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・包帯で右腕を巻いて、一晩が経過してそれでいて尚若干残る痛みと言う違和感を負いつつもいつもどおりの朝を迎えた僕達。
「今日、白百合は怪我のため欠席との連絡が入っている」
筧先生の言葉。当然昨日の事は先生には話した。セントラルがついに動いたんじゃないかって話だけど、先生はそれを否定した。
そんな話は聞いていないって。念のためすぐに先生が本部に連絡したり、学園長に会いに行ったりしたけれどやっぱり結果は変わらない。つまり昨日、白百合さんが僕達を襲ったのは彼女の独断と言う話になってしまう。
一体、どうして彼女は僕を狙ったんだろうか。気付かない内に僕が何かしてしまったとか?
思い当たる淵があるとすればやっぱりこの前の体育館裏の下級生ちゃんとの密会だろうけど。
でもまさか、たったそれだけでPAMTなんてセントラルの重要機密を使ってまで殺しに来るなんて事はないよね? だとしたら何なんだろう?
「それから、転校生を紹介する。……声は上げてくれるなよ?」
「?」
妙な前挨拶だ。転校生が来たら確かに多くの女子はキャーキャー言うかもしれないけど。それがダメ? 聴覚か何かに異常がある人なのかな? それとも心臓?
「入ってくれ」
そして教室の前のドアが開かれて3つの顔が姿を見せた。
「ひゃ……!!」
先生の忠告も甲斐無く、小さな悲鳴がいくつか聞こえた。けどそれも仕方ないだろう。
「升城戸麗矢です。姉です」
「升城戸星矢です。」
「……」
「「で、こちらは黒星ギネスです」」
入ってきたのは<3人>の<少女>だった。……いや、この表現は間違っていないと僕は思うよ?
たとえ升城戸姉妹の下半身が繋がっていても、たとえ黒星さんの五体のほとんどが欠損していても。
「見ての通り彼女達には事情がある。どうか憚ってやってほしい。もうここしかないんだ」
先生の、努めていつもどおりの声と言葉。しかしそれを合図にひそひそ話は起きてしまう。そんな時だ。
「言っとくけどね、僕は君達に負けている要素なんて全然ないんだからね?」
升城戸姉妹の右側……本人達からしたら左側の麗矢さんが声を出した。
「僕はIQ160の天才なんだからね? もう大学卒業の賞状だって貰ってるし、博士号だって持ってるんだ。ハゲとEDの特効薬を作ったんだよ? 先生、いる?」
「余計なお世話だ」
「じゃあ男子。このイチモツがとても大きくなる薬いる? これも僕が開発したんだよ。なんでも、三日三晩やり続けても維持できるんだってさ」
……なんかざわめきの色が変わったんですけど。そんなに大きくしてどうするんだか。中学生が。
「星矢も、ほら」
「あ、うん……。私が大学で作ったのは……お、お、お胸が大きくなる薬で……女子にどうかなって……」
また、ざわめきの色が変わった。そんなにデカチチがいいのかお前達!?
「……」
「「それからギネスが大学で作ったのはパラレルヘルス! 持ってる人の体調管理が出来るの!」」
「先生、いる?」
「だから、余計なお世話だ!」
……3人とももう大学出てるんだ。でも、だったらなんで中学? 外見年齢……ちょっと難しいけどみんな僕達とそんなに変わらない、むしろ同い年だと思うし。それに、先生はもうここしかないとかって言ってた。一体どんな理由があって中学に来たんだろう?
「ねえねえ、きみきみ。僕が作ったこのED特効薬使わない?」
3つの足でやってきた麗矢さん。どうやらその言葉は僕に対して告げているらしい。
……うん、そっちがその気ならこっちもその気でいいんだよね?
