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11 誕生【上】

 途方もない昔の話。ある所に、それはそれは美しい女性がいた。

 彼女の母親は天の使者だった。神の命か、もしくは気まぐれで彼女を産み落とした。


 彼女は聖人として「その世界」を悪から守り、英雄となる。

 そして彼女もまた子を作り、子の一人は彼女の力を引き継いだ。



 ……ただ、その子供が生まれた時代に、誰も「聖人」なんて求めていなかった。





 美しい、翡翠色の目が此方を睨んでいる。見窄らしい女を庇い、見窄らしい姿を晒している。そんな翡翠へ、私は穏やかに笑ってやった。


『おや、随分と貧相な体になったもんだね?昔はいい体だったのに』

『……お前こそ、随分と幼い体だ。若返ったのか?』

『違うよ。悪魔になった事で、素とは別の体を持つ事が出来たんだ。……まぁ、元人間だからか、幼い頃の姿と同じなのは面白くないね』


 己の体を見ながら苦笑すれば、聖人は剣の切っ先を此方へ向けた。持ち主が堕ちてしまった聖剣は、刃こぼれが激しく朽ちている。それなのに此方へ向けられれば、当たれば必ず切れると確信が持てるのだから……厄介なものだ、神が使者へ与えた唯一の刃とは。


 出来れば、サリエルには残ってほしかった。あの坊やがいればかなり有利な相手なのだが、流石に子を殺させるのは酷だろう。私とて多少は慈悲がある。


 隣のエウリュアレーへ目線を向ける。見ないうちに随分と逞しくなったらしい。私へ力強く頷いてみせた。……嗚呼、本当にいい子だ。私と一緒に戦おうとしてくれる。



 ならば、私はこの子を守らなくては。

 もう、帰ってこない妹ではなくて。



 悪魔の言葉を呟けば、ゆっくりと己の肌が溶けていく。爪は歪に伸びていき、見える世界は高くなっていく。

 姿が戻るその光景に、聖人は剣を強く握りしめ、私へ鋭い目線を向けてきた。……随分と腹立たしい目線だ。お前のその刃によって、私達はこうなってしまったのに。


 聖人の後ろで守られていた、見窄らしい人間が私を見た。人間は驚き、口を手で塞ぎ、吐き出す様に私へ告げた。



「なんて醜いの……」




 嗚呼、そうかい。

 何度も聞いたその言葉は、もう痛くも何ともないんだよ。


 だって、もう私には……こんな私を受け入れてくれる、愛おしいご主人様と仲間がいるんだ。







◆◆◆






「あーー!!いたーー!!!」

「ご主人様あああああああ!!!」



 サリエルに抱かれながら通路を進み、奴の足蹴りで扉を壊し甲板に出る。するとすぐに近くから見知った声が聞こえた。声の元へ顔を向ければ、ケリスと、ケリスに横抱きされたアダリムがいる。何そのペア。

 

 ケリス達は猛突進で私達の元へくれば、どちらも安堵の表情を向ける。……が、すぐに其れは豹変した。


「ご主人様!嗚呼よかった、ご無事だったんです……なんですかそのお召し物は、私そんなドレス知りませんが!?脱いでください!!」

「お嬢ちゃーーん!!聞いて!ねぇ聞いて!?俺さぁそこの執事に拉致されたんだけど!!神父なのに地獄に行かされてさぁ!地獄って本当にあるんだね!?何だよあそこ怖いね!?血の匂いしかしないし!門に脳みそぶちまけた人間刺さってたんだけど、あれ嬢ちゃんの趣味!?頭大丈夫!?」


 うん、とっても煩い。どうやら私を見つけれたのも、アダリムを強制協力させたかららしい。けたたましい声を無視して、私を抱くサリエルへ目線を向ける。蔑んだ表情で、盛大にため息を吐かれた。


