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・地を泳ぐ鮫がいた。電柱ほどの大きさと太さの背びれを地上に出して時速120キロの速さで地中を走るその鮫はUMX3号だ。そしてその地を泳ぐ鮫を追いかける赤の巨体があった。
「待ちやがれぇぇぇぇぇっ!!」
20メートル強の巨体を走らせるティラノサウルスは花京院繁が駆るPAMTのインフェルノだ。
UMX3号が破壊した跡をインフェルノが音速で走り、数秒で追いついてその背びれに食らいつく。
「ぐううううううう……!!」
しかし、インフェルノの足はまだ地を滑っていた。
「な、なんだこの馬鹿力は!! インフェルノで止められねえぞ!?」
背びれに食らいついたインフェルノは、しかし敵の爆走を止められず引きずられていき、やがて鯉のぼりのように足が地を離れてしまった。そのまま進んでいき、高層ビルに突っ込んでいく。
「がはっ!!」
その衝撃でインフェルノは振り落とされてしまい、ビルの瓦礫の中に沈んだ。
それでもなおUMX3号は爆進を止めずにビル街を蹴散らしていく。
「だったら今度はこうだ!!」
口からの炎で上に載っていた瓦礫を焼き溶かしてインフェルノが立ち上がり、走り出す。瓦礫の上を問題なく走り抜けたインフェルノはUMX3号を通り越して正面300メートルに回り込む。そして迫り来る背びれを真正面から受け止める。
「ぐううう……!!」
それでもなお押されていくインフェルノだが、地を蹴って前に進もうと走る。速さならインフェルノが10倍以上だ。背びれから見える全体の大きさや質量もきっとインフェルノの方が上だろう。しかし、インフェルノは前に進めなかった。
「こいつ……どんだけ前に進む力が強いんだよ……!!」
繁が壊れんばかりにスティックを倒すが、インフェルノは前に進まず、後ろに押されていく。
ふと背後を見れば、後方200メートルに学校があった。自分のではないとは言え避難勧告の出されていないこのままでは数百人が犠牲になってしまうだろう。それを認識した時だ。
「花京院くん、すぐ真下の地面に攻撃して!」
「紫!?」
「早く!!」
無線から響く少女の声に反応した繁は言われた通りに後ろに滑る足元に火炎弾を放った。足と足の間に命中した火炎弾はコンクリートを余裕で爆砕して大きくえぐる。それを視認するより先に繁は自身が宙を舞っている事実を知った。
「は……!?」
横道のビルに頭から突っ込むインフェルノ。受身の右手にはミンチが見えた。それを見ないふりして繁は先ほどの足場を見やる。
「あれは……!!」
先程まで敵の突進を止めていた場所に10メートル程度の大きさの、足の生えた鮫が立っていた。直立不動ではない。獅子舞のように歪んだ動きをしている。さらに全身から黒い煙を上げている。
……火炎弾を食らったのか?
否、それだったら背中だけが燃えているはずだが、敵は文字通り全身、それこそ背びれ以外の全てが焦げていて黒い煙を発していた。
・百連がUMX3号との戦いの場所に到着した時、花京院くんがピンチだった。
敵の姿が瓦礫の山とかで見えなかったから熱源スコープで索敵したらとんでもない状態になってた。
だって、相手の質量があの背びれの部分とそれに設置した地面にしかなかったから。
どこぞのサイボーグ鮫怪獣だったら背びれの下にはその本体があるはずだもの。それがなく、背びれと地面にだけ反応があった。
「大丈夫、花京院くん?」
「あ、ああ。それより一体何がどうなってんだ?」
「UMX3号は地面に潜るんじゃなくて溶け混んでいたんだよ。角が生えた氷があったとして、それが溶けたら角と水だけが残るでしょ? それでもその氷だった水が動けば生えていた角も一緒に動く……みたいな感じ」
「ひらべったくなってたってことか? んで、攻撃されたから実体化して出てきたってことか」
「そう。どういう原理で溶け込んでいたのかは知らないけれど今の攻撃で敵は大ダメージを受けた。さっきみたいに潜って突進どころか、まともに身動きを取ることも出来ない程にね。……今の内に集中攻撃で終わりにしようよ」
「……分かったぜ!」
立ち上がったインフェルノが口を開く。火炎弾の準備だ。
……ぶっちゃけインフェルノの火力があれば百連は何もしないでもいいんだけどね。ビーム指のチャージショットだってきっとあの火炎弾一発分になるかどうかってレベルだし。でも一応協力してますよーとか集中攻撃とか言っちゃった手前、一応ミサイルを発射しておく僕。
かくして、僕のミサイルや花京院くんの火炎弾を浴びてUMX3号は瞬く間に大炎上。
「びgいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
やっぱりアルファベット混じりの悲鳴を上げてばったり倒れると、ドロドロに溶けていった。今度は溶け込むようなことはないみたいで、残骸とかがコンクリートの上に流れている。
「やったな。けど、今までにない被害を出しちまった。すまねえ」
「大丈夫だよ花京院くん。きっとすぐに元に戻るから。とりあえず学校に……」
そこから先の言葉は作れなかった。それより先に僕は情報を得た。
「熱源!?」
インフェルノの後方。マッハ2の超スピードで何かが来るのをレーダーが捉えた。
「ん?」
次の瞬間、インフェルノの巨体が宙を舞った。見えないトラックにでも轢かれたみたいに。ギャグマンガとかで思い切りぶっ飛ばされたみたいに。
「花京院くん!!」
声を飛ばす。でも、それとは別方向に僕は飛んだ。
その0,2秒後にさっきまで居た場所を何かが貫いた。あれは……ビーム弾!?