「僕は女だぁぁぁぁっ!!」
「え、嘘っ!?その胸で!?」
「あんたが言えることかぁぁァーっ!?」
「何をう!? コレでも僕は大学を出ているんだよ!?」
「でも歳は僕達と大差ないでしょ? と言うか同い年だよね?」
「ああ~もう!! 僕僕って、僕ってのは僕だけの言葉なの! ボクっ娘なんて二人もいらないの!」
「一人称とか個性に独占禁止法なんてありませ~ん!! 僕だって僕なの! クラスにボクっ娘は二人もいらないの!」
「じゃあそっちが消えたらいいじゃないか!」
「なんで先にいる僕が消えなきゃいけないのさ! 大学も出てるんだったらわざわざ中学校に来ること無いでしょ!?」
「ムカムカ! 仕方ないだろ!? 星矢がどうしてもって言うんだからさ!」
「……同い年の子って本当はどうしているのかなって私、気になっちゃって……」
「……む、妹さんを人質に取るなんて最低なお姉さんですね。センチメンタルで支配ですか? 升城戸麗矢と書いてヒトラーとでも呼ぶんですかぁ!?」
「アッタマキタァァァァァァッ!! お前はなんて名前なんだよこの胸ぺったんキャラかぶり!!」
「誰が胸ぺったんですか!! 中学2年でBカップあれば十分な方でしょうが!」
「び、B!?」
「……もしかして君はA? それともAAかなぁ?」
「くっ……星矢ぁぁぁっ!! 胸大きくする薬頂戴!! ねえ! ねえぇっ!?」
「麗矢、リラックス。これ私達には通用しないんだからさ……」
「ぬがああああああっ!!」
「ふん、勝った……!」
「……お前達そろそろ授業始めたいんだがいいか?」
筧先生の声は僕の勝利を告げるゴングだ。そしてそれが終わると眞姫からのげんこつが迫った。
うう、僕なにか悪いことしたのかなぁ?
ともあれ、授業が始まった。
件の3人は僕の後ろの席に座ることになった。外見通りの事情からか席は1つだけだった。椅子は3つ横に並べている。
……そりゃ気にならないって言ったら嘘になるけど僕ももう14だ。タブーくらいは分かる。
それに、最近はPAMTとかUMXとかセントラルとかこの世界の暗部と言うかトップシークレットな物を見させられ続けたからかそっち方面に疑ってしまう。
トントン
「ん?」
後ろから肩を叩かれた。振り向くと、
「ごめんね。消しゴム持ってない?」
姉妹の左側。星矢さんが手を伸ばしていた。……文字通りの意味で。
「うひゃ!」
これは悲鳴を上げてもいいだろう。どこの麦わらかってくらい彼女の腕は伸びていた。3メートルは軽いだろう。
筧先生も注意をしようとして、現状を視認してそれを諦めた。
「あ、ごめんなさい。私、こんな腕なので」
立ち上がった彼女は両腕をブランと力を抜いて見せる。と、ソフトクリームを作る時みたいに重力のまま彼女の両腕がどんどんどんどん床に落ちていく。ものの数秒でとぐろを巻いた大蛇のように床に二つの螺旋状の塊が出来た。……ごめん。こればかりは自分を隠せない。気持ち悪い。
「星矢さん、あなた一体……」
「気にしないで。私も気にしない」
「……は、はぁ……」
ダメだ。お姉さんがお姉さんだからそれと比較してもマシだと思ったけどこの妹さんも妹さんでおかしかったか。
・休み時間になった。普通転校生が来たならこの最初の休み時間は質問攻めの時間になるだろうけどさすがに今回は相手が相手なだけに3人に群がるようなことはしなかった。
でも、質問攻めがなかったとは言ってない。
「ねえねえねえねえ!! 僕の作ったこのヌンチャク試してみない? どんなもやし野郎でもこれを握ればあら不思議。テロメアに含まれた男性ホルモンが活性化して誰でもアクション俳優になれちゃうんだよ! 今なら一個240円! 本当に安いよ!?」
「麗矢、中学校で商売はまずいんじゃないかな? ……それより田中さん、いい匂い。それどこの香水?」
「……」
3人の方がクラスメイト達に質問攻めをしていた。
「あんたにはこれをあげよう」
「なにこれ?」
眞姫が麗矢から何か渡されてる。ボクシンググローブ?
