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095 その錬金術師と薬毒~魔力回復薬編~

 ペンギン(の着ぐるみを着た、見た目幼児の)妖精配達員、再び。


 水魔法に多少の魔力が含まれているのは以前伝えたと思う。

 ただ、その魔力というのは経口摂取しても吸収される事は無く、そのまま体外へと排出されるだけで、魔力そのものは取り込めない。


 水魔法の原理とは、魔力で水を創造、あるいは水流を操作するというものだから、これはある意味当然なのだろう。

 生み出された水は空気中の水分も多く含まれているが、補った分に関しては魔力の塊みたいなものである。この分を魔素に解いてしまうと、水としての体をなせなくなるのだ。

 しかし、だからといって水の状態をキープしていたら、今度は魔素に戻らないので吸収が出来なくなる。


 つまりは、術者の魔力は吸収出来ないもの、というのがある意味常識だったわけだ。


 ここに手を加えたのが、過去の錬金術師達。

 色々と試行錯誤を加えた後、この考えを根底から覆す偉業を行ってみせた。

 それによって生み出されたのが、魔力回復薬マジック・ポーションというものだ。

 これは飲めばたちどころに魔力を回復するという魔法薬ポーションで、常備しておくといざという時に心強い。主に、魔法使いにとっては必需品だとさえ言えるものだろう。


 何せ、魔力切れによる枯渇症状と呼ばれる気絶やフラつき、頭痛等を改善してくれるからな。重要度は高い。

 魔力の使いすぎからくる枯渇症状っていうのは、大抵体内の魔素が欠乏して酸欠みたいな状態になってるのが原因だ。これは、魔素そのものを吸収出来れば、すぐにでも回復出来る。