すぐに発射された場所をレーダーで探す。……いた! 前方1時の方向、距離500!
「もしかしてUMX4号……!? それとも……!!」
スティックを倒し、ボタンを押して百連を前進させた。500メートルを飛ぶその間にも何発か迫り来る射撃。それを何とか回避しながらいよいよ僕は目的を発見した。
「!」
「やっぱりPAMT……!!」
ビルとビルとをつなぐ渡り廊下。その窓をぶち抜いて細長い武器があった。その武器を持つのは黒い人型兵器だった。それはどう見てもUMXじゃなくてこの百連と同じPAMTだった。
「どうして僕達を狙う!? セントラルか!?」
「……!」
敵PAMTは武器を転送するとラケットに弾かれたボールのような弾力で空に飛ぶ。僕はそれを追う。
ギリギリだけど追いつける距離と速度だ。……でもきっと追い付く事自体は不可能だと思う。何故なら……
「……くっ!!」
敵PAMTは今度は右方向に弾力を作って同じ要領で左に弾かれていった。僕は旋回して後を追う。でも、旋回する時は最大速度から少し落とさないといけない。減速しないといけない。それを見られたからか、それから相手は真っ直ぐに飛んである程度したら別方向に飛ぶと言うマニューバを繰り返して少しずつ僕との距離を確実に稼いでいく。
……斥力を使ってるんだ。どう言う仕組みを使っているのかは分からないけどあれは飛行じゃない。
でも、僕の知ってるあの情報が本当に真実だとしたらあの機体は、この世界そのものの斥力を使ってる……!
もしくは人工重力……! 純粋な速度だけじゃアレには勝てない……!
そしてそんなものを使えるPAMTは普通じゃない。筧先生の反応からして知ってるのは僕くらい。もしくはセントラルの重役。だとしたらあの機体とパイロットはセントラル所属と言う事になる。そのセントラル所属がUMXではなくて僕達PAMTを狙ってきた。……つまり、PAMTの試験運用期間が終わって邪魔になったから処分しようとしているんだ……!!
だとしたら、ここで数を削っておいた方がいい。数で来られたら勝ち目がない。そして今相手は僕の、百連の弱点を知ってしまった。この弱点の情報を持って帰られて研究されたら僕に勝ち目はない。下手しなくとも最初の討伐対象になってしまうだろう。だから、あのPAMTだけは今ここで何とかして倒さないといけない……!
敵の斥力発動タイミングを見切る。相手は発動する場合はイコールで運動エネルギーが途切れた時、減速した時。その一瞬だけ動きが止まる。だったらそこを攻撃すればいい。
敵PAMTの大きさは百連と大差ない。ならミサイルで十分撃破可能なはずだ。
「……そこ!!」
敵PAMTの運動エネルギーが弱まり、再び斥力を使って弾力移動しそうになったタイミングに僕はミサイルを発射する。左右から4発ずつ、手で掴み取るように!