「これを握って女子の胸を殴ればあら不思議。どんどんバストが縮んでいきます」
「……それを私に渡してどうしろと?」
「中2の癖にそのけしからんバストを何とかせぇやぁ!!」
「あ、僕もそれには同意。毎朝起きたら自分と同い年のくせに自分のよりも大きな胸見させられるとか苦痛でしかないもん!!」
「え!? お前達一緒に寝てるの!? そう言う仲なのぉ!?」
「違うよ!? 一緒に暮らしてるの!」
「もはや婚約済みですかぁ!?」
「僕はノンケだよ!? 眞姫はどうだか知らないけど」
「えっと、このグローブで殴れば胸が縮むんだっけ?」
「「やめろぉ!!」」
二人で回避。あれ? まさかと思うけど僕、麗矢と気が合っちゃったりするわけ? 嫌だなぁそれ。
「あ、今何だか不遜な気配がした!」
「君はテレパシーまで使えるのか!? ふっふっふ、でもいくら君が大学を卒業している秀才だとしても僕には勝てないんだと思うんだよねぇ」
「何をぉ! 中学生のくせに大卒に抗おうってのか!?」
「……どっちも同じレベルでしょうに。星矢さんもずっと付き合ってて大変でしょ?」
「あ、うん。でも生まれた時からずっと一緒だから。それより牧島さん。この髪が伸びる香水如何ですか?」
「……その伸びるってどっちの意味で?」
「こっちの意味です」
また星矢さんが腕を窓の外に伸ばした。下の階から悲鳴が聞こえるからきっと横断幕みたいになってるんだろうなぁ……。
「け、結構よ」
「そう? 残念だなぁ。いい匂いなのに」
「……」
う~ん、とても口には出せないけどお二人の匂いはお世辞でもいいとは言えない。身体障害者独特の悪臭がしている。まあ、もしかしたら姉妹のじゃなくて二人の手提げ袋の中に入ってる黒星さんの匂いかもしれないけど。
「……もしかして麗矢の腕も伸びるの?」
「は? 僕ぅ? 伸びるのは星矢だけだよ。その代わり僕は目からビームが出せます」
「……」
そう言いながら本当に目からビームを出す麗矢。前方3つ前の席で突っ伏して寝ていた男子の頭に命中。一瞬でその毛髪が全て抜け落ちた。
「残念ながら生物にダメージは与えられないんだけどね」
「……精神的なダメージなら十二分に与えられると思うよ」
「よいしょ」
麗矢と話していると、星矢が歩く。星矢が歩くと自然に麗矢の体も前に進む。そして二人は未だ眠ったままの男子に近寄ると、星矢がさっき言ってた髪が伸びる香水をかけ始めた。
「アフターケアも完璧なんだもん。ほら、」
言うや否や確かにシャワーから出る水みたいにどんどん髪の毛が伸びてきた。そのひと束を掴んで二人が歩くと、納豆みたいにネバーっとしながらどんどん髪が伸びていく。二人が僕を通り過ぎて教室内を一周する。と、<の>の字のように彼を中心に彼の髪の毛が教室内を一周して最後に彼の足に縛り付けられた。
「ね?」
「……いや、ここで応対を求められても……」
あれ? もしかして麗矢より星矢の方が頭おかしい?
