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ヒステリック・ヒストリー


校庭に生えている立派なビスカン木の下で一人お弁当を食べながら本を読む。行儀が悪いのは分かっているが、誰も私に注目は向けないし、ましてや注意をするような人間もいないだろう。いい天気の日はこの木の下でこうして寛ぐのが私の至福の時なのだ。サーナにとて邪魔はさせない。

読書を終えた私は食べることに集中しようと本を閉じた。そして、私に向かって歩いてきている足音に気がついた。サーナだろうか、可能性は高い。二度もデコピンを喰らうものかと杖を手に取り顔をあげると、そこにいたのはサーナではなく、ポニーテールが特徴的な先輩、トーナ先輩だ。


「ユキメじゃない!あら、1人でお弁当?悲しすぎるわね」


「いや、そうでもないですけど」


「1人で読書をしていたんだろう?いい天気の日は木の下で読書をするの、ボクも好きなんだ」


トーナ先輩の後ろからひょっこりと姿を現したのは、天才と呼ばれるエル先輩。トーナ先輩とお揃いの黒い髪は今日もキューティクルが輝いている。正直言って羨ましい。シャンプーの問題なのか、手入れの問題なのか、そこか問題だ。


「トーナ先輩達も、校庭でお弁当食べに来たんですか?」


「そう。エルがここで食べたいって言うもんだからさ」


この人達本当に付き合っていないのだろうか。この間尋ねた時は、2人は仲良く口を揃え「それはない」。それは素晴らしいシンクロっぷりであった。先週を思い出していた私の隣にトーナ先輩はいつの間にか腰を下ろしており、どこから出したのかメロンパンを食べていた。エル先輩は呆れ顔でトーナ先輩を見た後に遠慮がちに腰を下ろす。


「一人で食べるよりよっぽどマシよねユキメ!」


「ごめんねトーナがこんなので」


「いえ気にしてませんから」


「エル、あとで覚悟しておいた方がいいわよ」


エル先輩が青ざめていくのを横目に残りのお弁当を食べる。すでにメロンパンを完食しているトーナ先輩の口はどうなっているのだろう。疑問でお腹がいっぱいになってしまった私はお弁当箱に蓋をする。


「あらユキメ、まだお弁当残ってるじゃない」


「お腹がいっぱいで」


「食べていい?」


「…どうぞ」


遠慮のない人だけど、そこも彼女の魅力と言えるだろう。私もエル先輩もトーナ先輩には色々助けられている、本人のトーナ先輩は無自覚だろうけれど。お弁当を食べているトーナ先輩の隣で、私は先ほど読了した本を読み返そうと本を手にすると、トーナ先輩は本を見て気がついたように声をあげた。



「そういえばユキメは世界史の授業には参加してるの?」


「はい。世界史は割と好きなんで…」


「私も世界史自体は好きなんだけど、ルーワ先生が苦手で参加してないんだよね。エルに教えてもらうから問題はないし。ほんと面白い物語よね!」


「…歴史だよ、トーナ」


「ああ、エルは歴史派だったわね。ユキメは?」


歴史派、物語派。世界史の代表と言える「世界の終わりと世界の誕生」は歴史として見ている人、物語として見ている人とで分かれているのだ。どうやらエル先輩は歴史派で、トーナ先輩は物語派のようである。確かサーナは物語派、メーナちゃんは歴史派だったはず。どうしてこうも綺麗に分かれるのだろうか。


「そうですね…私は物語派です」


「だよね。私には世界が一度終わったとか考えがつかないわ。というか世界を蘇らせるって、すごい魔法使いだったのね英雄様は。信じられないなあ」


「なら世界を滅ばせた悪魔の力も同じだろう」


「…壊すのは簡単だけれど、直すのは難しいものよ」


お弁当箱を片付けながら、トーナ先輩は悲しそうに微笑んだ。

トーナ先輩は過去に一度、ある事件を起こしている。風使いと言っても過言ではない彼女は、数年前に飛行術の授業でエル先輩に重傷を負わせたそうなのだ。私が入学する前の出来事で、噂でしか聞いたことはないのだけれど、エル先輩の身体には未だに傷痕が残っているらしい。トーナ先輩は傷痕を治す呪文を必死で探したらしいが、結局見つかっていないとか。壊すのは簡単、直すのは難しい。トーナ先輩にも、心に傷跡が残っているのだろう。それはきっと、もう元に戻せないほどに深いもの。