「っ!!」
動きを止めた敵PAMTに同時に4発のミサイルが命中した。右2発は顔面と右腕を、左2発は胸と左足を破壊するように発射した。そしてそれは的確した。
「やった!」
幾度の爆発を起こしながら敵PAMTは真っ直ぐに落ちていく。その黒い機体からは炎と煙を上げている。重傷に違いはないだろう。でも予想では残骸も残らなかったはず。つまり何らかの方法で直撃は避けたらしい。だとしたらこの状態からでもまだ逃げられる可能性があるかもしれない。
だから僕は後を追いかけて機銃を正面に発射する。秒速10発以上の連射が落下を続ける敵機に無慈悲に浴びせられていく。3秒で左腕が火花を上げて本体から切り離された。向こうの意思ではないだろう。こちらの機銃で破壊したんだ。やれば出来るじゃないか百連の機銃。
「さて、PAMTを落としたら中の人はどうなるか見させてもらおうじゃないか」
落下と爆発と損傷を続けている敵機に対してこんなセリフを言いながら未だ機銃を浴びせ続けている僕はきっと悪魔の類に見えるかも知れない。でも、自分の身を守るためならば悪魔くらいなれなきゃ困るはず。
セントラルに、天才の僕に力を与えてしまったことと敵に回しそうになった事を後悔させてやるくらいには手ほどきが必要なはず。
「……あ!」
突然敵機が光り輝いた。さっきの弾力移動の前触れじゃない。むしろPAMTから元に戻る時の光に似ている。
実際PAMTの形から小さくなって人間の形と大きさになっていく。そして、
「あ……!」
光は消え、空を落ちる少女の姿がそこにはあった。しかもそれは白百合さんだった。
「白百合さん……」
流石にその状態の彼女に攻撃は出来ない。僕は彼女に追いつくと、変形して両腕で彼女を受け止めてゆっくい降下を始める。
「……うううっ」
「……」
モニターから見える彼女は当然ながらひどく苦しそうな表情と仕草だった。それもその筈、彼女は全身傷だらけだった。出血も多い。何より、さっきPAMTの左腕を破壊したからか、彼女の左腕も肘よりやや上の辺りからなくなっていた。
・着陸した場所は自然公園だった。昔ここに来たような気がするけれど今はそんな事はどうでもいい。
「白百合さん!」
百連から元の姿に戻った僕は芝生の上に横たえた白百合さんに駆け寄る。実際にこの目で見て初めてわかったけど左腕だけでなく左足もあちこちから骨が見えるほど肉が削られていた。さっきのミサイルが直撃した部分だ。
「どうして……僕を狙ったの……? セントラルだから……?」
「……」
白百合さんは答えない。激痛も理由だろうけど苦悶の表情のままそっぽを向いたから彼女の意思が主軸だ。
それを無理に直そうとはしない。なら、救急車を呼ぶ? 無理だ。PAMTになって戦った後はしばらくパラフォは使えない。彼女のを使おうにもどこにあるのか分からないし、僕には使えない。
だったらどうするか。
白百合さんのこの傷は僕がやっておいてなんだけど致命傷だ。失った左腕から勢いを殺さぬまま流れ続ける出血から判断するにきっとあと数分の命だろう。
「……だったらごめん。僕にはもう君を看取る事しか出来ないよ」
「……それでいいわ……」
初めてだ。彼女と会話が成立したのは。
しかし、僕もそうだけど、彼女もこんな状況とは思えないくらい冷静だった。僕の場合は絶対今晩眠れないか、吐いて気絶するか、或いはあの空の更に先に呼ばれるかするだろうけど。
「何か言い残すことはある?」
「……あなたで良かった……」
「え?」
「私の最期に見る景色があなたで良かった……たとえあなたがなにも覚えてなかったとしても」
彼女は何を言っているんだろうか。何も覚えていない? 僕は何かを忘れている?
そう言えば、こうして黒い長い髪の女の子と、全身を激しく濡らした少女とどこかで会って話をしたような気がする。しかもそれはこの、アスレチックがあった自然公園だったような気がする。
たまに夢で見るあの景色。僕はずっと眞姫だと思っていた。でも、もしかしたら……。
「白百合さんまさか……」
その時だった。
「紫歩乃歌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
人のものとは思えない、飛んでもない質量の声が聞こえた。その直後に僕の前に赤い翼を持ったPAMTが飛来した。
「PAMT……!?」
しまった……!! 白百合さんだけじゃなかったんだ!!
