その20:油断
「それにしても、よくお分かりになりましたな、シングマス王」
ハンターが尋ねると、シングマス五世は口元を緩めてみせた。
「あいつだけ緊張しているというよりも、我を失っているといった感じだった。異常な汗のかき方をしてたし、全身も震えていた」
「さすがはシングマス五世です」
「そういう君も、彼のようすに気がついていたようだが?」
「いえ、わたしはシングマス五世の反応で、ようやく気がついたに過ぎません」
「鳥肌が立ってくる喋り方だな」
「ええ、お互いに」
二人の両肩が、小刻みに震え始める。そして同時に、声を高々に笑い始めていた。
「まあなんにせよ、これで安心して会食を楽しめるってもんだ」
「まったくです……」
ふとした気の緩み――油断が、シングマス五世とハンターを包み込む。それが事件の発展へとつながるとも知らずに。
今度は三度の銃声が、広い部屋の中へと反響した。ハンターとシングマス五世が、懐にしまいかけていた銃を慌てて引き抜く。
銃の持ち主は第三部隊候補の女性だった。不気味に微笑む女性の拳銃は、天井へと向けられている。
自然と天井へと向けられた視線に、大きく映し出されるシャンデリア。だんだんと大きくなっていくそれは、無残にもテーブルの上へと落下していった。
シェラも含め、テーブルについていた面々が慌てて飛びのく。
耳をつんざく轟音と共に、砕け散るシャンデリア。同時に魔術師候補の一人が、シャンデリアに水をかけた。
ろうそくの火はあっさりと消え、部屋の中は一瞬にして暗闇と化した。
「くそっ!」
ハンターは懐から発光弾を取り出すと、パイソン四インチへと詰め込む。そして壁へと銃口を向け、引き金を引いた。
弾丸が命中すると同時に、飛び散る発光液。薄暗く照らされる室内は、すでに終息へと向かっていた。
ハンターの横には、同じ第三部隊候補の女性二人、銃口はハンターへと向けられている。
シェラには第二部隊候補の杖が向けられ、情けないことに両手を上げていた。
ファリスは懐の拳銃を、第二部隊長は杖をそれぞれ握っている。だが、すでに第四部隊候補の短剣が、それぞれの喉下へと突きつけられている。
そしてシングマス五世は、第一部隊候補の剣が心臓、首筋へと向けられていた。残りの一人はシングマス五世が握っていた拳銃――四五四カスールを没収している。
「まさか……全員が?」
ハンターが呟くと、こめかみに銃口を押し付けられた。持っていた拳銃を落とし、両手を上げる。
武装解除された面々は手を後ろに回され、紐で縛られてしまった。そのまま部屋の奥へと押しやられ、床へと座らされる。
半分をハンターたちの監視に残し、残りの半分は三つある入り口へと警戒に向かった。全部で十二人、狭くはなくとも食事をするような場所だ。占拠するには十分な人数だろう。
「我々はフィメイル=レジスタンス。悪いがシングマス王には死んでもらう」
「やめろ!」
手を縛られたままの状態で、ファリスがシングマス王の前に立ちふさがる。
「どいてくれ。他の面々に手を出すつもりはない」
「だったら、なおさらどけないな……」
「どかないなら、貴様も死んでもらうだけだ」
「主のために身を差し出すなら、本望だ」
互いの鋭い眼差しが交差する中、緊張感のない声がファリスの後ろから聞こえてくる。
「きみがリーダーか?」
「だったら、どうしたというのだ?」
「いや、殺される理由ぐらいは知っておきたいのさ。分けも分からないまま殺されるなんて、理不尽だし、それ相応の罪がわたしにあるなら、殺されても仕方がない」
「殺される理由だと? 心当たりがいくらでもあるだろう」
「それがないから聞いているんだ。自分で言うのもなんだが、善政を行っているつもりだ」
『善政を行っているだと? 笑わせるな……』
心の中で、レジスタンスリーダー――レティシアはそうぼやいていた。