「…トーナ。今日の帰りケーキバイキングに寄って行こう」


「は?何、いきなり」


「甘いもの食べたら、キミはまたいつものように笑ってくれるだろ?」


ボクはキミの悲しい顔はあまり好きじゃないんだ、とトーナ先輩に微笑んだエル先輩は、確かに重傷、いや、重症だと感じた。この人は一体全体どこまで天然なのだろう。今の台詞には流石のトーナ先輩も赤面中である。惚気ならよそでやってほしい。私の存在を忘れてはいないかお二人共。そして私はここに叫ばせていただこう。先輩達本当は付き合ってるだろう!


「…………」


私は無言で立ち上がると、本とお弁当箱を持った。トーナ先輩達に一言挨拶してビスカン木から離れ、向かうのは図書室。ここは私の好きな場所第二位である。利用する生徒も少なく静かであるため気に入っているのだ。まあ、とある先輩達が来ると割と騒がしくなるのだけれど、別に鬱陶しいなどとは一切思わない。なぜなら私はその先輩達を尊敬しているからである。

「度が過ぎるお喋りよくない。ほどほどに喋ろう」と書かれた紙が貼られている扉を開けると聞こえてきたのは二人の話し声。


「おー、ユキメちゃんじゃねーか」


「こんにちは、ユキメちゃん」


やっぱりいた。

グルカ先輩にレルリア先輩。図書室の常連生徒であり、そしてここルノアール学校在校生の中で、魔法能力トップの超天才達。そう、私はこの二人を尊敬しているのだ。なぜなら、超天才と呼ばれている二人が、血が滲むぐらいは甘っちょろいと思わせるほどに過酷な努力をしていることを私は知っているからである。

レルリア先輩は隣の席を指差しながら私に座るように勧めてくれたので、好意に甘え腰をおろした。


「ユキメちゃんは本を借りに?」


「いえ…今日はここで勉強しようかなと。…ビスカン木の下、今ものすごく居心地が悪いんですよね…」


「勉強とは感心だな。解らないとこあればいつでもレルリアに聞いていいぜ」


「まあ、グルカよりかは答えられると思う」


「レルリアは3回ぐらい死ね」


グルカ先輩の口癖である、この「3回ぐらい死ね」には果たしてどのような意味があるのだろうか。もしかしてレルリア先輩の正体は猫で、3回死んで三味線になれとでも言っているのだろうか。三味線になったあとは、どうするのだろう。グルカ先輩が演奏するのだろうか…ものすごく似合っている。


「おっ、レルリア見てみろよ。饅頭の本があったぜ」


「なにその意味不明な本」


「こっちは世界の布団の種類一覧だってさ」


「何ですかそのマニアックな本は」


ここの図書室、いらないような本まで充実しすぎではないだろうか。一体このようなマニアックな本、誰が借りるというのだろう。それはグルカ先輩達も気になったようで、私達は無言で頷き合い、図書室限定で使える呪文を本に唱えた。これは対象の本を借りた人物の名前がわかるというもので、正直言うと役には立たないと思っていた。こんなところで使うことになるとはと思いながら杖を振る。浮かび上がった名前に私達は目を見開いた。


「…トーナ…あいつ…普通の本は読まないくせに…何読んでんだよ…」


「しかもトーナただ一人…」


「トーナ先輩らしいです」


レルリア先輩とグルカ先輩は白けた目をしていた。トーナ先輩はこういう類の本が好きなのか。今度の誕生日プレゼントはマニアックな本にしようと決めたところで、グルカ先輩が廊下を見て苦い顔をしていることに気がついた。グルカ先輩だけではない、レルリア先輩も眉をひそめている。何があるのだろうかと廊下を見ると、ルーワ先生が図書室に向かってきているではないか。