「よくも……よくもぉぉぉぉぉぉ!!!」
「……え……み、やめなさい……」
「お、お姉さま……!! でも、お姉さまが……!!」
「いいから……。まだ間に合う……から……早く……」
「……分かりました」
「あ」
僕は殴られた。百連で空を飛んで、バレルロールしてる時みたいに激しく視界が回転して気付いたら受身も取れないまま僕は芝生の上に倒れた。
「紫歩乃歌。次に会ったら本当に殺す。お前の全てを壊してから……!!」
その言葉を残して赤い翼のPAMTは白百合さんを抱き抱えると、ものすごい速さで離陸して飛び去っていった。
・それから、僕は花京院くんに無事発見されてお姫様抱っこ……ではなくまるで米俵のように運ばれて学校の保健室にやってきた。どうしてこんな格好で運ばれたのかというと、
「いやあ、お姫様抱っことかハズいし、それよりオヤジの手伝いで俵運ぶの慣れてるからさ。それに、この運び方だとお前の話を聞いて振り向くフリしてスカートの中見えるしな」
何とも衝撃的な答えをもらった。とりあえずベッドに下ろされると同時に鳩尾に蹴りを入れておいた。
「歩乃歌、あんた大丈夫?」
「眞姫、起きたんだ」
「さっきね。出撃しようと思ったけど花京院からUMXは倒してあんたをここに運ぶ途中だって連絡受けたからね」
「紫、あのPAMTはどうなったんだ?」
「……倒したよ」
ちょっと視線を逸らす。そこで初めて気付いたけど右手から結構血が出ていた。さっき殴られて地面に転がった時のケガかも知れない。認識してから初めて激痛が襲う。でも、彼女に比べたら全然問題ないはずだ。
「あのPAMTは何なんだ? PAMTってUMX倒すためにあるんだろ? どうして俺達を襲うんだ? まさか先を越された腹いせか?」
「そんなんじゃないよ。まあ結局何も聞けなかったけどね」
と言うと、僕の右手に包帯を巻いてくれていた眞姫が顔を上げた。
「……歩乃歌あんた、パイロットが誰か見たわけ?」
「白百合さんだったよ」
「……白百合蛍が……」
「白百合さんの家はセントラルと密接に繋がってるんだって。だからPAMTを持っていたとしても不思議じゃないよ。それに今朝会ったあの下級生ちゃんも後から赤いPAMTに乗ってやってきた」
「それで二人は?」
「僕が白百合さんを倒すと、怪我した彼女を抱えて下級生ちゃんは帰っていったよ。白百合さんはひどい怪我だったけど……セントラルの技術だったら多分大丈夫だと思う」
「そう……なんだ」
「ところで筧先生は?」
「授業だって。2時間目が終わったら戻ってくるんじゃない?」
「けどよ、街が大変なことになったんだぜ? 授業どころじゃないと思うぞ?」
「……多分大丈夫だと思う。きっと僕達が帰る頃には戻っているよ」
「……歩乃歌、どうしてそう言い切れるの? 1号の時もそうだったけどあんた何を知ってるの?」
「……聞けば眞姫達もセントラルに狙われると思うよ? まあでも、もう狙い始めているから問題ないかもしれないけど」
ダメだな、痛みを知るとすぐ弱気になる。こんな僕でも一応女の子だから仕方ないけど。
「……教えてよ歩乃歌」
「……分かった。なら言うけど、この世界は多分作られた世界なんだと思う」
「作られた世界?」
「そう。ゲームみたいにね。言ってみれば仮想空間なんだよここは。全てプログラムで構成されている。だから街が破壊されても学校でUMXが現れても戦闘が終われば何事もなかったかのようにリセットされる」
「待ってよ……じゃあ私達は……」
「同じだよ。……架空の存在。作られた存在なんだ」
「街だけが偽物じゃなくて私達も……!?」
「そうだよ。じゃなかったらPAMTになるあの瞬間がおかしい。僕達はこの体を一度分解され、設定されたPAMTと言う体を与えられてそれで自由に戦えているんだ。だからパイロットって表現はおかしい。だって僕達はそのままPAMTになっているんだから」
「……」
「じゃあ俺達はUMXとの戦いで負けたら死ぬって事か……!?」
「イコールではないと思う。僕が白百合さんを撃墜した時、明らかにPAMTのダメージと釣り合いがなかった。PAMTのダメージをそのまま引き継いでいたら即死していたはずだから。でも、僕はPAMTの左腕を破壊したら白百合さんの左腕もなくなっていた。だから元の体にはある程度のダメージは軽減されるだろうけど、一定以上のダメージを受けると連動するようになるんだと思う」
「……」
「……」
沈黙。当然だよね。僕だってこの事実に気付いた時にはどうかなっちゃいそうだったもの。
「で、でも、どこから……? 人類の歴史の全部が作られた世界だとでも言うの……?」