 ただし、


「――おう、また失敗した。」


 それを作ろうとしても、非常に難しいのが難点だった。

 そうして、さっきから失敗する事十数回目。

 一向に成功する兆しも見えず、俺はフラスコの中に入れていた水を流しに捨てていた。


「駄目だなぁ。水は作れても、魔素を練り込めない。」


 魔力回復薬は、別に特殊な素材は必要としない。

 必要となるのは、術者の魔力と大気中の魔素、そして清水だけだ。

 魔素は水でも何でも宿る性質を持つが、特に水に溶け込みやすいという特徴を持つ、らしい。

 ここに目を付けた過去の錬金術師に習って、魔力回復薬を作ろうとしたんだが――その結果は散々だった。


「一体何でだ?何が足りないんだ、これ?一応、水魔法には自信があったんだけどなぁ。」


 腕が落ちたのか、それともそのくらい作るのが難しいのか。

 理論は分かっていても、詳しいレシピを知らないのでどっちなのかすら分からない。


「うーん。また失敗。」


 それでもめげずに、更に作り続ける事数時間。

 最早数えるのも馬鹿らしくなってきたところで、玄関をノックする音と声が聞こえてきた。


「開けて下さいなー、あーけーてー、開けて開けてあーけーてー。お届けなのですよ、開けてー。」

「あ?」


 以前にも聞いた事のある、独特な喋り方というか歌い方。

 それに合わせてリズム良く叩かれる、扉の音。

 既視感を覚えながら開くと、下げた視線の先にはいつぞやのペンギン妖精(?)が居た。


「お届けでーす。サインをお願いしまーす。」

「おう。」


 差し出されたのは、一枚の羊皮紙と小さな包みだった。

 それを受け取りながら、続いて口を開く。


「前も来た奴か?」

「あい!」


 サインしつつもそう返せば、元気よく――しかし、機嫌悪く返されてしまった。

 どうやら、結構根に持つタイプらしい。頬をパンパンに膨らませて「ブーブー」とまで言っている。


「お兄さんの顔は覚えてるよっ。子供って間違えた上に、性別まで間違えたもんね!?」

「あ、あー、その節はすまんかった……。」


 見た目といい言動といい子供っぽいんだが、それを口にすると傷付くようだ。

 顔も中性的というか、この年頃は(見た目だけは、だが)区別が付きにくい顔立ちだから、どうにも判別がし辛い。

 せめて、着ぐるみじゃなく普通の格好にしておけと言いたいところなんだが、それはそれで言われると傷つきそうなので、グッと堪えた。


「ほい、出来たぞ。」

「はーい――また古代文字。お兄さん好きだねぇ。」

「こっちが書き慣れてるからなぁ。」


 現代の人々が自身の名を記す場合、片仮名カタカナで表記する事が多いらしい。

 だが、俺は古代文字にされてしまっている漢字の方が慣れているので、サインの場合はこちらを使っている。

 とはいえ、それが引っかかるのか、小包を受け取った後もペンギン妖精(?)は立ち去る様子が無かった。

 それに「どうした?」なんて首を傾げれば、


瑠羽久ルウクなんて、珍しい名前ー。」


 俺がサインした紙を手にして、その場でクルクルと回り始め、何が楽しいのかウフウフ言っている。

 暇なのか、それとも後の仕事に影響があっても構わないくらいには気になるのか、さっきまでの不機嫌が嘘のようにご機嫌だ。

 もっとも、


「そうか?俺が生まれ育ったところでは、割りと良くある名前だったんだがなぁ。」


 そのくらいには、俺の名前は珍しくもなんともないので、こちらとしては不思議だった。

 漢字の当て字はともかくとしても、名前そのものは良くあるもののはずだ。これは、名付けられた当時ですらそうだったし、今でだって普通のものだろう、きっと。


「お兄さんって、出身どこなの?」

「出身?西だな。」

「西?」


 速攻で返すと、これだけでは分からなかったのか、怪訝そうな表情を浮かべられてしまい、俺は脳内で地図を思い起こす。

 確か、今いる王国は大体北東に当たる土地を治めている国だ。ここより上の島は魔物の楽園らしくて、人の行き来は全く無いらしい。

 地続きでは島より手前の北に正妃の小国があり、南には黒髪の者達が多い国がある。そこから西に行くと、二つ程、隣接した国があったはずだ。そこから更にもっと西に行くと、最西端の国となる。


 俺が生まれ育った地は、かつては帝国と呼ばれた、この最先端にあるプライドばかりが高い野蛮な国である。

 あれから千年が経ち、今がどうなっているかは知らないが――当時は差別と貧富の差が激しい所で、それに嫌気が差して飛び出したのは、未だに記憶にも鮮明だった。


「――なんか、あんまり良い思い出が無さそうだね?」

「ん?」


 ただ思い出しただけ。

 それでも、故郷というだけでも反吐が出そうで、そんな俺の心情が表面に表れていたのか、クルクルと回るのを止めたペンギン妖精(?)が声を掛けてきた。

 八つ当たりのように怒りを見せても意味は無い。ただ、苛立ってしまうのだけはどうしようもなくて、そっと溜息を吐き出すと、着ぐるみ越しに頭を撫でて誤魔化しておく。


「まぁな。飛び出してきたくらいだし、余り聞かないでくれると助かるよ。」

「ん、了解。」


 伺うような視線で、ジィッと見上げられる。

 若干気不味いので【空間庫】を開くと、中を物色して菓子を取り出した。


「うわー!クッキーだー!」


 これに、味覚まで子供っぽいのか、途端にはしゃいだ歓声が辺りに響いて来る。


「やるよ。」

「良いの!?本当に良いの!?」

「ああ。」


 頷いて返せば、手渡した菓子をいそいそと腰のかばんへ仕舞おうとする。

 見た目も言動も子供っぽいその様子に思わず苦笑いが浮かんだが、これで機嫌が治るならと、ついでに家の中へとて招いた。


「俺の手作りだが、それで良かったら好きなだけ食べてくれていいぞ。」

「本当!?」


 聞こえてくる声を他所に、食卓の上に日持ちのするクッキーや飴を置いていく。

 菓子の類は余り売られていなかったが、材料に関してならそれなりの量が手に入っている。

 砂糖の代わりは蜂蜜や甜菜があるし、バターは植物油で代用してしまえば良い。卵は開拓村の村長さんのところに一時的に預けていた親鶏共々、返してもらった際に結構な数を頂いている。果物に関しても豊富で、しばらくは困る要素が全く無かった。


