07水面に映る姿
♪前回までのあらすじ♪
アイゼンは勤勉であった。
人々の手伝いをしながら、徐々に町に溶け込んでいく。
アイゼンの刺繍の出来栄えに、ムインやオーロラだけでなく、先日の話題に出てきた手芸屋の老夫婦も褒めたたえた。
特に彼女の年齢で一気に完成させるほど、じっと作業できる子は町にほとんどいないらしい。大半は投げ出したり、外に遊びに行ってしまうので、教えがいがあると頭を撫でられた。
そうだろうかとアイゼンは首を傾げながらも、「やっぱり女の子ね」と目元をやわらげるオーロラに反発するのは、はばかられた。居候の身であるのも影響しているのかもしれない。
町で見とれた花の刺繍でたんまりおこづかいをもらい、晴れた日に町の中央にあるギルドへ赴いた。
『ギルドかあ……足元見られたら、遠慮なくボクを使っていいからね』
「予定はない」
『心を強く保つのは良いことだ。うんうん。ムインやオーロラの口利きもあるだろうから、恐らく門前払いはされないかな』
「どうして二人が?」
『それはさ――止まって』
心菜に制止を呼びかけられ、アイゼンは急停止する。
徒歩には長い道のりで、気晴らしにアイゼンと心菜は言葉を交わしていた。心菜の声はアイゼン以外に聞こえないため、内緒話のように声は小さい。
そんな中、急に立ち止まった彼女の姿をどう思うかは人それぞれであろう。
『キミさ、もっと自然に止まれないの? 前につんのめんない? それとも運動神経いいぜアピール? けっ』
「用件は?」
『そういう淡泊なとこ、きらーい。つまんなーい』
腰に差した心菜を見下ろし、アイゼンが無言で催促すると、剣であるはずなのに心なしか竦み上がった気がした。
『ひぃ……。こ、これぐらいで震えるボクじゃないぞ。まっ、まままま、あ、アイゼン、キミは自身の容姿について深く考えたことがないんだろう?』
「……そんなこと」
『ないって言える? キミは双子の姉と同じかそうでないかの基準しかない。というわけで、今、キミの前に噴水がある。波打つ水面に顔を近付けてごらんよ』
アイゼンは噴水を発見し、目を見開いた。あふれる水がある。無意識に水を汲もうと手を入れてみるものの、指の間からこぼれ落ちた。桶や壺も持ってきていないので、この水をとどめておけない。
通り過ぎる人々も噴水を横目で見て、素通りしていく。ベンチでくつろぐ人々も、休憩が目的で水を気にも留めない。
歯がゆくて、己の腕で自身を抱きしめていた。
『やめなよ。この地にはここなりの生活があるんだ。むしろ王国跡地に人がいる方が驚きだよ。あの地はずっと前に滅び、精霊にも見放された不毛の地だからね』
他はどうだか、と心菜はあっけらかんと付け加えた。
「武器が語るんだ」
『うん。語るよ。人の心を持つからね』
沈黙が降りて、アイゼンは水面をのぞき込んだ。幼い顔つきに、古い言葉で真朱色の髪と瞳。上からのぞきこんで影が落ちるので、やや暗い色に見える。
それ以外にどこをどう表現すればいいのかわからず、声をかけられるまで水面に映る自身と対面していた。
『解説が必要なら、そう言ってくれていいんだよ? アイゼン』
「ん」
『いやいやいや』
「ん……?」
『お願いします、でしょ?』
「……お願い」
呆れたようなため息一つ、心菜は一つ一つ確認していく。
髪や瞳に属性が表れること。これはアイゼンも耳にしたことはあった。事実アイゼンもランゼンも赤属性に分類される火の魔法が得意だ。
対照的にこの町の人は水の青、大地の茶色や木々の緑も多く、そのような環境で真朱の髪は目をひいた。
服装についてはオーロラのお下がりを借りているので問題なし。
そして心菜は最後に一つ指摘する。
『肌の色。これが問題だ。この大陸には二つの源流がある。今は古のヴィアカ王国になぞらえて、陽と陰って呼ばれているらしいね。陽の地は白の守護を受け、日が降り注ぎ、逆に陰の地は黒の安らぎを得て、月が満ちる。その後付けのせいで、浅黒い肌は陽の血、白い肌は陰の血によると言われている。
さあキミの色は――?』
アイゼンは手を握ったり開いたりした。水も枯れてしまう日照りの地で育った肌はこんがりしていた。
『ボクの杞憂ならいいけれど、この町は異常なくらい陽の気にあふれてる……警戒に超したことはないね』
「……警戒ばっかり」
『子どもの一人旅の方が気味悪いと思うよ』
大人の姿に変わった片割れも、こんな気持ちを抱いただろうか。
喉が渇いて仕方ない。オーロラから渡された水筒で喉を潤し、歩みを再開させた。
お読みくださり、ありがとうございました。
次話が少し長くなるため、ここで切りました。
新キャラが登場するので、次は濃いめになります。どろどろです。キャラは薄味さっぱりです。