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並走トーストダッシュを終えて……

 

 懸命の全力ダッシュのおかげで辛うじて予鈴までには学校に到着し、なんとか席に付く事が出来た。尚、歯型の付いたトーストは手に持ったままとなっている。


 全力ダッシュ中にトーストなんて食えたもんじゃなかった……。強行したら途中で喉につっかえて死ぬ可能性すらありそう……。世の中の女子高生は、絶対に真似しないようにしてもらいたい。


「おお、仲良く遅刻ギリギリで揃って登校とはな。青春ってやつを謳歌してるな」


 達也が煽ってきた。そもそもお前が親戚を引き取らないから、部外者の俺がこんな目に遭っているんだぞ?


「はぁはぁ……あ、あのなぁ……。見て? この息も絶え絶えでトースト持ってるこの俺の姿。これのどこに青春要素があるように見えるんだ? おぉん?」


「分かったからトースト食いながら迫ってくるなよ……」


 腹が減ってはなんとやらだ。折角手に食料を持っているのに食べない手はない。尚、当然だがすっかり冷えて美味しくはなかった。やはりトーストは出来立てを食すに限るな……。


「息も絶え絶えの癖に、なんだかんだ言いながら食い切りやがったな……。しかし、男子校で女子と一緒に登校出来るなんて破格の青春案件だと思うんだが? しかも俺の自慢の従妹だぞ? ボン・キュ・ボンだったろ?」


 確かに見た目は百点、いや百二十点だろう。顔良し、見た目良し、頭良しだもんな。料理が出来ないという弱点もあるが、それですら愛おしく見える。


 いや、嘘です。ちょっとぐらいならまだしも、あそこまで料理が出来ないのは致命かと。


「ふぅ、ご馳走様。それよりも本気でこの先も安藤さんと一緒に暮らさせるのか? 言っちゃあなんだが、他の男子生徒が黙っていなと思うぞ?」


「ああ、その点はさっき俺が解決しといたから安心しろ。一番上の奴に教育的指導してきたから」


 朝一から何をしてんだよ……。しかし達也がわざわざその偉いさんに親心を伝えた以上、これからも安藤さんとの同居生活は続行のようだ……。


「はぁ……分かったよ。もうどうにもなれってんだ……。とりあえずバイト増やすかな。流石に一人暮らしから二人暮らしになる訳だし金もかかるからな」


 男女の現役高校生がひとつ屋根の下で二人暮らしをするなど、世間一般ではあり得ない話なのだが、もう何も考えない事にした。とりあず生きていく為に、目先は生活費の確保に専念しよう。


 安藤さんは節約でなんとかなると言っていたが、生活が苦しくなるのは間違いないだろうし。


「ああ、その件か。それなら大丈夫だと思うぞ?」


 達也のニヤついた横顔が悪魔に見えた。いいとこ出のお坊ちゃんなのにえぐい顔しやがるぜ……。



 あっという間に放課後になったのだが、午前中と違って室内が随分と暗い。空模様が非常に悪く、今にも雨が……もう降ってるな。うん、最悪だ。


 朝はトーストダッシュをしないといけない程に時間に追われていたおかげで、天気予報を見る暇もなかったらかなぁ……。傘なんて持ってきてねえや。


 どうしようか……これからバイトなのに。


「ああ……今日、雨って言ってたっけか?」


「今朝のニュースだと午後から降水確率100%ってなってたぞ?」


 おうふ……。朝の情報収集がいかに大事かと身に染みたわ。しかし参った。おそらく安藤さんも傘は持っていないだろう。俺はこれからバイトだし……。


 仕方ない。


「達也、傘よこせ」


「おう、いいぜ」


 即答するた鞄から折りたたみ傘を差し出してきた。ただのいい奴かよ……。そこは拒否るとこだよ?

