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38ユニティ

同日更新2話目です。

 ゴーレムが手足で地面を揺らすたびに、もやもやとした何かが離れていく。一瞬だけ細くなったように見えた手足は、徐々に太さを取り戻す。恐らくあれは大きな個体ではなく、小さな集合体だからだろうとランゼンは分析した。集まってくるものが増えればさらに大きくなる。内側から膨張するのではなく、外から吸収して大きくなるのだ。


 ランゼンのフラッシュオーバーによる赤の炎はいまだにゴーレムを苦しめている。ぽとりと落ちていく塊は巨大なゴーレムを構成する小さい何かだ。


「グライラルサマ ハ ワレワレ ノ スミカ マモッタ。ナラバ ワレワレ モ グライラルサマ マモル!」


 雄たけびを上げながら大きくなるゴーレムの中心に、眠りつくトールの姿があった。

 赤の炎で先端が崩れていく一方で、トールを護ろうと中心に塊がくっついていき厚くなっていく。

 守ってくれた恩人に恩を返すときだと、息を張り上げる姿は人となんら変わらない。


「ねぇ、ランゼン。どうしてトールはここを守ってたと思う?」

「グライラルの使命はこの世界の守護。その守護の範疇はんちゅうにここも含まれていたんだろう」

「空も大地も自然もないから、守るのは()()だけってこと?」

「そうみたいだ」


 手と頭をフルに動かす。アイゼンとランゼンはこの空間に住むものたちに危害を加えてはいないが、彼らにとって大切な存在を傷つけたので敵対心を持たれている。

 減らしても減らしても増えていく。彼らは力尽きても元気な個体と交代すればいい。

 無論アイゼンとランゼンはそうもいかない。いつか体力の限界を迎える。

 双子の姉妹は互いに顔を見合わせた。どちらもいたずらを思いついた顔をして、笑いながら手を取り合った。言葉がなくても互いの考えは筒抜けだった。


「力を合わせるなんて、柄じゃないけどさ」

「そう言って、一緒にあれこれやったよね」

「まだ子どもでいられるアイゼンがうらやましいよ」


 手をつなぎ、ランゼンに異変が表れた。彼女を中心として渦がまき、周囲に漂う魔力が集められていく。ランゼンの力の高まりはつないだ手を通してアイゼンにも流れゆく。自嘲じちょうしたわりに、巡る力はぽかぽかしているので、アイゼンは素直じゃないなあと喜びを噛みしめた。

 ほどなく二人はドーム状の薄い膜に包まれて、ゴーレムの攻撃を通さなくなる。

 それからついにランゼンの詠唱が始まる。


「コルグレス、なぜ今になってこの力を与えたのですか。与えるならば、どうしてシャロンの死に間に合わせてくれなかったのですか。この力があれば、救えたかもしれないのに。生まれ変わって、復讐心にまみれたわたしにこの真名は不釣り合いでした。それでもなお、今後もわたしを見守ってくださるならば、シャロンのお役目を受け継ぎ、歌ってみせよう!」


 悲しみ、怒り、嘆き。己の無力さを復讐に昇華させたというのに、孤独にはさせないよう天からの贈り物――。

 ランゼンの感情の揺らぎにアイゼンも引っ張られる。自我の薄弱、生まれた感情。夢の中の永遠の生活よりも離別の現実を選んだのは彼女自身。

 生きている限り、進む道が交わることもあるだろう。

 それが今、まさしくこの瞬間。


「ランフェンゼ=ユニティ。これがわたしの名だ!」


 心が一つになって、二人の力を混ぜた真朱まそお色の弾丸がゴーレムに向かって発射された。

 大きくなりすぎてしまったせいだろう、ゴーレムは回避できずに頭と上半身をふっとばされ、傷付いたトールが地面に落下していく。


「グライラルサマァァァ……」


 精霊たちはゴーレムの姿をといて、トールの体が地面にぶつからないようわらわら集まってクッションになった。そのまま大半はトールを胴上げしたまま虚空に引っ込んでしまう。

 残されたのはぼやけた輪郭をもつ精霊が数体。大人の身長に、顔のつくりも人と似ている。グライラルと交流するために人よりの進化をとげた精霊たちだ。彼らは言葉を発さず、アイゼンとランゼンに視線を向けて、特に後者を注視してから出口を指差した。