「本当に良いの!?ねぇ、良いのー!?」

「お、おう。」


 そんな俺が出した菓子に食いつきも良く、頷いて返したた途端に躊躇いもなく口に入れて食べ始める姿を見て、一瞬唖然とする。

 少しは躊躇うものじゃないかと思ったが、そういう種族なのだろうか。

 なんか、勢いよく口に詰め込む姿は、欠食児童でも見ている気分だな。


「お茶は――薬草茶ハーブティーはやめといて、果物茶フルーツティーにしとくかね。」


 菓子類は口にあうようで、どんどんと食べ勧められていっている。喉に詰まらせないか、若干冷や冷やするくらいの詰め込みようだ。

 しかし、その姿からは苦手な物が無さそうだった。概ね、甘い物は好みに合うのだろう、きっと。

 その様子から、どうせ味覚が子供っぽいのならと、飲み物を薬草茶ではなく果物茶に変える。その為にまた【空間庫】を開いて中の果物を物色した。


葡萄ブドウ檸檬レモン林檎リンゴナシに――。」


 多分、苦味のある薬草茶は嫌厭するだろうし、それよりは甘みと果物の香りが楽しめる方が喜ばれると思う。

 なので、この時期に採れる果物が種類も豊富なのもあり、そこから選択する事にした。


「後は花梨カリンか。紅茶に加えるなら、どれが好きだ?」


 他に木通アケビなんかもあったが、これは紅茶に入れようがない。

 マジで入れようがないんだ。種の回りを果肉が覆ってるんだが、この可食域が非常に少ない上、香りを楽しむのにも向かない果物なので、入れる意味そのものが無いっていう。


「ふぐっ。紅茶まであるの!?もしかして、お貴族様!?」

「いや?」


 一瞬、喉に詰まらせたような声が聞こえた気がしたが、そのまま喋り出したので多分大丈夫だろう。

 そんな相手に向けて、果物から木通だけを除いて提示する。この俺の言葉に、興奮した様子を見せられたが、一応否定した上でこうなった経緯を伝えておくことにした。


「俺は平民だよ――紅茶は自作出来るのと、王都に行ってたから帰り道で色々買ってきただけだ。」

「うわーっ、お金持ちの旅かぁ。良いなー。」


 なんかそれはそれで勘違いされてるんだが、確かにある意味金持ちだったかもしれないので、否定するのも止めておいた。

 王と血の繋がりの無い王女の血縁関係の証明に、その母親の不貞暴露。更には公爵一族がやっていた不正やら、一部貴族の横暴を潰したりと、国にはかなり貢献してきたからな。その報酬が王からそれなりに出ている。

 もっとも、その金も全部使い切る勢いで素材や食料等に変わってしまっているが、これはまぁ言わなくても良いだろう。


「んで、入れる果物は何が良いんだ?好きなのを選んでいいぜ。」


 そんな裏話を語る事も無く尋ねてみれば、これに口をもごもごさせながら欠食児童――もとい、ペンギンの着ぐるみを未だ被ったままの妖精が思案げに呟いた。


「えっと、ブドウと、レモンと、リンゴと、ナシと――後なんだっけ?」

「後は花梨カリンだな。蜂蜜ハチミツと一緒にると、檸檬レモン同様にのどにも良いし、風邪かぜの予防にもなる。」

「ハチミツ?わぁ、それがいいー!」


 やはりというか、甘いものに食いついて来た。

 その思ったとおりの返答に笑い出しそうになりながらも、陶器とうき薬缶ヤカンに勢いよく水を入れて、更に口を開いて何にするかを決めていく。


「なら、花梨カリン檸檬レモンで香り付けして、蜂蜜ハチミツで甘さを調整しようか。」

「ぃやったー!」


 そんな喜びの声を聞き流しながらも、沸騰しだしたお湯でティーポットとカップを洗い流し、再度火にかける。

 そこで再度沸騰してボコボコと音が立ったら、茶葉をティーポットへ入れて高い位置から勢いよくお湯を注ぎ込んで、四、五分程蒸らす。この際に、中で茶葉が踊り、色と香り、味が付いていくのだ。

