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35VS守護者

♪前回までのあらすじ♪


心菜の寛容クレメンティアの力により、ソルを退けた。

代償として心菜は休息に入り、アイゼンは一人になってしまう。

 森での戦いに話を戻そう。

 三つ巴では決着がつかず、ランゼンが爆炎魔法でソルを弾きとばした。魔法が効かないトールにはびくともしないので、結果として難なく因縁相手を残せられた。


「だいぶ燃やしてしまったな」


 己の所業に嘆息し、ランゼンは剣を握り直した。彼女の武器は大人の姿に適した一振りの剣。刀身も復讐に燃え上がるかのように赤く発光している。

 燃えるフィールドに足をつける彼女は、白いマフラーをたなびかせ、アイゼンの双子の姉とは思えないほど自信に満ちあふれていた。


「邪魔者は排除した。続きをしようか、グライラル」


 ランゼンとトールは無言で切り結んだ。一進一退の攻防はなかなか終わりが見えず、体力を無駄に消耗するだけで決定的瞬間は訪れない。

 戦いが長くなればなるほど、森林への被害も拡大する。しばしば足場がなくなってしまい、魔法や体術で対処した。

 戦闘の長期化の要因を挙げるならば、まだどちらも完全には過去を思い出しておらず、武器の重さに気持ちが乗りきっていないからかもしれない。はやる気持ちに振り回されるばかりで、前世の感情を自分のものにしきれていない。


 心菜とソルの戦いが終わりにさしかかったとき、ようやく戦局が動いた。


「…………っ!」


 大鎌を振るっていたトールが足を止め、胸を押さえた。荒い呼吸を繰り返し、再び顔を上げたときには表情が抜け落ちていた。

 彼はランゼンとの戦いを放り出し、つながれた糸をたどるようにある一点に向かって飛び出した。


 彼の視線の先にいるのは赤い少女―――アイゼンであった。




「トール……?」


 仲間とはいかなくても、彼に襲撃される理由が思い当たらず、アイゼンは戸惑った。間一髪でさけられたのは心菜こころなの力により身体の感覚がいつもより研ぎ澄まされていたからだろう。平時であればよけられなかった。


 飛びかかってきたトールはアイゼンに向けて、「歌うな」と大鎌を振り上げた。

 トールの茶色の瞳は笑っておらず、冗談ではないと物語っている。


 荒地にからっ風が吹き渡る。

 思わず己の身体を抱きしめたアイゼンは、己の首を捕らえる大鎌の刃先から目を離せない。


「――およそ千年前、扉をこじあけようとした愚か者がいた。人の王は吟遊詩人の歌を聞き、ここではない別世界の存在を信じたという」


 大鎌の位置が少しだけ下がる。


「貴様だシャロン。貴様の歌だ」


 聞いたことのないトールの冷たい低音に、アイゼンは首を横に振った。恐怖で声が出ないかわりに、態度で否定を示そうとした。


「いくら否定しえど、我には見えている。貴様は分裂したシャロンの片割れだ。未覚醒の今ならば楽に息の根を止められる」


 ソルとは違った恐怖にアイゼンは後ずさった。大鎌の刃先はアイゼンの首を虎視眈々(こしたんたん)と狙っている。死の恐怖が音を立てて近付いている。ソルとの戦いでは心菜が盾となって守ってくれたが、彼は大技により休息中なので、ここはアイゼン一人で乗り切るしかない。

 浅くなりかけた呼吸を止めて、深い呼吸へ切り替える。

 アイゼンは自身の意志を伝えるために、単身でトールと向き合った。


「トールさん、シャロンじゃなくてアイゼンです」

「今だけだ。覚醒した途端、貴様は思い出すだろう。己の罪深さと事の発端になったあの歌を。呪うならば、己が運命を呪え」


 凶刃が近付いている。打撃とは違い、首や四肢を切断されたらひとたまりもない。一撃ならば剣(心菜)で受け止めきれるだろうか。

 トールらとともに行った稽古が走馬燈そうまとうされつつ、アイゼンはまなじりを決した。


「憎い顔だ。ここで殺さねば」


 トールの大鎌をアイゼンは今だと見切った。無事に一撃目は受け流せたものの、全身からぶわりと出た汗で手が滑りそうになった。


「ほう? 男の背に隠れた女が自ら武器を持つのか」


 力量の差を示す、いたぶるかのような荒い攻撃が続き、アイゼンは気を引き締めた。

 大鎌と子ども用の剣では大きさも重さも違う。武器が悲鳴を上げるか、アイゼンの手がしびれるのが先か。時間の猶予はない。それまでに心菜が回復してくれなければ、打つ手がない以上――――いや彼が来たということは彼女も遅れて必ずやってくる。


 石碑での不意打ちと同じく、赤い閃光がトールの頭上から降り注いだ。


 急降下してきたランゼンをトールは大鎌で受け止め、互いの獲物がぎちりとかみ合い、つば迫り合いに移行する。ランゼンの刀身に宿る赤い残光が華麗に舞った。

 トールの大鎌による衝撃波が地面を割ると、ランゼンはアイゼンの手をひっぱって退いた。


「アイゼン、彼が誰だか知ってるか?」

「トール」


 双子の姉妹の久しぶりの会話は目の前の人物トールに関してだった。彼の見た目は変わっていないとはいえ、人当たりのよい、どこか抜けた人となりが、抜け目のない鋭いものに変わっていた。


「いいかアイゼン。()()の真名はグライラルといい、この世界の守護者だ」

「守護者……?」

「この世をおびやかす存在を葬り去る、冷酷無比な死神さ。歴史に残る偉人たちも、大抵は最期、あれに殺されている」


 大鎌を振るう姿に死神を連想させたのかと考えていたアイゼンは、トールが人を殺したと聞き、今までの出来事を振り返る。

 面倒見がよく、子どもたちと遊んでいた姿に、死という言葉がどうしても結びつかない。街を渡り歩く旅人の姿が厭世えんせい的だと思っても、決定打には欠けており、しこりが残る。仕えていたシアも詳しく知っているのだろうか。


「でもソルから助けてくれた」

「真名はいわばお役目だからな。仕事でなければ自由に生きたって構わない。ただ一度でも命令が下されれば、己の意志などないに等しくなる」

「ランゼン、トールとお役目は等しくないじゃ」

「そう思うなら、そう思うがいいさ。違う人物ならなおさら、あれに人の心があると思うなよ。殺されたくなければな」

「うん。生きたいから今は戦う」

「…………変わったな、きみは」


 後ろについてくるだけだった妹の姿はもうない。まぶしそうに目を細めてからランゼンは気合いを入れ直す。


「勝算はある。きみには――」


 姉妹は作戦会議を追え、トールに向き合った。

 作戦会議終了まで待ってくれたトールの優しさに目をそらし、アイゼンは心菜を盾に変化させ、地面に突き刺す。

 ランゼンは負ける戦をするほど無謀ではない、と焔をまとい、周囲の温度を上昇させる。


 初めての姉妹・共同戦線が始まった。


ヒートヘイズ

赤属性補助魔法 効果対象:敵味方全体(フィールド全域) 追加効果:赤属性効果上昇


お読みくださり、ありがとうございます。

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