 しかも見た目極悪ヤンキーなのに、鞄に折り畳み傘は常備してんのかよ……。めっちゃ用意周到じゃん。そして偏見スマン。


「いや、その、冗談だって……」


「ありがとうございます、達兄ぃ。太陽先輩、これで一緒に帰れますね」


 いつの間にか上級生の教室であるにも関わらず、何食わぬ顔で教室に上がり込んできていた安藤さん。その手には既に俺に代わって傘をしっかりと受け取っていた。


 でもそれ受け取ったら達也がずぶ濡れになっちゃうよ? お兄様、びっちゃびちゃになるよ? そんなのダメでしょ?


「おっ? 太陽先輩? いつの間にか呼び名が変わってるじゃねえか。仲良くなっちゃってまあ」


「達兄ぃ、茶化さないで下さい。傘、ありがたくお借りしますね」


 淡々とお話されている感出てますけども、なんか頬が心なしか赤く染まってるような気がします。


 仲がどうのこうのと色恋沙汰を語っているが、そんな事以前にもう同居しちゃってますからね? 君達従妹ってさ、感覚ズレてない?


「み、みゆちゃ——おほん、安藤さん!? 本当に傘を強奪しちゃダメでしょ!? さっきのはほんの冗談だから!」


「なぜ今、名前を言い直しましたのですか? あれですか? 学校だから無難に名字呼びで過ごしておこう、なんておこがましい事でも考えてましたか? 名前で呼んで下さい。さもないと……」


 さ、さもないと? てかちょいちょいボルテージが上がると言葉が流暢になりますね? 生麦生米生卵をサラっと言えるタイプなのでしょうか。 


「私も他人行儀に和宮先輩って私も呼び名に戻しますよ? いいのですか?」


「はい、じゃあそれで」


 無事問題解決である。全然和宮先輩で構わないもんね。なんなら和宮と呼び捨てにしてくれたっていいぐらいだ。


「……反省の色がありませんね」


 突き刺さるような目つきで睨まれているのだが、同時に綺麗な顔も拝めるのでプラスマイナスゼロである。かの有名なカロリーゼロ理論が成り立っていますな。


「いいのですか? 傘は私が預かっているのですよ? これが無いとバイトに行くまでに全身雨に濡れてしまい、挙句、車に泥を飛ばされ、驚いた拍子に側溝に足首ごとはまってしまうかもしれませんよ? 更に弱り目に祟り目、ひよってる所にサバゲーしている方達が現れ、水鉄砲で集中砲火されて全身を滅多打ちされる可能性だってあるのですよ?」


「そこまでのとんでもイベントが多数発生したら、どのみち到底傘一本じゃどうしようもないよね? いっその事、割り切ってウェットスーツでも着るべきだと思います。あと達也の影響かな? 女の子がひよってるとか言っちゃダメですよ?」


 そもそも雨の日に水鉄砲携えてサバゲーしてる人なんているのかも疑問だが。


「そうならない為の傘です。さあ、それでは一緒に行きましょう」


「ど、どこへ?」


「バイト先です」


「でも雨が……」


「傘、ここにありますよね? 先輩って視力検査の一番大きい『C』が見えない口ですか?」


 視力の話をしているところに口とは……。なんて言ったら冷たい目で睨まれるんだろうな……。やめとこ。


 ちなみに視力は両目とも1.2ありますのでご心配なく。俺が聞きたいのは一本の傘しかないのにどうするのかという事です。しかも折り畳み傘ですよ? そしてなによりその傘は人様のです。そう、あなたのお兄様の傘ですよ?


「さあ、このままだとバイトに遅刻してしまいますよ。急ぎましょう」


 確かに時間は迫ってきている。こうなったら止むを得ない。達也には申し訳ないが、この借りはまた違う日に返すとして今はありがたく傘を借りるとしよう。


 すまんな、達也……。ずぶ濡れになってしまうが、可愛い従妹の為と思って諦めてくれ。


 ところで教室の前の傘置き場を顎に手を添えて眺めているのは何故かな? それ、完全に物色してるよね? ダメだぞ? それはクラスメイトの傘であってパクったら犯罪だぞ?


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