第7話:Prototype-A vs System-Altair
その空間には、色も重力も、時間さえ存在しなかった。
だが私は確かに“立っていた”。
目の前には、白銀の玉座。
そしてそこに、悠然と座する男――
「ようこそ。ようやく“最終アクセス階層”に到達したか、Prototype-A」
P.Altair。
この世界の設計者、断罪システムの創造主。
名ばかりの“神”。
私は前へ進む。
彼の足元に膝をつくでもなく、武器を構えるでもなく。
ただ、言葉を投げつける。
「もう終わりにしましょう。
“断罪ありきの物語”なんて、どこにも救いがない」
「救いなど最初から存在しない。
これは“人類の意志再編実験”だ。
破滅の中でこそ、人の感情は真に熱を帯びる。
それが、このシステムが求める“最適感情曲線”だ」
「……あなたが求めたのは“最適”じゃない。“都合”よ。
誰かが涙を流し、誰かが罪をかぶる。
そのデータを眺めて喜ぶだけの、ひどく不完全な“観測者”」
私の周囲に浮かぶのは、詠唱なしで呼び出した魔術構文。
通常ではありえない、“因果律操作魔法群”――
「System・Access Override」
「Structure・Rewrite Protocol:起動」
「Priority User:Prototype-A/認証コード確認……完了」
「そう。私はあなたの作った“Prototype”。
でも今は違う。私は“魔女”よ。
あなたに否定される側じゃない。――否定する側なの!」
空間が震える。
Altairが軽く手を振ると、数百のエラーコードが空中に走る。
「ならば見せてみろ。君のその意志が、秩序を超える価値を持つのか」
――戦闘、開始。
空間そのものが魔法となる。
星が崩れ、時間が巻き戻り、存在の定義が書き換えられる。
Altairは“断罪イベント”そのものを武器として使用してきた。
【断罪ルート・転写起動】
【処刑対象設定:アリステリア=グランツ】
【刑罰内容:存在削除(Oblivion)】
「それを、許可すると思って?」
私は自らの“記録”を書き換える。
断罪ルートの根幹にある“罪状の根拠”を否定する。
「その破滅は、既に無効よ。私は私を許す。
私は私を肯定する。
世界が否定しようと――私自身は、存在し続ける!」
【自己承認権限:発動】
【Prototype-A:存在定義維持】
【対消滅を無効化】
Altairの眼が鋭く細められる。
「……まさか。君は、システムの奥底にある“感情変数”まで再構成したのか」
「ええ。あなたが利用しようとした感情――断罪される側の痛み、涙、絶望。
私は全部、引き受けてきたわ」
「感情に意味などない。ただのパラメータにすぎん」
「ならば、そのパラメータであなたを上書きする!」
私は最後の構文を展開する。
【Emotion-Core:Burning Rewrite】
【断罪構造式:焼却開始】
【イベントトリガー:Prototype-A/自由意志による世界改変】
Altairが激しい光の中で立ち尽くす。
「やはり君は、エラーであり、奇跡だ」
「そう。私はバグよ。でもね――」
「この世界で、たった一つだけ“自分で運命を選んだ存在”なの!」
断罪ルート、崩壊。
世界の修正ループ、停止。
“神の座”へのアクセス制限、無効化。
そして私は、Altairに最後の言葉を投げた。
「もう、あなたの座には誰もいらない。
“選ぶ権利”は、すべての人にあるべきものよ」
Altairは笑ったように、消えていった。
その痕跡だけが、空間に残された。
【System Root:解放】
【すべての存在に、物語選択権が付与されました】
私は、深く息を吐く。
「……これが、私の革命」
こうして、“断罪の世界”は終わった。
そして今、ようやく物語は――自由な物語を許された。