「おーい、紫ー。牧島ー」
と、ここで隣の教室からやってきたであろう花京院くんの登場。
「なんかパラフォが……うおおおっ!? なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?」
まるでギャグマンガみたいに大袈裟に突っ込みを入れた花京院くんが尻餅をついた。……初見だとこうなるよね普通。
「あ、新手のUMXか……!?」
「違うよ花京院くん。それよりどうしたの?」
「あ、ああ。パラフォが何かおかしいんだ」
「え?」
言われて、僕も眞姫もパラフォを出してみる。と、UMXを前にした時のようなPAMT出撃メニューが開いていた。けど、すぐに閉じて普通の画面に戻り、そしてまた少し経つと出撃メニューになってしまう。
でもぶっちゃけそれ以上に僕達の神経を刺激した事実があった。
「……」
「……」
僕達二人が顔を見合わせる。眞姫は可愛いくらい顔を真っ赤にしていた。つまり僕もだろう。
「……うわあ、」
「な、何してるのあんた達……」
「だ、大胆すぎるよ……」
ろ、ロック画面昨日のままだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
PAMT出撃メニューはロック画面でも表示される。でも、今の場合それが消えたり付いたりする。メニューが消えれば変わりに表示されるのは当然元通りのロック画面なわけで……。
今僕達のパラフォはサブリミナルみたいにPAMT出撃メニューと自分のあそこを繰り返し表示して公開していた。幸い、見られたのはこの3人だけだけど……。
イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!! 待って!! か、かかかkあ、かかかか、花京院くんに……み、にみみみ、みみ、見られたんじゃないの……!? ぼ、僕のあ、あそ、あそこ……
「きゅ~」
「ほ、歩乃歌!」
「紫さん!」
僕は真後ろに倒れて姉妹の双胴に支えられた。
「とりあえず歩乃歌に代わって、乙女の制裁!!」
「な、何を……ぐばああああああっ!!」
そうして花京院くんは教室の外まで殴り飛ばされた。
・放課後になった。僕達は一度パラフォの画面について筧先生に質問しに向かう。
「ああ、なるほど。そういうことか」
「何か分かるんですか?」
「ああ。……いいか、お前達。絶対他言はするなよ? 特に白百合の連中にはな」
「?」
「……今日転校してきたあの3人。実は、UMXだ」
「……は?」
「UMX4号だよ。白百合に関係しない俺の部署が秘密裏に捕獲に成功したUMX4号を3分割したらああなったんだ。おっと、誤解するなよ。俺は関与していない。ただ、」
「……UMX4号に含まれていた人間としての材料が濃すぎたからでしょ?」
「……お前、話したのか……?」
「みんな覚悟の上です。そしてその上で改めて聞きますけど先生、UMXって元々人間なんでしょう? いや、正確に言えば現実における列強宣言での5カ国のタカ派がこのセントラルが管理する世界にやってくるとUMXになるのでしょ?」
「……」
「あの3人の大学がどうのこうのって言うのもあの3人のままの経歴じゃなくて元々の人間だった頃のおはなし。性別の科学者だったのかそんな感じじゃないんですか? じゃないとあの体で専門分野が違うなんて可能性、低いですよ」
「……よくそこまでたどり着いたな」
「今までの話とかから何となくね」
「……お、おい、紫。どういう事だよ……? UMXが人間だったって……」
「そのままの意味だよ。きっと許可なく、或いは専用のプログラムなく現実世界の、列強宣言を実際におこなった世界の人間がこの、セントラル管理下の世界に来るとああいう姿になるんだよ。事情や理由までは分からないけど、僕達PAMTを使う人間を狙っている。あと、ごめん。昨日はこの世界は仮想世界とか僕達は作られた命だとかいっちゃったけどあれ間違ってたみたい」
「……おい、それどういうことだ?」
筧先生が初めて疑問を作った。……先生でも知らないことなんだ。