 ランゼンと力を共有したせいか、アイゼンにも精霊の姿がぼんやりと目に映った。

 精霊たちに見送られながら、二人は無の世界から脱出した。




 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪




 引き込まれた場所に戻ってきて、アイゼンはすかさず剣になった心菜こころなを拾い上げた。

 いつの間にかにアイゼンとランゼンの手は離れていたが、互いに気にしていなかった。怒涛どとうの展開に話す気力もなく、先に歩き始めたランゼンをアイゼンは追いかけた。


 たどり着いたのは祭壇の前であった。赤属性増幅効果は切れており、森は緑属性にあふれていた。倒木や焼かれた木々はすぐには元通りにはならないが、緑属性の回復力で徐々に以前の自然を取り戻していくだろう。


「アイゼン。石碑に彫られた名前を読んでごらん」

「……シャロン・コンバラリアここに眠る。ランゼン、シャロンは――」

「いや、厳密に言えばきみはシャロンの生まれ変わりではない。シャロンは死後、詩と旋律で分裂させられたが、記憶を引き継がなかったきみはシャロン本人にどうあがいてもなれない」


 ランゼンは空を仰ぎ見た。陽が落ち掛けてるせいで木々に囲まれた祭壇は影になり、肌寒くなってくる。

 アイゼンもまた空を見上げた。橙色に染まる空をランゼンの髪色のようだと思った。


「ファ――心菜だったかな。アイゼンをよろしく頼む」

『もちのろん! 友人の妹だからね、火の粉だけでなく悪い虫も払ってみせるよ!』


 ランゼンに話しかけられて、剣の中で眠っていた心菜も反応した。

 意気投合して笑い合う一人と剣に、「虫ならあぶるのに」とアイゼンは首を傾げた。


『なんたって友達だからね。アイゼン、キミについてくよ。さあ友達としての最初の質問だ。キミは姉に会う目的を果たした。次の希望はあるかい?』


 アイゼンは考え込む。確かに姉と再会し、旅の目的は達成された。とはいえこのまま隠れ里の家に帰るにも、自身の中で変化が起こりすぎたために難しいかもしれない。幸い旅費は残っている。今回は家出直後にうまく拾われて街にたどりついたとはいえ、次回もそうなるとは限らない。


「実力を試すならば、陰に向かってはどうかな。あちらも建国し、実力があれば出自は問わないと小耳にはさんだ」


 うなるアイゼンに助け船を出したのはランゼンであった。

 続いて心菜も話題に乗っかる。


『陰といえば、かつてグランドールが治めた土地だね。ボク、陽からあんまり出られなかったから興味あるなあ。アイゼンは?』

「……わからない。でも行ってみてもいいとも思う」

『じゃあきまりだ』

「ランゼンは一緒に行かない?」

「だめだよ。わたしはきみとはいられない。シャロンの旋律を引き継いだ子を探しに行きたいんだ。きみとそう年も変わらず転生しているはずだからさ」

「また会える?」

「互いが生きている限りはね」


 先に重い腰を持ち上げたのはランゼンであった。このまま残っていると、アイゼンが動けないと考えたのだろう。


「ランゼン、最後にもう一つ聞いてもいい? どうしてトールに魔法がきいた?」

「ああ、あれか。本人も誤解してるようだけど、彼は五大属性無効なんだ。白黒赤青緑以外の属性をつかえばいいのさ」


 習得には時間がかかると言いつつ、勝利の法則を仮説し、検証して勝ってみせたランゼンは誇らしげに語った。


「さようなら。アイゼン」

「うん。さようなら、ランゼン」


 ランゼンの姿が見えなくなった頃にアイゼンもようやく立ち上がった。


『まずは今日の寝床を探そうか? ふぅぁ……ゆっくり寝たいなあ』

「野宿」

『ん? もう一度言って?』

「野宿」


 心菜に大反対されながら野宿の算段をつけていると、茂みから足音が聞こえ、アイゼンは振り返る。


()()()いました。アイゼンさん、ご無事でなによりです」


 黒髪をツインテールにしたシアが茂みをかき分けて現れた。黒いワンピースに白いエプロンはところどころ焼けてちじれていた。

 アイゼンはシアを目にしてトールのいきさつを、彼女に守ってもらった後の一部始終を話した。


「陰に行くならば、わたくしと一緒ではいかがでしょう。現地で別れる可能性はございますが、一人では心配でしょうから」

『ひとりじゃないよ! ボクもいる!』


 どこからか聞こえてきた少年の声にシアが周囲を見渡していると、アイゼンは心菜を指さした。シアはそれ以上追及せず、穏やかにほほえんだ。


 姉を探す旅は終わった。

 そして次の旅の始まりに向けて、妹は一歩踏み出した。





これにて完結です。

お読みくださり、ありがとうございます。


2022/03/13 

楠楊つばき 拝

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