097 その錬金術師と薬毒~凍結薬編~
001話を002話に統合して、000話を001話へと移行。
これによる物語への変更点等はありません。
空気中に含まれるものの中に、窒素と呼ばれるガスがあるのをご存知だろうか。
この窒素は液体になると冷却剤として使える他に、生物へとかけると容易に凍傷を引き起こす非常に危険な代物と化す。
その危険性故に、いざという時の攻撃手段として備えておくと、非常に心強い品だと言えるだろう。
さて、そんな窒素なんだが、これに更に手を加えたものの中に、凍結薬と呼ばれる対スライム用の使い捨ての道具がある。
効果はその名の通りに氷魔術にある【凍結】と同じ効果を齎す品だ。触れたところから内部にまで浸透して対象を凍り付かせる為、非常に強力な液体窒素といった感じになる。
勿論、その取り扱いには注意が必要となる。何せ、容器が破損しただけで危険に晒される事になるからな。荷物の中に入れてて割れちゃいました―っみたいな事になると、荷物が凍り付いた挙げ句、持ち主まで凍って死ぬ可能性がある。
故に、
「容器は鋼一択かな。その回りに布を巻いて、保護しておいた方がいいだろ。」
何時もの硝子瓶ではなく、用意するのは鋼で出来た入れ物だ。形状はほぼ、缶に近い。
魔法薬の大半は硝子瓶で保存されるが、硝子には常温では液体に溶け込まないという性質がある為に、変質等を防ぐ効果がある。
これが金属の容器だと、微量ではあるが液体に溶け出すという欠点があるからな。このせいで、折角作った魔法薬の効果が薄れたり、変質してしまう為に、それを防ぐのに硝子を用いるのが一般的だった。
しかし、
「硝子は割れるからなぁ。」
この欠点がある為に、危険物の持ち運びとしては向いていない。
それ故に、例外としてだが金属製の容器を使う事もあるのだ。今回がまさにそのケースで、何らかの理由で割れたりして所持者が傷付くよりは、危険物は金属製の容器に入れてしまうのが良いだろう。
ただし、
「鋼は金がかかるのが難点なんだよな……。」
容器を量産しようと思えば、材料の入手手段が無い為に不足するのがネックである。
こればかりは根本的な解決手段が無い。どこかで適度に回収出来るように、リサイクル出来るよう何らかの措置がいるだろう。
容器ごと使い捨てにしてしまうのはコストがかかりすぎるし、色々と諸注意も含めて広めていった方がよさそうだ。
「使った後の容器を持ち込んだら、次回から割り引くとかでいいかな?」
容器のコストが高くついてしまうのを解消するには、使い捨ての道具でも容器だけは回収しておくようにさせるのが良い。高すぎると手軽に利用が出来ないので、中々手が出せないだろうしな。
ただでさえ、今の時代には魔法使いの数が激減しているのだ。その上、スライムに対しては対処法が無い戦士系が冒険者にも兵士にも多い。次に多い弓使いですら、スライム相手には手も足も出ないし、対処出来る者の数が極端にまで少ない傾向にあった。
このせいか、どうやらスライムがあちこちでは大量繁殖しているらしい。森の中に仕掛けた罠には、落とし穴に落ちたスライムが稀に引っかかってもいた。川の上流から流れて来る事もあったし、おそらくはどこかに発生源があるのだろう、きっと。
「元々、繁殖力の強いスライムやゴブリンどもは、どれだけ狩っても減らなかったしな。それを考えると、しょうがないといえばしょうがないんだろうが――。」
これが、この時代になってしまうと、最早顕著になってしまっている。余り良い傾向では無いだろう、きっと。
強い魔物はある程度間引かれている反面、弱くて利用価値の少ない魔物だと増殖の傾向にあるって事なのだ。
このせいで、王都からの帰り道では、討伐されていない森とか草原にウジャウジャとしていた為、潰しながらの帰宅になった。
