15鞍目 北日本学生馬術大会
今年もやはり八月は暑い。結束した部のモチベーションも相まってか、とにかく熱い。決意と約束を胸に私たちは北日本馬術大会に挑んだ。
快晴の中で行われた二回走行の一走目。運営側の意図はわからなかったが、例年に比べ十センチほどはボリュームダウンした障害が馬場に並んでいた。最高の高さでも百二十五センチ程度か。
聡馬とダルタニアンは一落下の減点四。イチとフジコンドルが一落下とタイムオーバーで減点五。二人の安定した走行に大きな歓声が沸き起こった。しかしこの日一番の歓声を浴びたのはパルプンテだった。減点ゼロ。満点走行で一走目を終えた時点で個人トップにたった。とにかくプンテの調子がいい。今まで積み重ねたものをすべて発揮できている。団体成績もこの時点でトップ。あんまり意識してしまうとプレッシャーに感じてしまうから、あまりこの話題には触れたくなかったのだけれど、イチは大声で「明日も勝つ!」と叫ぶ。二日間の総合成績で成績が決まるので、一日目をトップで終了したからといって勝ったわけではない。いつも通り意味不明な発言なんだけれど、それでもイチに引っ張られ私は体の奥が熱くなった。
夕方、快晴だった空は一転暗い雲に覆われ、大粒の雨が降りそそいだ。体を冷やすクールダウンには激しすぎる雨だった。
翌朝、強い雨は続いた。昼過ぎからは打って変わって快晴になるとの予報。通常であれば荒天でも競技は行われるが、あまりにも強い雨足と午後からの予報を鑑み、二走目は十五時から開始するとアナウンスされた。
雨が上がった後、馬場の整備が行われた。そして想定以上の好成績が続いた一走目の結果を反映させてか、各障害は大幅なボリュームアップをみせていた。中盤に設置されたダブル、最終障害となるトリプル、二つの連続障害は百三十五センチに設定されていた。その姿はまるでシャンゼリゼ通りの西端シャルル・ド・ゴール広場にそびえる凱旋門。結局ダビスタでは凱旋門賞勝てずじまいだったな。あと少しのところまでは迫るんだけどな。
たかが十センチなんだけど、この十センチの壁はとてつもなく高い。多くの人馬がチャレンジし、超えることが出来るのは一握り。多くの人馬が跳ね返される十センチの壁。事実、昨日の下位成績からと順番が入れ替わった二走目は序盤から失権になる人馬が続出した。
そんな高い難易度のコースでも聡馬とイチは昨日と同様、歓声をあびた。R学園大学のトップバッターとなったイチとフジコンドルは二落下の減点八。聡馬とダルタニアンは一走目よりも調子を上げ、減点ゼロの満点走行。二人とも全日本学生への切符をほぼ確実とし、聡馬に関してはこの後登場する選手たちの結果によっては個人優勝の可能性も出てきた。
陽が傾き、空が茜色に染まり始めた。最終走行人馬であるプンテと私の出番が迫る。
「プンテ! 頼むぞ! 帰って来いよ!」イチが声を張り上げる。プンテに声をかけたのは私にプレッシャーがかからないように彼なりの気遣いなのだろう。昨日からその気遣いを発揮してくれればいいのに。
「響くん。悔いの残らないようにな」あ、佐々木先輩だ。大雨の影響で飛行機の到着が遅れたのだろうか、大きなリュックを背負っている。私の三番前に走行を終えた聡馬が二人に駆け寄る。なんだか私、周りの状況が良く見えている気がする。
本馬場入り口付近で馬付きを担当してくれた可奈と共に待機する。「あ、てんとう虫」可奈が言葉を発したと同時にプンテは身震いし、顔にとまった虫を追い払った。茜色を発する夕日を反射しプンテの瞳が輝く。「太陽の瞳みたいだね」可奈がつぶやく。私もアンサンブルの瞳を思い返した。お願い、見守っていてね。
「三八番 西宮響選手 乗馬パルプンテ号 酪農学園大学」アナウンスと同時に私とパルプンテは一つ間違えば制御が出来なくなるのではないかと思うほどの前進気勢あふれる駆歩で入場口から本馬場へと飛び出していった。
パルプンテにしっかりと障害をみせるよう大きめにコース取りし、第一障害に入る。昨日に続きプンテは危なげない飛越をみせ続ける。中盤のダブルにさしかかかるまでは。
――やってしまった。
ダブルのBで停止し一回目の反抗。ミスと呼ぶにはあまりにも小さなものだったが、Aの飛越の後ほんの少し上体を起こすのが遅れた。最高難易度の高さとなった連続障害はそんな小さなミスも見逃してはくれなかった。
――ごめんね、プンテ。あんなに練習したのに。
B障害を飛越する勇気を引き出せなかった私はプンテに詫びた。だけど、すぐに前を向いた。まだ一反抗しただけだ。
二度目となったダブルへの挑戦は先ほどの反抗が嘘のように綺麗に飛越した。その後に続く障害も見事な飛越が続く。
残るは最後の障害、トリプルだけだった。この障害を越えさえすれば……。
AとB障害を越え、最後の一つとなったC障害。二回目の停止。最後の一つを飛越する勇気を振り絞ることが出来なかったパルプンテはC障害に接触しながら急停止した。二反抗目。
次のチャレンジで停止すれば三反抗になり失権。今まで周囲が良く見えていた私の頭は真っ白になった。
「プンテを信じて! 最後は気持ちだよ!」可奈の叫び声で我に返る。
「響!」大声の方へ視線を向けると、聡馬が拳を左胸にあてていた。グッと固く握られた右手を。
停止の際の接触で崩れてしまったC障害が再設置されている間、私も胸に手を当て、パルプンテの顔を見た。夕日と同じ色に輝く瞳が前を向いていた。
再開のブザーがなった。
『観戦はお静かに』そんな注意事項が記載された看板に観客たちの興奮を抑えるほどの強制力はない。様々な掛け声がこだまする。
「いけー!」
「飛べー!」
皆が背中を押してくれている。最後まで挑もう。
しっかりとルートを定め、再度トリプル障害に挑む。
A障害を飛越した瞬間、地面が爆ぜたような衝撃。
――懐かしい。それは障害のはるか上を越え、見る者の心をつかむアンサンブルの障害飛越のようだった。
B障害の前には何とか体勢を起こす。再度地面が爆ぜる。
C障害に向かう二完歩。バランスが崩れた私はパルプンテを信じ、首につかまるようについていく事しか出来ない。
太陽に届く大きな飛越は綺麗な放物線を描いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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