「この世界はセントラルが実験のために作り出した世界じゃないし、僕達もそのために作られた存在なんかじゃない。元々あった電脳世界のような世界を実験場に選んで実験をしている。それがこの世界の真実」
「……お前、それが事実なのか……? そんな事俺も聞いたことがないぞ……!?」
「多分事実ですよ。どこかで誰かから聞きましたからね。……けど、だからこそ危険ですよ先生。あの3人の正体が過激派だって、この世界を管理している人達に知られてしまったら」
「……どういうことだ?」
「だって内部の人間である先生ですら知らなかった事実も混ざっているんですよ? あの3人の正体がUMXであって、そしてさらにその正体が別の世界の人間だと分かったら、きっと他の人達だって勘のいい人は気づきます。そしてそれは好ましくない状態でしょう。……知ったところで何が出来るかは僕には分かりませんけど」
「……」
みんな黙っちゃったけど、これは仕方ない。僕も合点が行っただけで納得はしていない。
でもUMXが列強宣言側の人間だって言うのはきっと間違いないと思う。
今までの情報や推論をまとめると、
1:UMXはセントラルの本部隊……つまり列強宣言側の世界にいるセントラルが抑えているって聞いた。
2:セントラルは何らかの理由や力で列強宣言にこの世界の価値というものを証明しようとしている。
3:UMXは億単位でいる。それは列強宣言をしたそれぞれの国の人口と同じくらいの数。
4:転校してきた3人は元UMX。そして本来ありえないはずの、大学での卒業経験や知識がある。
1~4からUMXが列強宣言側の人間であると言う事はほぼ間違いない。
そしてそこから、UMXの目的は僕達PAMTの使い手と言う事になる。なら、その先はどうなるか。
ただただPAMTの性能実験をしたいためで、UMXの姿で死んでも本体は死なずに元の世界に戻る=業務なのか。それとも、セントラルの最新型或いは象徴とも言えるPAMTを殲滅して戦争に持ち込みたいと言うタカ派なのか。後者だったらきっとUMXになった人間は戻れないし、当然倒されたら死ぬだけだ。もしそうだったら、セントラルが僕達にUMX退治を任せている理由は、面倒を押し付けているって事になる。
「そう言えば聞きたいんですけど先生は列強宣言側の世界の住人なんですか? それとも僕達と同じでこの世界の住人なんですか?」
「後者だ。ここ30年程度で生まれた人間は全員そうなる」
「え!? 先生30行ってないんですか!?」
「俺は29だ!!」
「しょ、衝撃の事実……! 白百合さんに撃たれた時よりきついかも」
「……そろそろセクハラで訴えてもいいんだぞ?」
「あはは……」
ちょっとだけだけどみんなにいつもの調子が戻ってきた。たとえどんなに重たい話でも別に今すぐ物理的に何かが変わるわけじゃない。僕達は実際にここに存在する。それだけ分かればとりあえず自分に試されるような事にはならないだろう。
そう思った時だ。
「へえ、面白いこと聞いちゃった」
「!」
扉の向こう。声がした。この声は聞き覚えがあるし、忘れるべくもない。
「下級生ちゃん!?」
「セントラル側の人間として動かせてもらいまーっす!!」
「! 火核、待て!!」
先生が追いかけるけど、既に扉の向こうには誰もいなかった。
「まずいぞ! 火核か、或いは転校生の3人を探せ! 何をするか分かったもんじゃないぞあいつの場合!!」
「わかってます!」
眞姫、花京院くんと一緒に生徒指導室を出た時だ。
「パラフォが……!」
ポケットの中のパラフォがバイブを始めた。メールでも電話でもないこの感じは、UMX出現の合図。
そして次の瞬間に、窓からの光が消えた。窓の外を見るとそこには、
「「「うwああああああああああああああああ!!!」」」
アルファベット混じりの叫び声をあげる巨体があった。
赤と青のカラーリング、双胴、3本の足と前腕のような短い2本の足、4本の長い腕と目、3つの首、背中から生えた小さな2本の手。
「UMX4号……!!」
「……麗矢……!」
