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不動産屋へ行こう


 月日の経つのは早いものであり、安藤さんがこの家に転がり込んできて早くも一カ月が過ぎた。


 本人は掃除や洗濯などの、料理以外の家事をそつなくこなし、勉強もバイトも両立してしっかりとやれているようだ。


 尚、バイト代に関しては全額俺に渡して来た。流石に遠慮したのだが、同居させてもらっている身なのでと強引に押し通してきた。


 確かに食費や光熱費は一人より二人の方がかかるのは事実だが、ウチのバイトは諸事情によりかなり実入りがよくなった背景がある。


 おかげで喫茶店らしからぬ忙しさはあるが、そこそこの金額がもらえる上、安藤さんのお買い物術できっちり節約もしてくれるのが功を制し、俺一人のバイト代で事足りている。


 なのでこそっりと安藤さんのバイト代は貯めていくことにした。何か急な出費は入り用になった時に使わしてもらおうと思う。


 このように忙しくも充実した日々を送っているのだが、その半面、肝心の物件探しは見る限り一切行っていない様子である。  


 これでは本末転倒である。なので今日は……。


「不動産屋、ですか?」


 学校帰り、安藤さんがおっしゃった通り、不動産屋へ誘ってみた。幸い今日はバイトもないし、帰りにスーパーによる程度の用事しかないので。


「ええ、帰りがけに寄って行きませんか? ひょっとしたらまだネットに掲載していない掘り出し物の物件があるかもしれませんし!」


 尚、デートと間違えられないように達也も同伴させている。今更ではあるけど……。


「おい、みゆ……随分と時間がかかってるようだが?」


「はい。小説でも類を見ない程の圧巻の恋愛小学生脳ですので。私も焦れて直球を幾度となく投げましたが、目を瞑っているかの如く綺麗に見逃されました。あそこまで鈍感な人は未だかつて見たことがありません」


「変わった奴ではあるのは分かっていたが、まさかそっちの線はそこまで鈍い奴だったとは……」


「ねえ、そこの友人とその従妹さん? なんかコソコソ俺の悪口言ってない?」


 丸聞こえだけどね。誰が恋愛小学生脳じゃい。しかも圧巻って酷くないですかね? 


「とりあえず可能性が少しでもあるのなら積極的に攻め込むべきです。というより、アプリでは完全に望みはありませんからね!」


「太陽先輩……もしかして私を早く家から出て行かそうとしてます?」


「もしかしなくてもそうですよ!? 当初の目的完全に忘れちゃったの!?」


 俺の熱いツッコミに安藤さんは設定を思い出したかのように『そうでした、そうでした。確かそんな感じでしたね』と他人事のように言いながら頷いていた。


「ともかく! 今日は不動産屋に行きましょう!」


「そんなタイミング良く新規の物件があるとは思えませんが……。しかしそれで太陽先輩の気が晴れるのでしたら」


「なんか俺が駄々こねてる感じ出してますけど、駄々こねられているのは俺ですからね!?」


 ほんとこの美少女は……。最近では少し数は減ったけどもそれでもまだ虎視眈々と安藤さんを狙う輩はごまんと居る訳だからね?


「お~い、いつまでそこで夫婦漫才してんだ? 不動産屋に行くんじゃねえのか?」


 安藤さん揉めている間に少し先に行ってしまった達也から声がかかったので、急いで詰め寄った。


「達也ぁ? 言葉には気を付けような? 壁に耳あり障子に目ありって言葉があるだろ? 夫婦なんて言葉が漏れた日には……」


「そ、そうです。ふ、夫婦なんてまだ早いです……。まずは婚約を交えてからでないと……」


「てか二人揃って冗談言い合うのやめてもらえるかな!?」


「ね? 全然お話にならないでしょ?」


「ああ、普通ならこのくだりで『えっ……』とかなってもいいものなんだけどな」


 またディスられてる……流石にここはビシッと言ってやろうと思ったのだが、ポケットに入れたスマホがぶるったので、今日のところは勘弁してやることにした。


「ちょっと電話……あ~もしもし? ああ、うん……。あのなぁ、そんな事を言う為にわざわざ電話をしてきたのか? うん、うぇ!? ちょ、ちょっと待て! その日は……おい! もしもし!? あいつ……言いたいことだけ言って切りやがった。なんて奴——」


「誰ですか? 今の女性」


 俺の真後ろに立ち、聞き耳を立てている安藤さん。のお顔がかなり厳しいものになってる。特に目がやべえ。氷柱で心臓を刺されたかと錯覚するレベルだ。


「い、田舎の幼馴染ですよ!?」


「幼……馴染……ですって?」


「いや、驚き方の癖。俺だって幼馴染みの一人や二人いますから」


 まるで接戦を繰り広げていた強敵が。実は本気出していないと分かった時のリアクションを取る安藤さん。ちょいちょいネタを放り込んでくるところを見ると意外とアニメ好きなのかもしれない。


「そういえば太陽って地方から出て来てるんだったな。すっかり忘れてたわ」


「高校生が一人暮らしをしてんだよ。そこは忘れんなよ」


「でも太陽って方言も出さないしさ。地方から出てきた感ゼロだぞ?」


 失礼な奴である。なまり=田舎って訳じゃないからな? 


「今はそんな事よりも電話の相手との親密度を答えて下さい。嘘偽りを話そうものなら……」


 あれ? なんだか寒気がするんですけど? 今って初夏だよね? ちょっと汗ばむ陽気とかを感じられる季節の筈なんだけど?


「お、幼馴染みとは小さい頃から一緒によく遊んでて、家も隣同士だったからよく行き来してた関係です! 一緒に飯食ったり風呂入ったりもしてた思い出も——」


「はい?」


 いかん! なんか越えちゃいけない一線を越えた気がする!! そうだ! 達也だ! この状況を打破出来るのは達也しかいない!


「お、おい、達也!? 安藤さんの様子が——ふぉぐぅぅう!?」


「た・い・よ・う・せ・ん・ぱ・い?」


 頬を掴まれてタコさんみたいな口に!? 意外に握力あるんですけど、この子!!  

  

「ここで問題です。お互いの家を行き来する関係と、朝も昼も夜も共に一つ屋根の下で過ごす関係。どちらが親密だと思いますか?」


 いや、口掴まれて答えられないんですけど? 一旦離してもらえませんかね?


「ひひょふやふぇのしふぁふぇすふぉすふぁんけい……」


 うん、やっぱり言葉になりませんね。


「何を言ってるのですか? しっかり喋って下さい」


 更に力を込められた。この状況でしっかり喋れとな? ならその手を放して下さいませぇ……。


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