「地獄に捕らえていたご主人様が、突然居なくなったんです。使える豚なら何でも使いますよ」

「使える豚って俺の事かな!?お嬢ちゃんこいつ殴っていい!?」


 相当な境遇を受けたのか、神父様がご乱心している。っていうか、門に人間刺さってる……そんな感じなの、現実の地獄って。あの辺り散歩コースなんだけど。


 ……と考えた所で、私はある事に気づいた。


「あれ?何でお前達、神父様に近づけるの?」


 そう、アダリム神父は神の子で、強力な破魔と浄化の力を持っていた筈だ。レヴィスは近づくだけで具合が悪くなっていたし。ダリとベルフェゴールなんて、触れられただけで泡吹いて倒れた。……だが、今現在アダリムはケリスに横抱きされている。サリエルも触れる所まで近づいても涼しい表情だ。


 私の問いに、今度はサリエルが此方を向いた。


「おそらく、ご主人様の「神の癒しの力」によって、僕達に耐性が付いたのかと」

「は、どうやって?」

「毎晩ご主人様とセ」

「よく分かった有難う」


 確かに、毎晩お前達の誰かしらと盛大にちちくりあってたな。私の体液が癒しの力、神の体液と同じものであるならば。一過性ではありそうだがアダリムの破魔と浄化の力も効かなくなるわけか。うーん、神父様。セだけでよく分かったな。流石私の弟……頼むから引き攣った表情で見ないでくれよ。

 気を取り直して、私はケリス達を見る。


「ねぇ、レヴィス何処にいるの?沈没させるって聞いたけど」

「レヴィスですか?……甲板の何処かにいる気配は分かりますが……」

「そっか。確かにここ甲板だけでも相当広いもんね。でも沈没させるって聞いたから、てっきり竜の姿になってるのかと思った。思いとどまってくれたのかな?頭なでたろ」

「いえ、つい先程までそうでした」

「ぶん殴ったろ」


 しかし、私がまだ見つからない中で、あのレヴィスが竜から人型に戻ったと……何か心境、もしくは何かがあって戻ったのか?……なんだろう、嫌な予感がする。私は自分を抱えるサリエルへ、気配を詳しく辿る様命令しようとした。



 だが、その言葉を告げる前に、甲板奥より叫び声が聞こえた。


 それはよく知った人物、ダリのものだ。



 ……予感が的中した。おそらくレヴィスはエドガー達の元にいる。あの嫉妬狂いの悪魔が、私が乗った船にエドガーがいると分かれば、誰が私を攫ったのか理解するだろう。


 非常にまずい、サリエルへ直ぐに声の方へ向かう様に目線を向けた。奴は既に此方へ目線を向けていたが、その表情は険しい。


「こうなったのは、全部ご主人様を攫った向こうの責任です。それに、今ご主人様が向かっても、火に油を注ぐだけになるのでは?」

「逃げなかった私が悪い。火に油だろうが、全部私に降り掛かればいいだけでしょ」

「………しかし」

「命令に反くの?お前、私のもの(悪魔)でしょ?」



 そう言ってやれば、奴は目を見開き固まる。


 暫くすれば、尻尾を何度も勢いよく床に叩きつけた。その荒々しい姿を初めて見た神父様は、ケリスに抱きつきながら「ピェッ」と奇声を出している。ケリスさんは色々な意味で死んだ目をしている。


 サリエルはばしんばしん尻尾を叩きつけながら、眉間に盛大に皺を寄せていた。表情も不満そうなものに変わっている。……どうやら、人前なので頑張って不機嫌な姿を見せているらしい。耳は真っ赤なので、意味がないのだが。


 随分とチョロい悪魔だ。「私の悪魔(サリエル)」ってだけで、こうも喜んでくれるとは。




あと4話くらいで終わらせたいです……番外編、物凄く長くなっちゃった……すいません本当に……(泣)


人前なのでサリエルは頑張って不機嫌になってますが、イヴリンと二人っきりの場合「はい、僕はご主人様のものです♡ご主人様も僕のものです♡」と蛇肌晒して甘えまくります。そしてイヴリンは引きます。

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