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081 その錬金術師は自宅を目指して旅をする①

 元第一王妃の処刑を確認してから、王と二人きりで話し合った結果を森に残して、一人で街道をひた進む。

 多分、誰かに発見される前に森に残したものは、魔物に食われるのがオチだと思う。

 だが、そこはそれだ。見つかっても見つからなくても、あんまり大差無いし別にどっちでも良い事なので、気にしない事にした。


 今重要なのは、下手に絡んでくるやからを盛大に潰す事である。

 例えばそう――目の前にノコノコと出てきた、盗賊とか盗賊とか盗賊とか。


「――馬鹿じゃね?」


 一人旅が出来るような奴が、弱いわけがないだろう。ちょっとでも考えれば、分かりそうな事である。

 ましてや、俺を女と間違えて声をかけてくるとか、自殺行為もいいところだった。

 結果的に、


「今の俺、凄く機嫌きげんが悪いんだぜ?なのに地雷じらいむとか、どんだけ無能だよ。」


 盗賊の皆様は見事にカッチカチになっていた。

 岩か何かかってくらいに、固くて削れそうも無い。軽くこぶしで叩けば、コンコンと硬質な音が返ってくる。まさにカッチコチ。

 良い具合に凍結の効果が高く出てるなぁなんて、場違いな感想が浮かんできたくらいだ。


「今までで一番の出来かもしれないな、これ。透明度良し、硬質さ良し、氷の厚みも上々。それでいて全く疲れていない。うん、絶好調だな。」


 ちょっと前に体調を崩したが、今はそんな感じも全くしない。

 良い具合に魔力も使いこなせているし、城で暴走させそうになったのは、多分体調が悪かったせいだ。それで間違いは無いだろう、きっと。


 ただ、街道をふさぐように氷像が佇んでいるのはいただけない。しかも、場所が森に囲まれたカーブの途中というのもあって、知らずにぶつかる人が出そうだった。

 かといって、俺の腕力で動かすのは無理がある。そもそもとして、後先考えずにぶっ放した弊害へいがいで、地面にくっついた状態で凍ってしまった。これじゃぁ動かすには削り出す必要が出るだろう。

 ――どうしようかね?


「うーん、うーん。」


 良い方法が浮かばずに悩む俺の背後から、しばらくしてガラガラと聞こえてくる、馬車の音。

 それに振り返れば、先頭を引いていた御者ぎょしゃと目が合った。おどろいたように目を丸くしている。


「おーい、止まれ!ぶつかるぞ!?」


 思わずそう呼びかければ、


「どうどう!どう!どうどう!」


 慌てた様子で馬を止めた御者の左右から、武装ぶそうして駆け込んでくる集団が目に映った。


「――あ?」


 敵かと一瞬身構えたが、よく見たら盗賊のようなこびりついた汚れらしきものが見えない。格好はバラバラながらも、至って清潔な姿でひげだって整えられていた。

 そんな彼等があっという間に展開して行き、護るようにして馬車を背後に控えさせる。よく見たら馬車は、質素ながらもたっぷりと荷が乗せられてあった。

 馬車を操っていた御者は帯剣すらしてないところを見るに、完全に非戦闘員だろう。顔が引きっているように見えたが、商人かね?

 となると、


「もしかして、こっちは冒険者か?」


 統一されていない防具を身に付け、武装しているが盗賊ではない者達。有り得るとしたらそのあたりだろう、きっと。

 そう気付いて尋ねれば、すぐに肯定の返事が返ってきて質問を返された。


「ああ、そうだ――そこにあるをやったのは、あんたか?」

「そうだが?」

「まさか、一人?」

「ああ、それがどうかしたか?」


 そこというのは、俺の近くで凍り付いたままの盗賊の事で間違いは無いだろう。

 俺は頷いて返しつつも、首を傾げて見せる。

 ただ、会話が途切れた瞬間に、それまで黙っていた連中までもが口を開いて収拾がつかなくなってしまった。


「え?んなわけないよね?他に仲間が居るんだろ?」

「残りは森の中か?」

「残党を追ってる最中とか?」

「だからって、一人を残すか?普通、有り得ないだろそれは。」

「あの人、美人だしなぁ。」

「うんうん。」


 ガヤガヤと会話し始めたその集団に、俺はげんなりしつつも口を開く。


「――矢継やつばやに質問するのは止めてくれないか?答えるひまも無いぞ。」

「ああ、すまん。ちょっと、他の者は黙ってろ!交渉は俺がする。」

「「はーい。」」


 一人が代表になる事で、外野は黙る事にしたらしい。

 そうなるまでの会話といい、緊張感足りなくないかと思ったが、言ったらまたうるさくなりそうだったのでこちらも黙っておく。


「一応尋ねるが、盗賊のたぐいでは無いよな?」


 聞かれて、


「そう見えるか?一応これでも、魔術師なんだが。」


 俺は自身の格好を見下ろして、再度首を傾げた。

 今身に着けているのは、フード付きのローブだ。色は目立たないだろう鼠色ねずみいろ。つまり、かなりダサい。

 それでも、生地はそれなりに上等な品である。厚みもあるし、撥水性も備わっている高級品だ。城を出るに当たって王から渡された報酬の一つだが、機能面で見るならまぁ悪くは無い品だろう。

