第4話 大好きな兄を探して三千里!
《 汝に我が魔王の力を与えよう 》
《 邪な心を持つ汝なら使いこなせよう 》
白く霞んだ中にうっすらと人の姿が見えた。
わかる事はこの声の人物が自称《魔王》さまだという事。
そして、私を馬鹿にして爆笑している事が何よりも許せない!
黒いシルエットで霞んでいたとしても私はわかる!何故かって?お腹を押さえて爆笑してれば、誰だってわかるでしょ!
だけど文句を言おうにも、どうしてか声は出ないし、体も動かない。
私のこの感情をどうしろっていうの?
選択肢はないの!?
ラ○フカードは!?
選択肢を探している中で、だんだんと自称《魔王》さまの姿が薄れていく。
もうアミダくじでも何でもいいから、あの人を殴りたいの!!
お願い!殴らせて!!
最後の願いも空しく、自称《魔王》さまは消えっていった。
次に会ったら、絶対にぶん殴る!《魔王》さまがなんだっていうの?貴方が謝っても私、殴るのやめない!!絶対に!!
◇ ◇ ◇
「知らない天井だ……」
今ならわかる気がする。父親に呼ばれて人造兵器のパイロットをやれと言われた少年の気持ちが。
「もう一回寝ようかな……」
現実逃避なんかじゃ決してありませんよ。このベットがすごくフカフカで気持ちいだけなんです!
「おやすみなさい」
◇ ◇ ◇
まぁ、私はそれで寝れるほどに神経は太くない訳でして。今現在は、この広い建物を探検もとい、徘徊中です。
「迷子になったかも……」
実は悲しい事に迷子です。現在進行中です。
同じ所をぐるぐると徘徊しているしだいであります。
「最初の部屋にも帰れないし、変な人には拘束されそうになるし……」
徘徊している間に物騒な人達に何回か遭遇したけど、ちょうどいいストレスの発散に役にたってもらてます。
か弱い女子に向かって「不審者発見!」とかさぁ、喧嘩売ってるよね。取り敢えずお仲間呼ばれたら面倒だから、見つかり次第に丁寧に退場してもらってます。
兄さんは何処にいるのかな?最初の部屋の隅に兄さんの荷物が在ったからこの建物の何処かに居るはずなんだけど。
「侵入者発見!こっちだ!!」
「次から次へとまったくもう!!」
相手の男が腰に下げた剣を抜く前に一気に近づき、勢いが乗った掌底で相手のお腹を突く。前のめりになる男の横で止まり、両手を握って男の首元へと思いっきり振り抜き、男は床に倒れて動かなくなる。
「先ずは一人!次!!」
男が動かなくなるのを確認して、もう一人の男に仕掛ける。相手はまだ今起こった事に対応できていないようで、鞘に納めた剣の柄を掴んで止まっている。
本当はこの隙に逃げたいところだけど、周りも騒がしくなってきたみたいなので、数的にこれ以上不利な状況には成りたくないので、この男にもすぐ様に退場してもらわなければいけない。
未だに動かない男の懐に潜り込み、顎に向けてアッパーカットの様に下から上へ掌底を放つが、男が腰を抜けたかの様に後ろに下がったので、鼻をかすめるだけで終わった。
「ば、ばけもの……」
「なっ!?」
化け物とは何よ!こんなに可愛くてプリティな少女に向かって化け物とは!!よし潰そう。目から始まりすべての玉を。ぶら下げている物を含めて、完全に潰そう。
「!?」
男に踏み込む時に、嫌な感じがしたので咄嗟に後ろに跳び、男から距離を取った。
「あれを避けるのですか」
私が踏み込もうとした場所には三本のナイフが突き刺さっていた。
「ちょっと危ないじゃない!?」
「危険人物には当然だと思いますが?」
左の通路からナイフを投げた人物が姿を現す。
周りに漂う雰囲気でわかる。この人は強いと。
均整のとれた顔。歩く度に風になびく美しいサラサラな金髪。バランスのとれた体型。出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。完全なる勝ち組の女性。
幼児体型の私にとっては望む目標であり、強敵だ。
「これはどうですか?」
女性が左手を前に出し何かを呟く。私は横に跳んだが、完全には避けきれておらず、数本の髪の毛が中を舞っていた。
髪は女の命なのに、この女は私の髪を……。お兄ちゃんに褒めて貰った大切な髪をよくも。
「これでも当たりませんか」
「今なにやったの?」
女性は余裕な表情を崩さずに、私が倒し損ねた男の近くに立つと「邪魔ですから、コレを運んでくれませんか」と気絶している男を、その男に投げ渡した。
自分より大きい男を片手で投げ渡すとか有り得ないでしょうよ。どんだけ怪力なのよこの女は。
ゴリラなの!?メスゴリラなの!?実はオネェ系のおじさんだったりして。だとしてもそれに負けてる私ってどうなのさ。
あっ、ヤバい。テンションが下がってきた。
「貴方、片手で男を投げるとか本当に女性ですか?」
できれば「違う」と否定ほしい。だけど「そうですが」と肯定してほしい自分がいるのは気にしちゃいけない。気持ち的に3対7ぐらいで肯定してほしいかな。
「見てわかりませんか?」
「一様確認で聞いてみただけです」
そして、身に着けていた防具を手甲以外を外し始めて、後ろの男に投げ渡す。
「折角の防具を外して良いんですか?」
「貴方には身に着けていても無駄だとわかっていますからね。なら出来るだけ動きやすくする為に、外すのは普通ですよ」
女性は鎧の上から腹部を押さえている男を見ながら答え、私を正面に捉えて構える。
やっぱりこの人は強い。ってか、胸当てを外したら余計に目立つ二つの大きな物が余計に大きくなった気がするんですが……。
鎧を脱ぐと戦闘力アップとか何処の戦闘民族ですか?
そうなんですかこのやろう。
あっ、この人は野郎じゃなく、女性でした。
「今、失礼な事考えませんでした?」
「ごめんなさい」
冗談はこの位にしておいて、本格的にどうしよう。私の打撃が防具越しに届く事がばれてる。今までの相手は素手だとわかると少しは油断してくれたけど、もうそれは無い。
女性は「それに貴方には飛び道具も無駄でしたね」と言い、腰や服の中に隠していた投げナイフを捨て始めた。
「って、一体何本のナイフを隠していたんですか!?」
「乙女の秘密です」
「……」
その場の空気が死んだ。どうしようもない空気なんですがどうしてくれるんですか!?
「さて、始めましょうか」
「何事も無かったように振る舞わないで下さい!!」
女性もわかっていたようで、「すみませんでした」と一礼して再度、構えた。