シロエとクマ 1
昨年の童話祭にだすつもりが、執筆中作品の中にうずもれてしまっておりました作品です。
小さな町の小さなパン屋さん。
そこにはクマのパンが大好物な小さな女の子がいました。
名前はシロエ。
パン屋のおかみさんは、ずっと力のつよい男の子がほしかったので、シロエが生まれた時、女の子の名前をかんがえていませんでした。生まれても名前がないのはかなしいことです、だから仕方ないので、そんな女の子の名前はシロエとなりました。
小さな町の中でシロエはシロと呼ばれ、シロは町の皆が大好きで、皆もシロのことが大好きなのでした。
小さなシロはいつもパン屋のおかみさんにこう言います。
「お母さん、朝ご飯にクマのパンをくださいな」
するとおかみさんは答えます。
「シロ、お手伝いをしなきゃパンはあげられないよ」
お母さんであるおかみさんはシロエをけっして甘やかしません。
今日もいつものように、パン作りに使う木の実をとってくるように言いました。
「はい、お母さん」
シロエは町はずれにある林の中にむかいました。
「ねぇねぇかわいいシロエちゃん」
町はずれの林の中には小さな木苺のようせいがいます。
ようせいはいたずらが好きですが、正直でやさしくて、かわいいシロエにはいたずらをしません。
シロエがすすむさきに“いばら”があるだとか、ここのいずみは水がおいしいだとか、ようせいはシロエにたくさんのことをおしえてくれます。シロエはようせいが大好きで、ようせいもシロエが大好きでした。シロエは毎日こんな風に、木の実をとって家にかえり、クマの形をしたパンをもらうのでした。
そんなシロエも16さいのきれいな娘になりました。
きれいなシロエを見て、町の青年たちはいつもおかみさんにこう言います。
「おかみさんやい、シロエを僕のお嫁さんにくれよ」
お母さんであるおかみさんはシロエをけっして放しません。
「かわいいシロエはいつか、どこかの国の王子様とけっこんするんだよ」
そう言うと、青年たちはくやしそうに、王子様になりたかったなぁと言いながらかえっていきます。そんな青年たちを見ながら、おかみさんは言いました。
「シロエ、今日も木の実をとってきておくれ」
「はい、お母さん」
シロエは町はずれにある、いつもの林の中にむかいました。
その日、林には珍しいお客さまがいました。
となりの大きな国の王子がいたのです。
「今日こそ鹿をしとめてやる」
王子はそういって、ぎりぎりと、器用に弓をひきました。
ちょうどその時、しげみの中からシロエがあらわれたのです。
鹿だと思った王子はその矢を放ち、シロエは不幸にも、その矢に当たってしまったのでした。おどろいて王子がかけよると、シロエは悲しそうにわらい、そしてゆっくり目を閉じました。
そんなシロエのかなしいすがたを最初に見たのも、そしてその冷たくなった体に触れたのはもちろん、シロエを傷つけてしまった王子です。王子はこんな美しい娘さんを殺してしまったことにふかく悲しみ、涙をこぼしました。