標的確認。霊力は……この前の悪霊とほぼ同じ。浄化を開始する! 聖菜!」


「りょーかい!」


 聖菜は重心を低くした後、地面を蹴りつけた。


 彼女はヘビ型悪霊に向かって突進していく。


 それと同時に、悪霊も聖菜に襲いかかった。


 両者が接近する。聖菜は右に跳び、悪霊の側面に移る。彼女は両足で踏ん張り、蛇矛を斬り上げた。


 悪霊の長い体が二つに切断される。そこから少し離れた部位に向けて、聖菜は蛇矛を振り下ろした。


 標的の霊体が三つに割れ、切断面から大量の黒い霧が噴出する。


 聖菜の攻撃により、悪霊は大きなダメージを受けた。しかし、その体はすぐに接着して再生した。


 ヘビ型悪霊は聖菜の前を通り過ぎ、狙いを早馬に変更する。


 向かってくる悪霊に対し、早馬は冷静に狙いを定めて霊力弾を三連射した。


 早馬の攻撃と同時に、聖菜は後ろに飛び退く。


 霊力弾は悪霊の正面に直撃し、三回続けて大きな爆発を起こした。悪霊は黒い霧をばら撒きながら、その長い体躯を振り回して空中で暴れる。


 聖菜は地面を蹴り、悪霊に再接近。追撃の横薙ぎを繰り出し、敵霊体の複数箇所を同時に斬り裂いた。


 数多の斬り口から穢れと霊力が噴き出し、周囲の瘴気が濃くなる。そして間を置かずに、その黒霧は跡形も無く消えていく。


 この戦いは、早馬と聖菜が圧倒的に優勢だ。


 だが、悪霊もやられてばかりではいない。またも霊体を修復し、そのヘビ型の体を素早く動かして聖菜の体に巻きつく。


「ぐっ!? しまった……っ!」


 聖菜は苦しげな声を漏らす。


 両脚、胴体、そして両腕を一斉に封じられ、とてつもない力で締め上げられる。聖菜は身動きをとるどころか、早馬に助けを求めることすらできなくなっていた。


 悪霊は頭を高く上げ、聖菜の首に狙いを定める。


 少し離れた場所で、早馬は即座に両手を悪霊に向けた。


 彼はそのまま霊力弾を発射しようとする。しかし、それでは聖菜を爆発に巻き込んでしまう。少年は拳を握り締め、寸でのところで霊力の射出を抑え込んだ。


 そして、瞬時に霊力の種類を変え、両手を開く。


「浄化!」


 早馬は両手から白い光弾を放った。


 その浄化の霊力弾は聖菜の胴体に当たり、破裂する。白い光が閃き、浄化の力が悪霊にまで及んでいく。


 悪霊はすぐさま聖菜の拘束を解き、最高速でその場から離れた。


 浄化はできなかった。悪霊をあるべきところへ還すには、霊力と穢れがまだまだ削り足りないようだ。


 しかし、悪霊がどのような状態であれ、やつらはこの清い力を最も忌み嫌う。そのうえ、浄化の光は人間には無害。人から悪霊を引き剥がすのには、浄化弾は最適な方法だった。


 聖菜は体の自由を取り戻し、すぐに蛇矛を構えて悪霊に体を向ける。


「助かったよ! 早馬!」


 彼女は背後のパートナーに向けてそう叫ぶ。


 ヘビ型の悪霊は空中で大きく旋回し、再び聖菜に狙いを定める。悪霊は上空から聖菜を見下ろすと、斜め下の彼女に向かって突進してきた。


 聖菜は手足に力を込める。


「こっちに突っ込んでくるとか、あんたもヤキが回ったね! 悪霊!」


 彼女は獰猛な笑みを浮かべ、地面を蹴って跳び上がった。


 蛇矛を突き出し、聖菜は悪霊に向かっていく。悪霊もまた、その口を大きく開けて聖菜に襲いかかる。


 その口と矛先が、空中で激突した。


 聖菜と悪霊の動きがそこで止まった。衝突時点での力は完全に拮抗している。


 だが、蛇型の悪霊はすでに全力を出し切っていた。そして、聖菜にはまだまだ力が残されていた。


「はあああああああ!」


 聖菜は追加の霊力を使い、飛翔した。


 蛇矛を悪霊に刺したまま、彼女の体が右に移動する。その直後、少女は猛烈な速さで前へと突き進んだ。


 聖菜が前へ飛ぶのに合わせて、蛇矛の刃が悪霊の体内を斬り裂いていく。


 刃はあっという間に悪霊の尾の先まで到達する。


 そして、聖菜が蛇矛を強く振り抜いた。


 ヘビ型悪霊の細長い体が上下二つに割れ、広大な切断面から大量の黒い霧が噴き出す。


 悪霊は力の大部分を喪失し、その姿が揺らいだ。


 早馬は両手を悪霊に向ける。


「あるべきところへ還れ、浄化!」


 早馬は精神を研ぎ澄まし、両手から白い光弾を放った。


 その浄化の霊力は一直線に空中を進み、悪霊に命中する。白い光が悪霊を包み込み、数多の光粒となって弾け飛んだ。


 悪霊の姿はもうそこには無く、この場では白い光の粒が雪のように舞い降りていた。


 早馬は両手を下ろし、聖菜のもとへ向かう。


 聖菜は悪霊に決定打を与えた後、そのまま前方へ飛び続けていた。そんな彼女の目の前に大木が現れる。


 聖菜はその木の幹を右足で軽く蹴り、後方宙返りをして地面に降り立った。


 そこに早馬が合流する。


「浄化完了! 先へ行くぞ!」


「うん!」


 二人は休むことなく、次の標的に向かって再び森の中を駆けていった。





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