「うん、ゴブリンはともかくとして、スライムだけは放置するのは無いな。無いったら無い。あれは進化が早すぎるから、危険度もそれに伴って急上昇するし、倒せる内に倒してしまうのがいいだろ。」
そんな対スライムの道具として、量産する事にした凍結薬。
作るのはともかくとして、やはり容器の量産と材料の不足がネックだ。こまめに回収が出来るように、冒険者組合とはその内交渉をした方が良いだろう。
「中身は対して金もかからないし――スライムがよく手に入るから、材料としてはそこまでも問題は無いかな。」
何せ、風魔術で大気中から窒素を引っこ抜き、そこに加工したスライムの油脂を混ぜ込むだけなので、魔術も併用している分、余り元手がかかっていない。
作るのが危険だったり苦手な風属性を操ってるのが大変だが、まぁ、そこはそれだ。
錬金術っていうのは元々危険な職だし、基礎元素とか四大元素と呼ばれる火、水、風、土は使えて当たり前なところがあるしな。苦手だろうと使えない事は無い。
特に危険性に関しては、火薬を扱うのと似たようなものだと思えば何時もの事だ。つまりは平常運転なので、魔物との戦闘よりは遥かにマシである。
「うん、量産しようそうしてしまおう――そうして、先輩方に売りつけるんだ。」
何もスライムの対処は俺だけがやるわけじゃない。冒険者という職業なら、それこそ良く遭遇しているだろう。
そんな彼等に向けて作った体力回復薬もそうだが、凍結薬だって今なら絶対売れるし儲かるはずだった。
最初は使い勝手を試してもらう為に、一本無料で贈呈しておこう。後から追加購入分をしっかり金を取ってしまえば良い。中身の補充だけなら、中身の代金だけで済ませて安くすればリサイクルも可能になるはずだしな。まぁ、全部多分だが。
「魔法使いがいないパーティーがザラみたいだったし、量産してストックしておけば、何かと使える――よな?」
凍結薬は敵の足止めにもなるし、いざって時にも使えると思う。
きっと、生存率上昇にも繋がって、期待通りくらいの効果ならだろう。
「ついでに、生まれたてっぽいスライムは麻袋にでも入れて、回収してもらうのがいいかな。こっちは、その内常時依頼としても出しておくか。」
全部が『その内』だが、今の季節は冬。冒険者達は冬場は余り動かないので、組合を覗きに行っても対して意味は無いだろう。
それに、どのくらいの量が売れるかも分からないし、ペンギン妖精のリルクルだってやって来る。辿り着くだけで午前中が潰れる貿易都市までは、行って帰ってくるだけの時間が足りない為に後回しだ。
「まぁ、しょうがない。行くなら魔力回復薬を作れるようになってからがいいしな。」
予定を積み上げておいて、凍結薬の増産作業を開始する。
魔力回復薬の方は、リルクルのおかげがあってかコツを掴みつつある。多分、このまま順調にいけば、その内作る事が出来るようになるだろう、きっと。
「リルクルが製法を知ってたのは、ラッキーだったな。」
どこで知ったのかは知らないが、王宮錬金術師でもなければ知る事が叶わなかった、ある意味夢のレシピが魔力回復薬である。
それの習得までのアドバイスを得られている環境に、乱獲されててまともに入手出来なかったはずのスライムが、今は繁殖しているおかげで手に入る状況。
雪が降り出したこの日の森での作業は、何ら問題なく済まされていった。
ファンタジーに良くある状態異常の一種を引き起こす薬が出てきてます。イメージは液体窒素の強化版ですね。
液体窒素は触れた部分を凍らせますが、作中の凍結薬では液体の浸透率を高めて、内部までもが凍り付く設定です。故に、超が付く程に危険。
2018/11/11 加筆修正を加えました。
2018/12/07 誤字修正。凍結役→凍結薬。打ち込んでると凍結役が変換で良く出て来て切ない。