「…オレあの先生嫌いなんだよね…グルカは?」


「激しく同意」


「でもレルリア先輩達って、ルーワ先生に気に入られていますよね」


「嬉しくない」


「むしろ悲しい」


ルーワ先生は優秀な生徒を贔屓をすることで有名である。そして私の知り合いでルーワ先生に気に入られているのがレルリア先輩にグルカ先輩、そしてエル先輩である。エル先輩は頭脳面に関しての天才なのだ。こちらはレルリア先輩達のように努力と言うものはしていない、本物の天才。しかしその反動なのか精神年齢は低い、とのこと。トーナ先輩談である。


「あらあらあら!レルリアさんにグルカさん。図書室でお勉強とは感心です!」


図書室に入って来て開口一番、私の苦手な大声を出しながらこちらに、いや厳密に言うとレルリア先輩とグルカ先輩の方へ歩いて来るルーワ先生は図書室のマナーというものを知らないのだろうか。


「いや別に…勉強じゃないっすよ…」


「ユキメちゃんと、ついでにグルカで話していただけですから」


「6回死ね」


倍に増えている。

ルーワ先生はようやく私の存在に気がついたのか、私を見てにっこりした後に、そういえばと何かを思い出す素振りを見せた。


「そういえばユキメ=ホリールインさんはレポートの提出がまだでしたね。6日後が提出期限なのでよろしくお願いしますよ」


「あっ、はい」


課題のことをすっかり忘れていたとは言えず、とりあえず慌てて返事をしておいた。課題の内容は確か、世界史「世界の終わりと世界の始まり」について、自身の感想を原稿用紙3枚以内で書けというものだったはず。一人では無理そうだ。よし、エル先輩に頼もう。


「ではレルリアさんグルカさん。また世界史の授業にも出てくださいね!」


ようやく図書室から出て行ったルーワ先生を見送ると、レルリア先輩とグルカ先輩は全く同じタイミングで深い溜め息を吐いていた。げんなりと言った顔で背もたれに身体を預ける二人は本当にルーワ先生が苦手らしい。


「オレ、世界史の授業だけは絶対行かない…」


「オレも行かねぇ…」


「…お二人は世界史、歴史派ですか?物語派ですか?」


「あー…物語かな」


「100回死ぬのか、歴史だろ」


「あれは物語としか見れないね」



こちらも見事に分かれている。というか、死ぬ回数がもはや3と関係なくなっている件に関してはスルーなのだろうかレルリア先輩。飲食禁止であるはずの図書室で堂々とリンゴジュースを飲むレルリア先輩は怖いもの知らず。隣でグルカ先輩が怒鳴っているのなんてさもないかのような爽やかな笑顔で私に「図書室は静かでいいね」と言ってのけるレルリア先輩のスルースキルのレベルが計り知れない。


「てめぇオレの!オレの存在は無視か!?100万回死にやがれ!!」


それは流石に死にすぎでは。


「あー、今日はなんだか蝉がうるさいね」


「今は秋だ馬鹿」


「どちらかと言うと冬ですよ先輩」


「…馬鹿はどっちだよ」


「……………」


グルカ先輩に睨まれているような気がするが、それは気のせいでしかない。そう私の気のせい。なぜなら私はどちらの味方についたつもりもないのだから。私はただ事実を述べたまで。グルカ先輩に睨まれる理由がないのだ。


「ユキメちゃんに裏切られるとは思わなかったぜ……」


「裏切るもなにもないですよね」


「そうだよ。ユキメちゃんは最初からオレの味方だったんだから」


「違う。レルリア先輩違う」


「じゃあやっぱりオレの味方なんだなユキメちゃんは!」


「どちらの味方でもないという選択肢を今すぐに用意してください」


こんな先輩達だけれど、私は嫌いにはなれないのだろう。いつまでも憧れで、尊敬の対象で、いつまでもこうして一緒に話せることが私の幸福なのだ。


「いい加減に静かにしなさい!度が過ぎますよ!!」



しかし話はほどほどに。



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