 その間に花梨と檸檬を薄い輪切りにして準備しておけば、蒸らし終えた紅茶をカップに注いだ後に輪切りを浮かべて完成となる。


「ほら、出来たぞ。」


 蜂蜜は好みで入れて、後で調節する方が良いだろう。

 何せ砂糖と一緒で、甘味料だしな。少ないと物足りないし、多すぎると甘すぎて飲めなくなる。

 好みは人それぞれだ。


「ありがとー!」


 そんなティーセットを台所と一緒になっている食卓へ運んでやると、既にクッキーに齧り付いていた顔が勢いよく振り向いて来た。

 口いっぱいに頬張って、パンパンになってるところなんかはまるで栗鼠リスみたいだ。これで子供じゃないというのだから、見た目詐欺だと思う。


「好きに食べてていいからな――俺は作業してるから。」

「作業?」


 口いっぱいに頬張っても、普通に発音してみせるペンギン妖精に伝えると、キョトンと首を傾げられた。

 まぁ、言っても理解はされないだろうと、作業を再開する為に台所へと戻る。


 今の時代、錬金術師は詐欺師扱いを受けている。下手に口にしてもトラブルの元だ。しばらくは魔法使いか、魔術師と名乗るしか無いだろう。

 その為に最初から説明を放棄して、今まで繰り返していた作業に戻ったんだが、これが難航するのなんの。どんだけ難しいんだよ、これ。


「水、水、水――あ、あ。」


 最早条件反射並に素早く生み出される水球。

 しかし、この水球に籠められているのは魔力であって魔素ではない。つまりは、失敗だ。

 ポシャンッと音を立ててフラスコの中に溜まった水を眺めつつ考え込む。


「うーん、何が原因だろう。」


 魔素を水の中へ閉じ込めたいのに、肝心の空気中にある魔素を魔力に変換してしまって、結果的にそれが水に変わってしまう。

 それを作っては流し、作っては流し、一向にコツが掴めなくて、諦めるしかないのかと思っていたところに、


「何してるのー?」

「ん?」


 足元から声が掛かってきて、視線を下げた。

 作業を中断して見下ろせば、口の中で飴を転がしているのとか、時折モゴモゴとさせながらもペンギン妖精が見上げて来ていた。


「何なにー?お困り事ー?相談くらいなら乗るよー?」

「お、おう。」

「何でも言って―?お菓子のお礼ー。」


 気安い感じでそう言うと、椅子を引きずって来て、その上に乗った状態で胸を張られた。


「えへん。こう見えて、長生きしてるんだからね。」


 妖精種というのは、大抵が人間よりも寿命が長い。故に、俺より年上だろうと何もおかしくは無かった。

 ただ、それでも俺の胸辺りなのが、微笑ましいというか何というか。やっぱり小さな子供にしか見えなくて、言動共々幼く映る。

 だがしかし――お礼と言うなら、甘えさせて貰うとしよう。現状は行き詰まっているしな。


魔力回復薬マジックポーションを作ろうと思っててさ。でも、上手く行かないんだよ。」


 正直にそう話して水球を生み出して見せると、


「んー、それは、待機中の魔素にまで水に変えてるからじゃない?」

「お、分かるのか?」

「うん。」


 意外にも話についてきた。

 その様子に、俺は話が出来るのかと期待する。


「これをどうしたら、魔力に変える事無く、大気中の水分に魔素を溶け込ませようかと思ってるんだが――。」


 理論上は、これが出来れば量産だって可能なはずである。

 そう思って、ついつい口にしたんだが、


「えー?それは無理じゃないかなぁ?溶け込むには時間が必要だしー、圧縮させるのも難しいしー。」


 即座に否定的な意見が返ってきて、やっぱり無理かと肩を落した。

 それでも往生際が悪く、


「けど、過去には魔力回復薬は作られてたんだよ。」


 と呟けば、以外な返事が返ってきた。


「あー、大昔の錬金術師達ねー。あれの製法はまた別だよー?」

「――へ?」


 予想外な展開。いや、マジで予想外だ。

 別だというなら、それを一部でも知り得ているという事である。

 長生きしているというのは、どうやら伊達では無いらしい。


「作り方、知ってるのか?」

「うん。」

「おお。」


 これに俺の表情が変わったのに気付いたのか、ニヤリと笑みを浮かべるペンギン妖精。

 ただ、浮かべられた笑みは、子供っぽさなんてどこにもない。狡猾さが伺える表情だった。

 その邪気溢れる笑顔に、思わず後退ってしまう。


「――お菓子。」

「へ?」


 ただ、そんな中にかかってきた言葉に、俺は目を瞬かせた。

 お菓子?お菓子が何だ?