 ただ、流石に雨が降ってるわけでもないのにフードを被る気は全く無い。なので頭部は晒したままだったのだが、そのせいかつい先程盗賊に絡まれてしまって、ぶっ潰したところだ。


「――すまん、魔法使いと何が違うんだ?」


 そんな俺の返しに、どうやら違いそのものを知らないらしくて、首を傾げられる。

 俺はそれに目を瞬いて返した。


「魔法使いはイメージによって超常現象を引き起こす。魔術師は触媒しょくばいとなる物を用いて超常現象を引き起こす。前者は魔力の消費が大きいが、応用が効きやすい。後者は魔力の消費が少ないが、応用が余り効かない。これで分かるか?」

「あ、ああ。なんとなく分かった。」

「そりゃ良かった。」


 魔法使いと魔術師の違いを伝えたところで「それで?」と返す。

 何やら今の説明でも理解出来なかったのか、一部が「触媒?」と疑問そうな声を上げていたが、総スルーだ。


「一人、なんだよな?」

「ああ。家に戻るところだし、腕はあるからな。結果はほら『ここ』にあるだろ?」


 そうして拳でコンコンと叩いて見せる。

 完全に氷の中に閉じ込められている盗賊は、死ぬ瞬間にも気付けなかったようで、間抜け面を晒したままに凍り付いていた。

 叩くとめっちゃ良い音がするんだが、夏場でも残念ながら溶ける気配が無い。どうも魔力を込めすぎたようで、地面の下まで凍っている様子だ。

 マジでこれ、どうしようか?


「これを一人でやったっていうのか――。」


 そんな氷像を前に、どうやって動かすか悩んでいると、暇なのか馬車の護衛だと思われる一団から一人がやって来て、違う氷像をコツコツと爪先で蹴っていた。


「うお!?めっちゃ固い、なんだこれ!?水晶クリスタルか!?」

「いやいや、どう見ても氷だろ。街道にいきなり水晶が生えるとか、鉱山夫達が泣くぞ。」


 漫才のようなやり取りを始めた横では、危険が無いと判断したのか、代表だった者が他の者に向けて「おーい」と声を掛けていた。

 どうやら隊のリーダーとかそんなところらしい。歳もそれなりだし、頭脳面で上に立ってるんだろう、きっと。


「全員構えを解け。やめだやめ、こんなのもうどうにもならん。」


 構えて向けられていた弓や剣が、一斉に降ろされる。

 どうやら危機は去ったらしい。何気に怖かったので、こちらとしても助かる話だ。


「しかし、凄いな――こんなに綺麗な氷は初めて見る。」


 近付いてきたリーダーらしき壮年の男に向けて、俺も目の前の氷を見ながら返す。


「俺もここまで綺麗に出来たのは初めてだよ。中に入ってるのが小汚い盗賊じゃなかったら、もっと良かったんだがな。」

「まさか、美女でも入れるつもりか?」


 なんでそこで美女になったのかは分からないが、俺は首を横に振って答える。


「それこそまさかだろ?俺は犯罪者じゃないぞ――入れるなら花とか色水。それに白い氷で細工も施せば、芸術アートとしては中々になりそうだと思わないか?まぁ、溶けてすぐに無くなるだろうが。」


 氷の欠点。それは溶ける。

 冬なら翌日まで残ったりとかもするだろうが、残念ながら今の季節は夏。一夜すら保たない事だろう。

 それでも、暑さを和らげたりするのには一役買ってくれる。涼みがてらに見て貰う分には悪くは無い。


「確かに、見世物としてなら使えそうですね。ただ、ここだと移動の邪魔になりますし、どうにかしていただかないと。」

「「あ。」」


 そんな俺達の会話に混ざってきたのは、御者だったはずの男性。

 彼の発したこの言葉で、俺も冒険者達も状況を思い出して、揃って平謝りする事になった。


 2018/11/01 加筆修正を加えました。安定の誤字発見orz

 2018/11/02 更に加筆修正を加えました。誤字の次は脱字がーorz


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