UMX4号は3号と同じように意味もなく学校の敷地で暴れ始めた。理性を失っているからかPAMTを襲うっていう大前提まで失われているようだった。
その長い4本の腕をもっと長く、触手のように伸ばして次々と建物をなぎ倒していく。
「……お前達、頼めるか?」
「……」
「歩乃歌……」
「……紫、俺にはあの3人の事は分からない。だけど辛いようだったら俺と牧島だけで行くぞ?」
「……ううん。僕も行く。……僕がやる」
・学校の敷地を出て暴れまわるUMX4号に、僕達は向かった。
インフェルノと同じかそれよりちょっと小さい程度のサイズの4号に、インフェルノが突進を開始した。
「悪いな、今は倒れてくれ!!」
「ぐwああああああああああああああ!!」
「……麗矢……」
4号は花京院くんの突撃を受けて呆気ないくらい簡単に倒れた。今までのUMXと違って防御力とかはほとんどないみたいだ。……本当に人間がそのまま巨大化したような感じに。
「歩乃歌、」
「眞姫。まずは目を狙うよ。麗矢は目からビームを出せるんだ。UMXになってもただ相手を禿げさせるだけってワケじゃないだろうから」
「……分かった」
空中を抜ける百連とアボラス。ちょうど4号が起き上がったところで僕達は彼女の目に攻撃を放った。
「ぎゃwあああああああああああああああ!!!」
ミサイルとライフルの威力が彼女の4つの目を破壊して血の涙を呼んだ。
そして彼女は4本の腕を伸ばし、デタラメに振り回す。独特な軌道を描いているからちょっと難しい動きだけど、でも問題なく回避できた。
「麗矢、これが僕の戦いだよ。もう見ることは出来ないと思うけど。……僕の勝ちだ」
彼女の腕の根元に向かって突進し、到達すると変形。闇椿を転送して4本の腕を一本ずつぶった斬る。
その度にアルファベット混じりの悲鳴が聞こえるけど聞こえない。一本斬る事に麗矢と言い争いした内容が頭に入ってくるけど、かなぐり捨てる。
「麗矢……」
上昇して彼女の顔の正面までやって来る。でも、さっきまでと全く変わっていないその顔を覗きたくて来たわけじゃない。
「……チェックメイトだ」
僕は両手に握った散弾砲を彼女の額向けてフルバーストした。
「ほ……の……か……」
「……花京院くん、お願い」
「……分かった」
断末魔をあげながら倒れる彼女を、インフェルノから放たれた火炎弾が焼き尽くした。
「歩乃歌ああああああああああああああああああああああ!!!!!」
その断末魔は街全体に響いた。少なくとも、僕の全身を何度も何度も、氾濫しそうになるほど響いた。
だから、ちょっとだけ目から氾濫して落ちるものはあった。
「……ごめんね、麗矢。……ごめんね……」
僕達が去ってから、筧先生のセントラル班がやってきて、UMXの焼け跡を確認すると、そこには3つの焼死体があったらしい。1つは女性。1つは男性。残った1つは異型の女性体。二人を繋いでいた中央の足は完全に燃えてなくなっていたらしい。
・夕暮れ。
あからさまに元気のない歩乃歌を眞姫が連れて帰った後。
繁は部活に参加していた。今日は2チームに分かれての試合だ。
既にセントラル班によるリセットが行われていたからか多くの生徒は今日の出来事を覚えていなかった。転校生がやってきたという事実も。
「……落ちねえよ。腑に落ちねえ」
チームプレイを何度も乱して、ラフプレイまでして、それで1点も取れずに繁のチームは敗北した。
仲間達には殴られなかった。ただ、言葉なく自分の前から去っていくだけだった。
そして誰もいなくなった校庭に繁は大文字で青に変わりつつあった空を見上げていた。
「……ん、少し冷えてきたかな」
悪寒を感じた繁が立ち上がった時だ。
「あなたは都合がいいお邪魔虫なの」
「ん?」
声がして、繁が振り向いた時だ。
「……は……?」
最初に認識したのは己を切り裂く刃だった。次に自分から大量に迸る赤。そして最後に、
「じゃあね先輩。私とお姉さまのために死んで」
赤い翼を持ったPAMTから人間の少女の姿になる、見覚えのない相手の姿だった。
「……マジ……か……よ……」
繁は再び大文字に倒れた。見上げる夜空と正逆の赤を地にまき散らしながら。




