8鞍目 三大学定期戦
コミケ103 12月31日(日)小説出品します。続きが気になったかたは是非!東地区 ホブロック 40a
H大学、O大学、そして我がR学園大学、北海道には三つの大学馬術部が存在する。毎年五月に各大学持ち回りで他の二校を招待し大会を開催する。通称、三定戦。出場選手は各大学三名。新二年生の三名が出場する、いわば新人戦のようなものだ。この三名の選手選抜には暗黙のルールが存在する。一人は馬術経験者、一人は未経験者、そしてもう一人は女子。この三名でチームを組み、主催大学で飼育する馬に乗って競う。ホーム大学は慣れ浸しんだ馬で、アウェーの二大学は貸与馬という形式になり、圧倒的にホーム大学が有利となる。この圧倒的な有利という状況がホームチームに絶対勝利という重圧を与える。お祭りムードで盛り上がる三、四年生と裏腹に出場選手に選ばれたホーム大学二年生は部の威信をかけ三定戦に挑むのだ。
「響くん、三大学定期戦の選手選抜おめでとう!」
出場選手が発表されたミーティングが終わり、女子部室へ移動した直後に佐々木先輩から祝福のお言葉をいただいた。片方だけ口角を上げた佐々木先輩の顔は真面目三割、からかい七割の割合に見てとれた。
「……ありがとうございます」
私の返事が煮え切らなかったのは選手に選ばれた事への喜びがなかったわけではない。それ以上に佐々木先輩がこの後何を言い出すのかという不安が勝ったからだ。
「響くんと聡馬とイチの三人か。いやぁいいメンバーだ。響くん、もちろんR大学の二連覇を狙っているんだよね」
昨年O大学で開催された三定戦は大本命のホームチームを我がR学園大学が下し大金星を挙げていた。遠征からの帰宅後、佐々木先輩は自らの活躍が勝利に導いたのだと声高らかに言い切っていた。
「今回はホームの大会ですし、もちろん勝ちたいです」
「そうだろう。うん、そうだろう。では昨年勝利の立役者である私から響くんたちへ必勝法を授けよう! 三人と可奈を集めたまえ」
やはり何かおかしなことを言いだそうとしている。しかし先輩のありがたい助言を無下にすることもできない。佐々木先輩のもとへ三人を引き連れ馳せ参じた。
「諸君! よく聞きたまえ! 三定戦の必勝法、それはな……」
……長い。私たちが目を輝かせながら教えを乞う言葉を発するのを待って、間をたんまりとっている。根負けし「それは何でしょう?」イチが口を開いた。
「気になるか! うんうん、気になるよな! それはだな……」
二ターン目、私たちはゴクッと喉を鳴らし待望のまなざしを向けるふりで無言の返答をする。後輩たちのそのまなざしに満足したように佐々木先輩はやっと本題に入った。
「前夜祭。そう、前夜祭を制する者が三定戦を制するのだ!」
やっぱりだ。やっぱりおかしなことを言いだした。まともな技術指導ではないだろうとは思っていたが、馬に関する事ですらないとは。しかしここで茶番を終わらせては話が更に横道にそれる可能性がある。「それはどういうことでしょう?」またイチが口を開いた。
「そうか、君たちは誰も昨年の遠征組に入っていなかったな。三定戦勝利のために最も大切なこと、それはどれだけ平常体で出場できるかだ」
「平常体? 平常心ではなくてですか?」次は可奈がこの茶番へ積極的に乗っかった。
三大学の懇親を深める為に開催される飲み会が大会後の打ち上げではなく、前日に行われるのは平常をぶち壊すためにある。実際には懇親とは名ばかりのつぶし合いだ。各大学の部員たちはアルコールの弾を放つスナイパーとなる。もちろん狙いは他大学の出場選手。ホーム大学が圧倒的に強いのはスナイパー達の数的優位にあるかららしい。そしてもう一つ重要な役割となるのが壁役と言われる存在だ。壁役は自大学の選手の盾となり他大学のスナイパーからの攻撃を身を呈して守るのだ。方法は簡単、壁役が代わりに飲めばいい。佐々木先輩はまくしたてるように、そして大真面目に必勝法を語った。
「私が壁役ですか?」同期の間ではザルとして知られる可奈が自らの役割を確認する。
「いや、可奈はスナイパーだ。可奈からのお酌を断れる男子などこの世におらん。女子選手は必然的に壁役の守りも硬くなる。女子選手は無視、しかし男子選手は必ずつぶせ」
「では、誰が壁役を……」私を含め皆が答えはわかっていたが、一応、形式的に、念のため確認する。
「フフフ、そこはアジアの壁こと、この私に任せなさい!」
佐々木先輩は酒で乱れるのは早いくせにそこからが長い。部内の飲み会では要注意人物として先輩たちの目が光る。壁役という大義名分をかざし、激戦の地に自らの身を置いた上で片っ端から弾をおいしくいただきたいのだろう。
かくして佐々木先輩曰く本戦以上に重要な前夜祭が始まった。
私たちは激しい銃撃戦を想定していたが、実際には懇親の色合いが強かった。選手たちの自己紹介と意気込み発表など終始和やかなムードで進む。その中で壁役の佐々木先輩は他大学の部員に自ら弾を求めるという傍若無人ぶりを発揮、そして暗殺命令を忠実に守った可奈が次々にスナイプを発動させていた。鼻の下を伸ばし可奈の発射する弾を受け、見事につぶれた他大学男子選手四名は自業自得ともいえるだろう。宴もたけなわとなった頃、四名に加え壁役の役割を果たしきった佐々木先輩を含めた五名だけが泥酔し、戦場に横たわっていた。
昨年佐々木先輩とチームメイトとなり大金星を挙げた先輩が言うには、昨年の前夜祭でも壁だのスナイパーだの一人騒ぎ立てた佐々木先輩だけが泥酔していたのだという。それでも翌日の本戦には誰よりもはつらつとした顔で現れた佐々木先輩の活躍で優勝したことは間違いないそうだ。懇親の場を戦場と騒ぎ立て、誰よりも多くのアルコールを摂取するというマッチポンプの首謀者に、今年の前夜祭も思うようにしてやられたのだ。私はこの時になって初めて気が付いた。
いざ本番の三定戦が始まると、可奈に鼻の下を伸ばしていた四選手も若干の青白さを顔色に残しつつ、キリッとした表情で競技に挑んでいた。プンテに騎乗した他大学の二選手はダブルやトリプルでの反抗があったが、聡馬は難なく満点走行を披露。私やイチ、そして他の四選手の点数には大きな差がなく、下馬評通り頭ひとつもふたつも抜けた技術を持つ聡馬の活躍によってR学園大学の二連覇がもたらされた。
前夜祭での乱戦をけしかけた佐々木先輩は主将から大目玉をくらい、表彰式ではしおらしく小さな拍手をしていた。しかし解散後、女子部室に可奈と私と三人になった瞬間、「完全勝利だ」と声高らかに宣言していた。凝りもせず。私は来年も同じ事が続くのだろうなと確信した。
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