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34寛容(クレメンティア)

♪前回までのあらすじ♪


心菜(初代陽ファーク)VSソル。

同じ真名まなを持つ者同士、手の内はわかっている。

違うものがあるとすれば――。

 二人の戦いにアイゼンはついていけなかった。素早い肉弾戦に飛び交う毒舌。部外者であるために言葉を言葉として認識できないため、どの言葉がそれぞれの逆鱗に触れているのかわからない。

 心菜こころなは常にアイゼンに背を向けていた。戦闘中にソルと場をいれかえることはあっても、最後には元の位置に戻ってきていた。


 ランゼンと話したいというアイゼンのエゴのために、心菜は護ってくれている。アイゼンを圧倒したソルとここまで渡り合えるのだから、ランゼンとだって引けを取らないかもしれない。


『白き少年は太陽のごとく 黒き少女は月のごとく 王国を守護しました』


 心菜の背中を見つめながら、どこかでかじったのであろう一文がアイゼンの脳裏をよぎった。


『しかし王国は崩れ去りました 白き少年の落涙は雨となって降り続け 黒き少女の絶望は闇となって空を覆いました』


 ヴィアカ王国の盛衰は女王クラウンを中心として描かれる。女王クラウンの死後、人々は涙に暮れてその死をいたみましたと物語は完結したが、本当にそうであろうか。


 洪水に日照不足。女王クラウンの死から立て続けに起きた天災に人々は為すすべもなくうちひしがれた。王国が復興できなかったのも、その天災によるものが大きいだろう。


 アイゼンの中では結論が出ていた。

 ヴィアカ王国の盛衰を聞いて違和感を覚えたのも、彼女にとって主人公は最初から女王クラウンではなかった。物語に描かれなくても、大切な家族や友人や恋人を思う人たちはたくさんいた。そちらに感化されて、偉大な女王の終生を美談にされても小骨がのどにひっかかった。


 胸に渦巻く思いを形にすべく口を開こうとして、喉に激痛が走り、アイゼンは崩れ落ちた。伝えたいことがあるのに、喉が締め付けられて言葉にできない。うつむいていたがゆえにアイゼンはソルの生み出す閃光に気付かなかった。


「アイゼン!?」


 心菜の叫び声とともにアイゼンの目の前が真っ暗になる。遅れて彼に覆い被されたと気付くや否や、シアとのやり取りを思い起こされ、呼吸が浅く速くなっていった。


「大丈夫。大丈夫だから」


 心菜は膝立ちになって、アイゼンの顔を己の胸に押し当て、何も見えないようにした。

 視界は隠されようと、聴覚は健在であった。自身の体には何も触れていないのに、耳をつんざく爆裂音は嫌な予感を駆り立たせた。


「…………ほら、大丈夫だったでしょ?」


 静まった後、心菜はアイゼンを解放し、彼女の肩に手を置いた。間違いなく何かがあっただろうに、心菜は戦う前と同じく笑顔を崩さなかった。


「あ……あ、いやぁ…………」


 心菜と目が合い、アイゼンの涙は滂沱ぼうだとあふれた。幼子のようにしゃくりあげ、肩をふるわせ、心菜の胸元に左頬を押しつけた。

 背中をなでてくれる心菜の手が温かい。近付いてくる足音が止まるまで、二人の時間は止まっていた。


「ひでぇさまだな。かばったのか?」


 ソルは二人を見下ろし、いやらしい顔をして心菜を蹴り飛ばした。起き上がれない彼を容赦なくソルは痛めつけた。

 ソルの足が振り下ろされるたびに、呆然と見やるアイゼンから顔色がんしょくが失われていった。


「ば、かだなあ…………」


 細い声を漏らした心菜にすかさずソルが突っ込む。


「ばかなのは手前てめぇじゃねぇか。足手まといを守って嬉しいか? 守れる自分に酔ってんのか?」

「――キミだよ、ソル」


 淡い光が地面から立ち上った。心菜を中心に光は広がり、光が強くなるたびに心菜の姿が薄くなっていく。


「アイゼン、少し休ませてもらうね」


 ――――さあ、寛容クレメンティア。ボクは全てを受け入れよう。


 宣誓せんせいとともに、祝福があたりを包み込んだ。

 全身が揺さぶられ、上下感覚がわからなくなり、アイゼンもソルも地面に手足をつけた。

 やがてその不快感がなくなっていくと、アイゼンの目尻からは涙が消え、体も身軽になっていた。走り回っていた疲労感もなくなり、もうひとっ走りできるような高揚感に包まれていた。


 対してソルは倒れ伏し、指一本も動かせなかった。首の位置もおかしくて、呼吸もしづらくなっていた。うつ伏せで倒れているはずなのに、溺れたような感覚は続き、全身がかき混ぜられていた。続いてめまいも起きて、まぶたを閉じた。


 寛容クレメンティアの効果はこれまで様々な形で発現したが、ソルの場合、どれも他者に痛みを与えるものだった。魔法攻撃を強化したもの。そのような認識であった。


 初代寛容(クレメンティア)の奇跡は痛みを伴わなかった。全身の脱力感。外傷は回復しているのに、何度命令しても動かない肉体。心拍も呼吸も休みたいと訴えかけている。伝承では大地を赤く染めたのではなかったのか。無血むけつの勝利があってたまるか。口も動かせず、気持ちを奮い立たせることもできず、このまま荒れ地の上で眠ろうとしている自身を許せるのだろうか。


 身を焦がすような勝利への渇望も、消えてしまった。

 戦う目標も失って、ソルはざらざらした地肌を感じながら、気を失った。



 三人のうち一人が消え、一人は歩き出し、一人は戦意消失した。

 戦っているであろうトールとランゼンはいまだに森から出てきてはいない。

 アイゼンは己の目的を果たすべく、森へ戻ろうとして、最初に誘われた祭壇方向へ目を向けていた。





クレメンティア

白属性魔法     発動時に使用者が効果対象と追加効果を指定する。抽象的すぎるとまれに暴走する。

          心菜の場合、味方を回復し、敵の戦意を喪失させる。



お読みくださり、ありがとうございます。

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