19目を隠して
♪前回までのあらすじ♪
この町の名前と基地であることをアイゼンと心菜は知った。
資料整理が終わり、老師を呼ぶと黒いローブの人物がいつの間にか立っていた。
黒いローブの人物の目が合った瞬間、アイゼンは夢に囚われた。
数日が経っても窓の外は曇天であった。
空が晴れないと気分も晴れない――とまではいかなくとも、アイゼンは時折空を見上げるようになった。
灰色の雲が町全体を多い、時間の感覚を麻痺させる。
洗濯物の乾きもまずまず、町で育てられている野菜の成長具合もまずまず。
いつ雨が降るのか、考えずにはいられない。
ランゼンに魔法への苦手組織を相談したところ、追いかけっこをしようともちかけられた。
ミント色の髪を三つ編みにしたエフィーと水色の髪のヴォルケを始め他にも数人参加し、学び舎の庭を駆けずり回った。
途中から目隠し追いかけっこに変わり、全員がたどたどしい動きになった。追いかける側だけ目隠しをすればいいのに、初めてやるせいか全員が目隠しをしてしまった。手を叩いたり声をかけあったりして互いの位置を確認する中で、最も早くランゼンが順応し、幾人もを捕まえていく。
「アイゼン、きみで最後だ」
最後に残ったのがアイゼンだけになり、一対一になる。
「残ったのが誰だかわかるんだ」
「もちろん。声や足音、拍手の音にだって特徴がある。きみは一度も動かなかったみたいだけど、消去法できみしか残ってない」
得意げに説明するランゼンの位置を探りながら、アイゼンは唾を飲み込んだ。
闇雲に逃げても足音で気付かれてしまう。自身も目隠しをしている以上、庭の広さを思い出しながら逃げる先を考えなければならない。
すでに捕まった子は目隠しをはずしているため、危険が近付けば教えてくれるだろうが、挑む前から白旗を振るつもりはなかった。
「まだ動かないつもり? まあいいけど。きみの位置は筒抜けだ」
勝利を確信したランゼンが駆け出した。
急襲に対応できず、アイゼンはそのままランゼンにのしかかられて地面に尻もちをついた。体を支えるために地面に手をついたままでいると、ぱっと世界に光が戻る。
目と鼻の先に、したり顔のランゼンがいた。どうやら彼女に目隠しの布をとられたらしい。
「まだまだだね」
「なんで? 一度も動かなかったのに」
「動かなくても、きみは生きているだろう?」
ランゼンに腕を引っ張られて、アイゼンは立ち上がった。お尻についた土や砂を手で払い、くやしそうにランゼンを見つめ返すと、追いかけっこに参加した男の子たちが二人の間に割り込んできた。
「おいランゼン、卑怯だぞ。ズルしたに決まってる」
「そうだそうだ。目のとこに穴でも開けてたんだろ」
「……ズルって、わたしはみんなと同じものを使ったし、なんなら確認する?」
いちゃもんをつけられてもランゼンは歯牙にもかけなかった。
一部始終を目撃していた女の子たちがランゼンの味方になり、男の子をどこかに引っ張っていった。
そして学び舎の庭には双子の姉妹だけが残された。
わかりやすいよう左右のサイドテールで区別しているため、向き合っていると鏡のようにそっくりだ。そのまま重なるのではないかと思ってしまうほどには。
「せっかくだから特訓しようかアイゼン」
「……お願い」
「突然だけど、きみは自身の空間を把握しているかい? 腕の長さや歩く位置。例えば……よけられると思っていたのに小指をぶつけた経験は?」
「ランゼンは小指をぶつけたことないの?」
「それはあるけど、今はきみの話だよ。あるのかないのか、さあどっち?」
「ある。痛みのあまり飛び跳ねる」
「えっ、飛び跳ねるの。うずくまるでしょ、そこは」
思わぬところで互いの違いを知り、二人は首を傾げながら笑い合う。
小刻みに動くお腹が落ち着いてから、ランゼンは話を戻した。
「武器や魔法で射程が伸びるとはいえ、人間の四肢の長さなんてたかが知れている。どれぐらい接近する必要があるか、敵がどのあたりにいるのか、わからないと大変だね。頭でわからなくても体で感じられる人もいるし、きみはどっちだろうね」
ランゼンの説明を受けながら、アイゼンは腕を伸ばした。指先までぴんと伸ばしてもランゼンには触れられない。触れるためにはあとどの程度近寄ればいいのか、目で確認しながらじりじり距離を詰める。
「上出来だ。それを目隠しでもできるようにしようか」
アイゼンは目隠しをして、五感を研ぎ澄ませながらランゼンとの距離を測る。
小さな音や声や、空振った手の感覚からあとどれぐらいか予想する。近すぎると指先がランゼンの肩にぶつかり、遠すぎると腕をぶんぶん振っても風を切るだけだった。
「……水を差すようで悪いけど、結局は魔法の先に居ると信じなければ始まらないよ。防御ならば受ける一瞬を見極めればいい。自ら攻めるならば恐れるな」
「それがランゼンの強さの秘訣?」
「そうとも言えるね」
信じること。恐れぬこと。
ランゼンの芯の通った強さにも秘密があったらしい。
「信じるって誰を信じるの?」
「自分自身でも他人でも何でもいい。人でなくたって構わない。最大の懸念と楽観を持ち合わせていれば、その間に落ち着くはずだからね」
「……もしも裏切られたら?」
「わたしならば次の手を用意しておいて、信じられる手をいくつも使う。まだ想像できなくても、きみも窮地に立たされる日が来る。そのときに忘れないように」
「うん」
指の先にランゼンがいると信じて、アイゼンは訓練を重ねた。
こつをつかんだ頃には日も暮れていた。夜道は暗くなるので目隠しをはずし、二人並んで帰路につく。
町に街路灯はなく、家から漏れる灯りだけが頼りだ。近すぎるとぶつかりそうになるので、ある程度距離をあけて歩いた。
「真っ暗だね。白属性がいれば夜道も明るいのに。アイゼン知ってた? 黒属性にとっては夜の方が落ち着くらしいよ。魔法が闇に溶け込むからかな」
ランゼンと仲の良い友達の中に白属性と黒属性はいなかったはずだ。少なくとも学び舎にはいなかった。誰に聞いたかも尋ねられずに足元ばかり見ていたアイゼンは木にぶつかりそうになって我に返る。ランゼンが腕を引いてくれたおかげで、街路樹にぎりぎり衝突しなかった。
「ありがとう」
「どういたしまして。危なっかしいんだから」
「……ランゼンの前だけ」
「ん?」
先に進もうとしていたランゼンが振り返った。
「ランゼンの前だけだった。ランゼンしかいないと思ってた。でももう一人で歩ける」
真剣なアイゼンの言葉に面食らった後、ランゼンは口元を緩ませながら歩みを再開した。
「……まったく、知らないうちに立派になって」
雲に覆われ星明りさえもない道を二人で歩くのはこれが最後になるかもしれない。
双子であるために感覚を共有しているのか、そんな予感が二人にはあった。
お読みくださり、ありがとうございます。
白黒赤青緑の属性について、白と黒は他の三つに比べて人数が少ないです。
火山の近くでは赤、湖の近くでは青、森や草原の近くでは緑属性が生まれやすくなります。
遺伝要素もありますが、街によって各属性の生まれる割合が異なります。
ちなみに碧水基地は青と緑の二強なので、赤と白と黒は少数派です。
ゆえにアイゼンの赤い髪は町で目立ってしまいます。




