その19:銃声
だが、入ってきたシングマス五世は、まるっきりそういった形式に捕らわれない人だった。
「いやあ、どもども。あ、そんなに緊張しなくていいから」
ざっくばらんな口調で、手で制する。ちらりと横目で見ると、ファリスが呆れつつ首を振っているのが見えた。
「おっ、今回は女性が多いな。こりゃ我々男性陣も、うかうかしてられないな」
言われてシェラは初めて気がつく。今回の各部隊のベスト四に残ったメンバーのうち、男性は魔術師風の男が一人と、ハンターとその隣に一人の三人だった。他は全員女性だった。
つまり、第四部隊と第一部隊はシェラを含み、みんな女性ということになる。
「シングマス王。もう少し格式というものを――」
「世に並ぶ強豪たちとこうして会食が出来るんだ。無礼講でいいじゃないか」
「しかし、王の威厳というものが……」
「まあまあファリス、固いことを言うなって。隊長が固くなれば皆が固くなっちゃうだろ」
「はあ……」
半ば諦めていたのか、ファリスはあっさりと引き下がった。
「ささ、座った座った。すぐに食事が運ばれてくる。お互い楽しもうじゃないか!」
シングマス五世が座ると、皆が一斉に座る。先ほどまでの陰鬱な空気は、すでに消し飛んでいた。
前菜、スープ、メインディッシュと運ばれてくるも、だれもが無言のまま、会食は進もうとしていた。
それを止めたのも、やはりシングマス五世だった。
「なんだなんだ、みんな暗いぞ? たとえ明日の本試験で落ちたとしても、ここまで残ったことは名誉なんだ。もっと自信を持つんだ。各部隊の隊長に質問でもあれば、この場を借りてするといい。これは単なる食事ではなく、会食なんだ。これでは集まった意味がないだろ?」
シングマス五世がそう述べると、一人の男性が手を上げた。
「恐れながら、第三部隊のファリス隊長に質問であります!」
第三部隊候補の男性――ハンターの隣の人だ――の蛮声が、部屋中にこだまする。側にいたハンターは慌てて耳を塞いでいた。
「なんだ?」
「第三部隊がシーバス部隊と呼ばれた五年前について、話を伺いたいであります!」
ファリスの手がピタリと止まった。食事をむさぼるハンターを横目で見てから、一度だけ咳払いをする。
「そうだな。あの頃は……」
刹那、質問に答えようとしたファリスの声を遮るように、重たい銃声が響き渡る。
「くっ……」
銃弾が命中したのか、第二部隊候補の男が、手から流れる血をもう片方の手でせき止めている。硝煙が立ち上る拳銃を握っていたのはもちろんファリスではなく、ハンターでもレッシュでもなかった。
「大声にまぎれて呪文詠唱とは、なかなか考えたものだな」
拳銃の持ち主が立ち上がり、拳銃を構えたまま血を流す魔術師に近づいていく――シングマス五世だった。
「まったく、毎年毎年こうも命を狙われるとは……自分では名君のつもりなんだけどな」
「どんな名君でも、少人数には恨まれるものさ……」
シングマス五世の横でぼやいたのは、ハンターだった。手にはいつの間にか握っていたデザートイーグル。銃口は質問をしていた男性の口の中へと押し込まれている。
「あが……」
「お前も一味だろ?」
「んががが!」
銃口を口に入れたまま首を振る男に、ハンターは冷たく言い放つ。
「お前が良識のある人間なら、あんな馬鹿でかい迷惑な声で質問しない。普通に考えれば、あの男の呪文詠唱を手伝ったってことになる」
「わたしも同意見だ。フランカー、レッシュ、この二人を牢屋に放り込め」
「仰せのままに。シングマス王」
レッシュとファリスの二人がそれぞれを武装解除し、連行していく。蛮声の男も観念したのか、がっくりとうなだれてしまった。
あまりにも早い事件の流れに、なすすべもなくただ呆然と見つめていたシェラは、ようやくそこで我に返った。
ハンターの視線が、チクチクと胸を刺す。シェラはだれにも気づかれないよう、小さく頭を下げた。