「違うよ。眞姫、おかしいと思ったことはない? どうしてUMXなんて怪物が出ているのに相手をしているのがセントラルなの? セントラルは戦闘中立派であって、琉球帝国とかアメリカとかインドとかみたいな正規軍がどうして動かないの? あれだけの戦争があって、もはや国として生き延びている場所がほとんどなかったのにどこからセントラルが現れたと思う? ……だからきっとこれは列強宣言から分岐しているんだ。現実世界でもセントラルは存在していると思うよ。でも、実際に列強宣言の5カ国を止められるだけの力はきっとない。……僕達がいるこの世界はね、セントラルがどういう目的かは知らないけど5カ国に見せるために作ったシミュレーションワールドなんだと思うんだ。あのまま戦争を続けるよりもこういう世界を用意したほうがいいんじゃないかって言うね」
「……」
「どうしてそんなことをする? 所詮ゲームだろう? 戦争真っ只中或いは直前って状況の国家集めてゲームをプレイさせて満足させたらそのゲーム通りの世界にしようとでも? そんなお気楽が通る状況なのか?」
「だと思うよ」
「え?」
「……何らかの事情があって、そんなお気楽が通る状況なんだと思うよ。例えば、そのまま戦争を続けたら物資とかの問題で、たとえ勝利を収めても世界が滅びてしまうとか。英気はあっても滅びへの道を踏み出すことが出来なくなった国のトップ達が逃げ道として用意したとか。僕達が知る列強宣言よりも実は現実のはもっとひどい状況なのかもしれない。……僕でもまだ全ての答えを導き出したわけじゃないし、もしかしたら全部間違っているかもしれない。でも、覚えておいて。街とかのやり直しは出来ても、きっと生きた人間を元に戻すことは出来ないって。たとえ死んでも全く新しい存在にリセットされるか、本当に存在していた形跡ごと消えてなくなるかのどっちかだと思う。だから、死んだら終わりだ よ。そして今僕達はセントラルに狙われている。この世界のセントラルがどんな目的で行動しているのか分からないけどね」
「……そんな……」
「……」
「……ふう、」
息を吐く。同時に右腕の鈍い痛みが襲って来る。以前までは事情を話せば少しは楽になると思ってた。でも、違った。怪我のせいか僕は全然ポジティブになれなかった。その内こうなることは覚悟していたつもりだったんだけど、事情を話しても全然気持ちが楽にならない。むしろ、もっと苦しくなったかもしれない。
・夜……だと思う。意識の果て。
僕はいつしかエレベーターに乗っていた。目指すはきっと最果て。
「やあ、よく来たね。ここに2度来るのは君が初めてだよ」
気付けば、最果ての扉の先に彼女がいた。最果ての扉の先で待つ者。
「君の目的は知っているよ。以前僕が言った言葉が聞きたいのでしょう?」
「そう。以前君は最果ての扉の先には別の世界が待ってるって言った。つまり、この扉の先には現実世界が待ってるってこと?」
「現実世界? なにそれ」
「へ?」
返って来たのは疑問の言葉だった。
「何って……だって僕が居るこの世界は偽物の、作られた世界なんでしょ!?」
「でも決して偽りの世界なんかじゃない。偽りというのはいつか終わってしまうモノの事だ。君のいる世界は永遠に続いていくよ。たとえ、セントラルとやらが実験を終わりにしてもね」
「……そ、そうなの……?」
「君のいる世界は実験のために作られた世界なんかじゃない。元々あった別の世界を実験のために使われているに過ぎないよ。それに、僕がいる限りすべての世界は本物だ。だってこの扉をくぐれば他のあらゆる世界に繋がっていけるんだから。尤も逆パターンって言うのも前にいたけどね」
「逆パターン……?」
「破砕と飛翔のGEAR。そのGEARが果たされることのない世界で彼女はこの世界に堕ちた。もはや以前のままの役割は果たせないだろうし覚えてもいない。だからその力が使われる事は本来ないはずだけれど、何故かまた芽生えつつある。……面白い世界だねここは」
「……」
何となく分かる。あの下級生ちゃん、火核咲の話だ。
「本来GEARが存在しない世界でありながらこの世界には僅かばかりだけれどもGEARが芽生えつつある。君もあの子も、そしてあの子も。……ふふ、僕が数回やって来る世界はそうそうないんだよ?」
「……僕にもその役割って言うのがあるって言うの?」
「なかったら僕の前には来れていないよ君は。君は一度GEARを使ってこの扉の先へ行く事を拒んだ。それでも僕は試し続ける。導きはしないけどね。消極的ながらも君を誑かしてそれで君がこの扉の先に行ってくれれば面白いし、その資格を持つに相応しい姿を得て尚もここに居続けるのも悪くはない。来るもの拒まずだよ」
「……相応しい姿……」
「迷いは自分を殺す。……精々迷ってくれないでよね。僕が面白くないからさ」
そして、白い世界は暗い朝に消えていった。