 そう疑問に思っていると、


「お菓子、用意してくれたら、いいよー?」


 途端に邪悪さが引っ込んで、ニコニコと子供らしい笑みで返された。

 さっきの笑みは何だったんだってくらいに今の笑みは違って見えるから不思議だ。

 あの邪悪さはどこから来た?そしてどこへ行った?演技か?こっちの無邪気な感じは演技なのか!?

 ――何か、謎な生物と遭遇した気分である。


「えっと、お菓子でいいのか……?」

「うん。」


 それでもニコニコとしたままに頷かれて、食卓に置いたはずの菓子類に咄嗟とっさに目を向けていた。

 そこには、綺麗に食べつくされた後の皿とティーセットだけが残っている。瓶に入ってたはずのハチミツさえ、綺麗に無くなっていて残ってはいない。

 全てを食い尽くされた後は、山盛りになっていたはずの菓子もお茶もどこにもその影が無かった。


「もう全部、食べたのか……。」

「うん。」


 食べる速度、やけに早いなとは思った。思ったさ。

 しかし、クッキー百枚とかどこに入ったんだよ!?ビスケットも同じくくらい置いてたはずだぞ!?あと、飴も蜂蜜も残ってないって、どこに消えたんだ!?


「出来たらねー、クッキーとかアメとかビスケット以外も食べたいんだー。パイとかー、タルトとかー、ケーキとかー。」


 そんな俺を前にして「後、お饅頭まんじゅうもいいなぁ?」なんて呟かれる。

 一応、疑問に思ったのは置いておくとして、とりあえずは考えてみよう。


 これは取り引きである。


 俺が習得していない過去の錬金術のレシピ。それも、魔力を回復させる魔法薬ポーションのレシピが提案されてきた品だ。

 魔力回復薬は、宮廷錬金術師とか一部の間でしかその製法を知る事が叶わなかった。まさに上位に位置する物の一つで、色々と逸失した物が多い現代では、秘伝と言っても過言では無いだろう。


 それに対する報酬が、まさかの菓子類全般。

 幸いにしてその手の素材は豊富にあるし、取り引きに応じる事は可能だ。作るのも一時期趣味で嵌った事があるので、大半の物が作れる。

 ただ――どのくらい食べるのかが分からない。何せ、クッキーとビスケットだけで二百枚程あったのに、あっさりと食べきるのだ。その上で、まだ欲しいと強請られるとなると、相当な大食漢らしい。

 そこだけが取り引きとしてはネックだが、まぁ、飽きるまで食わせる程には足りると思われる。

 問題は、


「ケーキは生クリームが手に入らないから無理かな。饅頭は小豆は無いけど、他の豆で代用していいのなら出来る。パイとタルトは果物とカスタードで作ればまぁ可能だな。後はプリンとかシュークリームとかか――。」

「プリン!プリンいいね!シュークリームも好きー!」


 作れない物もあると告げてみたんだが、それよりも他に上げた品にキャッキャッと喜ばれた。

 その姿は、マジで幼児にしか見えない。さっきの邪悪さは一体どこへ?

 しかし、魔力回復薬のレシピを覚えてるというのだ。これに、取り引きに応じない手は無かった。

 それくらいには、このレシピは価値がある。


「んじゃ、覚えるまで頼めるか?その間、好きなだけ菓子でもジュースでも提供してやる。」

「本当!?ぃやったー!」


 この発言が、後々に転がり込む人間を増やす事になるとは、この時の俺は気付かない。


 転がり込んでくる人物は、大体予想通りかと。

 もっとも、主人公がOKを出せない者はこの限りではありませんし、叩き出されます。餌付けが趣味というわけではないですしね。


 2018/11/09 加筆修正を加えました。


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