最終回 開闢の始神の笑顔
やった……。遂に俺はやってしまった。
先程まで修羅のごとく凄まじい形相で境内に向かってお祈りしている姿には、一瞬たじろいでしまったが、みゆちゃんにキスをしてしまった。
今は状況を把握出来ないのか、その大きな瞳をめいいっぱい開けて微かに震えている。
その挙動がなんか小動物みたいで相変わらず可愛い。しかし我ながら大胆な行動に出てしまったものだ……。
まさかさっき引いたおみくじにせつなの手書きで『これより五分以内にキスしないと、あんたたちが別れるように祈祷した絵馬を本殿に奉納します』と書かれていたからな。
神職が呪いをかけるような事をするんじゃねえよ。にしてもなんて手の込んだことをしやがるんだ……。てかおみくじが毎年吉より上が出なかったのって、あいつが操作してたからじゃねえか? ちゃんと引いた番号のおみくじくれよ……。
「ごめん、驚かせちゃったよね」
「あ、え? い、今、キス……太陽先輩からですよね?」
「当り前じゃないですか。失礼にも神様の前でノロけてしまいましたが……あの二人に比べたらまだマシかと」
本人たちはバレていないと思っているらしいが、結構巫女せつながぐいぐい行ってるので非常に目立つ。てか巫女服でイチャつくな。物陰に隠れてはいるがバッチリ見えてんぞ?
「太陽先輩がこんなに攻め込んでくるなんて……。今日は雪でも降るんではないでしょうか!?」
「すでに周り一面雪景色だけどね? 俺だってやる時はやるんですよ?」
「……ん? そのおみくじ、サインペンか何かで文字が書いていませんか?」
おっと。これは渡す訳にはいかない。これではヘタレな俺がせつなに脅されてキスをしたと捉えられてしまう。
100%の事実だけど。
「貸して下さい、そのおみくじ。さもないと……」
「さ、さもないと?」
「この【大凶】おみくじを譲り渡す事になりますがよろしいですか?」
そういえば大凶引いてましたね。しかし大凶なんて都市伝説かと思っていたけど本当に実在するんだな。ここ田舎だけど。
てかみゆちゃんが大凶ってマジで似合わないな。絶対に大吉だと思ってたんだけど。しかし天地開闢の始神たるみゆちゃんが所持するおみくじではないな。それにどうせこのせつな謹製のおみくじもすぐにバレる訳だし……。
よし。
「じゃ……交換しましょうか?」
「え?」
キョトンとした顔をしたみゆちゃんの手からおみくじを抜き取り、代わりにせつな謹製おみくじを渡した。
「みゆちゃんに大凶は似合わないですから俺が持ってます。まあ物は考えようです。今の状況が一番の底辺となる訳ですから。今が底だなんて幸せ過ぎますよ」
占いなんて当たるも八卦当たらぬも八卦。気の持ちようである。それに大凶なんて年も経験するのも悪くないだろう。
死ぬ事以外はかすり傷と言う名言もある事だし。死ななきゃ良しだ。
「ポジティブ過ぎますし、そういうところですよ……もう」
なんかハグされた……。冬装備だから感覚は鈍いがそれでも感じる二つの球体……流石です。
「……でも、この内容がなければ何もしませんでしたよね?」
ハグをしたまま、上目使いでひらひらと揺らされるせつな謹製おみくじ。はい、おっしゃる通りです。手を合わせて普通に健康祈願していたかと思います。
「たはは……まあいいじゃないですか! さ、神様の前ですし、改めてお願いしましょう!」
「ええ、分かりました。では……、すぅぅう……これからもずっと太陽先輩と一つ屋根の下で暮らしていけますようにっ!! ずっと、ずっ~と!! そして……大好きですっ!! 世界中の誰よりも一番です!」
甲高い声は神社内に響き渡り、社務所で賑やかにお酒を飲む大人や参拝に来ている人が一斉にこちらを見た。
もちろん、達也とせつな、そいでもってつばきもこっちをガン見してる。
てかつばき、いつの間に来てたの……。なんかまた食べ物いっぱい持ってるね?
「ちょっ!? みゆちゃん声でかくない!? それに結構恥ずかしい事を……。お、お願い事は心の中で——」
「太陽先輩はとことん鈍いんですからね! 悠長なことしてたら私の願いなんて一生叶わない事がはっきりしました! だからこれからは思っていることを包み隠さずに伝えていきます!」
声を荒げてぶっちゃけられた……。そんなに鈍いですかね? 俺。
「……さあ、神様にもお願いしましたし、二人の愛の巣に戻るまでご実家でのお正月を楽しみましょう!」
「えっ!? ちょ!? もしかしてまだあの家にずっといる気ですか!? 」
「はい、そのつもりです。その敬語で話す癖と、女の子の気持ちがしっかりと分かるようになるまでは一緒に暮らします。あ、でもたまには私も帰るようにしますね。私の実家は太陽先輩のアパートの近所ですから」
「近所なのっ!?」
まさかのカミングアウトがなされた……。八時間半の通学時間設定は嘘だとは思っていたけど、まさかご近所さんとまでは思っていなかった……。
「ふふ、学生生活の最後の一年間、ここまで焦らされた分、た~っぷりと恋愛なるものを楽しませてもらいますね……覚悟して下さい。ね、太陽♪」
少し照れた顔を作って名前で俺を呼ぶみゆちゃん。初めての名前呼びにちょっと困惑したが、何か一線を越えたような気がした。ずっと同居している身でなんだが、ぐっと距離が近づいたようにようにも感じる。
呼び方ひとつで結構変わるもんだなぁ……。じゃあ、俺も……。
「学校では手加減して下さいよ? み、みゆ……」
「やっと名前で呼んでくれましたね……。なんかやっと本当のカップルになった気がします!」
嬉々とした表情があまりにも愛おしくて思わず強くみゆを抱き寄せた。
「お~い、そこのバカップル~! なんかいい感じを出してるけどさっきから皆からの注目の的だぞぉ?」
「お前ら人前で恥ずかしくないのか?」
「青春ですねぇ~♪」
はっ!? そういえばここは人が少ないとはいえ、天下の往来、ではなく公共の神社だった! さっきから抱き着いたままだし……。こ、これは……。
「ふっふっふ、逃がしませんよ? これからは沢山甘えさせてもらいますからね?」
達也たちの言葉に思わず腕の力が緩んだのだが、今度は逆にみゆの方から強く抱き寄せて来た。俺の胸元でニヤつく顔は幸せで溢れていた。
時折見せていた冷たい視線を放つクールビューティな姿からは、想像も出来ない程に慈愛に満ちた表情をしており、その笑顔に思わず心が安らいだ。
男子校の姫、天地開闢の始神はとても暖かな笑顔を作るようになってくれた。
これからもしばらくは慌ただしい同居生活が続きそうだが、これから先もきっと楽しくやっていけそうだ。一層学校での風当たりは強くなりそうだけども、この笑顔が横にあるならどんな困難も苦ではない。
……でもちょっとは手心を加えてくれ――なさそうですね。卒業まで耐えれるか? 俺の胃……。
これにて完結でござきます!
それでは皆様、またどこかでお会いしましよう!




